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洗練よりも、原点にあるまごころを

形式よりも、心が宿る素朴さを選ぶ

孔子は、礼儀や音楽(礼楽)が時代とともに洗練されていく中で、古き素朴な形にこそ本質が宿ると説いた。

古代の礼楽は、粗削りながらも人のまごころがこもっていた。
時代が下るにつれ、洗練された形式美が加わり、見た目には立派になったかもしれない。
しかし、もし選べるなら、自分は原点である「先人たちの素朴な礼楽」に従いたい――孔子はそう語る。

形式の美しさに惑わされず、本来の意味や精神を見失わないこと。
文化の進化にあっても、心の原点を見失わない姿勢こそ、孔子が大切にした態度である。


引用(ふりがな付き)

子(し)曰(い)わく、先進(せんしん)の礼楽(れいがく)に於(お)けるや、野人(やじん)なり。後進(こうしん)の礼楽に於けるや、君子(くんし)なり。
如(も)し之(これ)を用(もち)うれば、則(すなわ)ち吾(われ)は先進(せんしん)に従(したが)わん。


注釈

  • 礼楽(れいがく):礼儀作法と音楽。社会秩序と精神の涵養を担った制度。
  • 野人(やじん):未洗練で飾らない人々。素朴さと誠実さの象徴。
  • 君子(くんし):この文脈では洗練された者。外面は整っていても、内面のまごころが伴わないこともある。
  • 先進・後進:周の初期(先進)と後期(後進)を意味し、孔子は初期の素朴さを重視した。

1. 原文

子曰、先於禮樂野人也、後於禮樂君子也。如用之、則吾從先。


2. 書き下し文

子(し)曰(いわ)く、礼楽(れいがく)に於(お)いて先(さき)んずるは野人(やじん)なり。礼楽に於いて後(おく)るるは君子(くんし)なり。如(も)し之(これ)を用(もち)うれば、則(すなわ)ち吾(われ)は先(さき)に従(したが)わん。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「子曰く、礼楽において先んずるは野人なり」
     → 孔子は言った。「礼儀や音楽において最初に習熟したのは、地方の素朴な人々(=野人)である」
  • 「礼楽において後るるは君子なり」
     → 「後から学んだのは、教養ある立派な人(=君子)たちである」
  • 「もしこれを用うれば、すなわち吾は先に従わん」
     → 「もしどちらの方式を採用するかというなら、私は先に習熟した野人のやり方に従うつもりだ」

4. 用語解説

  • 礼楽(れいがく):礼=礼儀・道徳秩序、楽=音楽や芸術的教養。共に古代中国で社会秩序を保つための根本とされた文化的制度。
  • 野人(やじん):中央の文化や権威から遠い、素朴で実直な地方民や庶民のこと。ここでは“粗野”ではなく、素朴で本質を体得している者という意味。
  • 君子(くんし):道徳や礼儀に通じた立派な人、理想的な人格者。一般には尊敬される存在だが、ここでは「形式を重視する後発者」の意味合い。
  • 先進・後進(先・後):文化的慣習において、どちらが早く取り入れ、自然な形で実践しているかの区別。
  • 如用之(これを用うれば):「どちらかを採用するなら」という仮定。
  • 吾從先(われは先に従わん):孔子自身の判断として「自然で本質的なやり方を選ぶ」という意味。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孔子はこう述べている:

「礼儀や音楽に最初に精通したのは素朴な地方の人々であり、それを後から学んだのは教養ある人たちだ。もしこのどちらを採用するかと問われれば、私は先に習熟した素朴な人々のやり方を選ぶ。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、形式より本質を重んじる孔子の姿勢を表しています。
たとえ「教養ある君子」が礼儀をよく理解していても、それが形式的で心がこもっていなければ意味がない。
一方、地方の素朴な人々は、形式にとらわれずとも心から礼楽を体得している場合がある。だからこそ孔子は、その「本質に忠実な実践」を重んじているのです。

つまり、「誰が立派に見えるか」ではなく、「誰が真に礼楽を体現しているか」が問われているのです。


7. ビジネスにおける解釈と適用

❶「形式美より、内実のある実践を重視せよ」

– 礼儀や会議の進行など、表面上の「マナー」や「ルール」だけを守っていても、中身が伴っていなければ信頼は生まれません。
– 現場で長く経験を積んだスタッフや、地域に根ざした取引先など、「見た目より本質を知っている」人々の声にこそ価値がある場合があります。

❷「“後進の君子”より、“先進の野人”を評価せよ」

– 新卒や形式重視のエリートだけでなく、泥臭く積み重ねてきた職人・ローカルプレイヤーなどの“実力派”の知見を尊重する姿勢が重要です。

❸「導入の順番を見よ──本質を体現しているのは誰か?」

– ある文化・施策・行動規範において、“後から学んだ人々”より“自然と実践している人々”の方が本質的であることがあります。例えば、CS(顧客対応)文化、ES(従業員満足)文化など。


8. ビジネス用心得タイトル

「礼は心に宿る──“形式美”より“素朴な実践”を尊べ」


この章句は、見た目にとらわれず、誠実で自然な行動が真の文化を作るという孔子の思想を表しています。
ビジネスにおいても、制度や形式だけにとらわれず、現場の実感・実践から学ぶ姿勢が何より大切です。

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