多くの企業を訪れるたびに感じるのは、販売体制の脆弱さだ。売上がなければ増収も増益も不可能であるにもかかわらず、この問題に対する経営者の意識の低さが原因となっている。
年商40億円の雑貨メーカーであるIS社には、営業担当がたった10名しかいない状況だった。この状態を見た私は、少なくとも年商1億円ごとに1人のセールスマンが必要だと提案したが、社長にとっては全く予想外の助言だった。ここで言う「年商1億円に1人」という基準は、一般的なものではなく、この会社の現状を踏まえて最低限必要だと考えた人員数を示している。
それでもS社長は私の提案を受け入れ、営業担当を増やす方針を進めた。その結果、2年後にはセールスマンの数が40名にまで増加し、年商は70億円にまで成長していた。しかし次の段階として、セールスマンを70名に増やす計画を立てたところ、今度は生産体制が追いつかないという新たな課題に直面することになった。
セールスマンの適正な人数は、状況によって大きく異なる。特に市場の規模や性質が影響するが、一般的な目安として、メーカーの場合は年商5,000万円から1億円につき1人が妥当と考えられる。一方、流通業ではこれより2~3倍多めの人員が必要となることが多い。この基準はあくまで目安であり、具体的な戦略や業界の特性によって調整が必要になるだろう。
とはいえ、戦略地域を細分化した場合、状況次第では年商500万円規模のエリアにおいても、専属のセールスマンを1人投入する必要が出てくることがある。このようなケースでは、市場規模だけでなく、地域特性や成長可能性、顧客密度といった要素を考慮しなければならない。そのため、単純な基準だけに頼らず、柔軟な対応が求められることを忘れてはならない。
この市場戦略というものは、多くの社長たちにとって理解しづらいものだ。しかし、競争社会には競争原理が存在し、その代表的な理論が「ランチェスターの法則」だ。この法則は、戦力の集中と効率的な配置が競争においていかに重要であるかを示しており、ビジネスの現場でもその応用が求められる。だが、これを実際に取り入れるには、戦略的な視点と現場の状況を的確に把握する能力が必要だ。
社長という立場にある者は、「ランチェスターの法則」を深く理解し、その原則に基づいて効果的に活用することで、初めて市場での成果を手にすることができる。この法則を知識として持つだけでなく、具体的な戦略に落とし込み、実行に移すことが求められる。そして、そうした市場戦略を構築する責任は、まさに社長自身にある。戦略の成否が企業の将来を左右する以上、社長が先頭に立ち、全体を指揮する覚悟が必要だ。
ランチェスターの法則を理解していれば、セールスマンの活動は単なる自由意思に任せた行動ではなく、一貫した戦略に基づく「用兵」であることが明確になる。個々のセールスマンは戦術の一部として配置され、その動きは全体の戦略に沿って調整されるべきだ。そして、状況の変化に応じて適切に采配を振るうのが社長の役目であり、その采配こそが戦を勝利に導く鍵となる。市場という戦場で勝つためには、社長が戦略家としての役割を果たすことが不可欠だ。
ランチェスターの法則とその具体的な戦略については、「販売戦略・市場戦略篇」で詳しく述べているので、そちらを参照してほしい。この法則は最近になって少しずつ理解が広まりつつあるが、それを実戦に応用できている企業はまだ少数派だ。その障壁となっているのが、いわゆる「天動説」の発想である。自社を中心に物事を考え、お客様の立場を置き去りにする姿勢が、真の市場戦略を遠ざけている。市場は常に動いているという「地動説」の視点で考えなければ、競争に勝つことは難しい。
ランチェスターの法則であっても、お客様の要求に優先するものではない。この法則はあくまで手段であり、目的ではない。お客様のニーズをより的確に、より効果的に満たすための道具として活用されるべきだ。法則そのものに固執するのではなく、それを使っていかにお客様に価値を提供するかが、真に重要なポイントである。
企業の本質は、顧客へのサービスに尽きる。全ての活動はお客様を中心に展開されるべきだ。「一にお客様、二にお客様、三にお客様、十にお客様、百にお客様」といった徹底した顧客志向こそが、企業の存在意義を支えている。正しいサービスを提供し、それに見合う正当な報酬を得る。このシンプルな原則を忘れることなく、常にお客様の視点から行動することが、企業の成長と信頼構築の鍵である。
正しい報酬を受け取れない場合、それは結果的に正しいサービスとは言えなくなる。なぜなら、「これだけ安いのだから、品質が多少落ちても仕方がない」「サービス品だから、配送が遅れても問題ない」といった妥協が生まれやすくなるからだ。そのような状況では、本来のサービス精神が徐々に損なわれていく危険性が高い。そして、一度サービス精神を失えば、お客様の信頼を失うのは時間の問題だ。最終的には、お客様に見放されるという結果を招き、企業の存在そのものが脅かされる。正しい報酬を受けることは、真にお客様のためのサービスを持続可能なものとするための基盤なのである。
市場戦略は、会社の成長や存続に不可欠な要素であり、特に社長がその戦略を理解し、率先して推進することが重要です。会社が市場で成功するためには、単に良い製品を作るだけでなく、それを適切に売り込むための「販売体制」と「市場戦略」が必要です。
販売体制の強化
販売体制の整備は、収益を確保するための基本的な要素です。例に挙げた雑貨メーカーのように、販売の人員不足が売上停滞の要因となっていることが多々あります。年商一億円に一人のセールスマンが必要とされるように、セールスマンの数は市場の規模に応じて決定するのが基本です。ある地域で成功するためには、その地域の状況に応じて、必要に応じた人員を投入する柔軟な戦略が求められます。
ランチェスターの法則
市場戦略を考えるうえで「ランチェスターの法則」は基本です。この法則を理解することで、どの市場で、どのようにセールスマンを配置するか、また、競合相手に対してどのように優位に立つかを計画できます。ランチェスターの法則は、戦略を基にした「用兵の法則」と言え、社長が一貫性をもって状況に応じた適切な指揮をとるための有効な指針になります。
顧客の立場を忘れない
ランチェスターの法則やその他の販売戦略も、お客様の立場やニーズを中心に据えて考えられるべきです。企業活動の基盤は「顧客サービス」であり、顧客の満足を追求することが、売上や信頼につながります。いかに良い戦略でも、顧客のニーズに背いたものであれば、成果は期待できません。
正しいサービスと報酬
適正な価格で適正なサービスを提供することは、企業の信頼を築くために欠かせません。「安さを追求するあまり品質が落ちる」「サービスの遅れが許容される」というような考えは、長期的には顧客からの信頼を損ないます。顧客からの信頼を得るためにも、サービスと報酬のバランスを保つことが重要です。
このように、社長自らが市場戦略と販売体制の重要性を理解し、それを顧客の立場から一貫して推進することが、企業を成功に導く鍵となります。
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