過去を引きずらず、怨みに囚われぬ心が、徳を生む
孔子は、殷から周へと王朝が移る激動の時代において、節義を守って餓死した伯夷と叔斉について次のように語った。
「彼らはたとえ不正を見ても、その不正を働いた人そのものを憎むことはしなかった。
また、過去の悪事をいつまでも根に持つようなこともなく、怨みに生きることがなかった。
だから、彼ら自身も人から怨まれるようなことがなかったのだ」と。
ここで孔子が称賛したのは、**「悪を悪として明確に認識しながらも、それに囚われず、人を赦す姿勢」**である。
怒りや憎しみは、自分の内に長くとどめると、心を蝕み、周囲との関係も損ねる。
しかし、伯夷・叔斉のように、過去に固執せず、潔白さを保ちながらも寛容であろうとすることが、真に高潔な人の道だという。
原文とふりがな付き引用
子(し)曰(いわ)く、伯夷(はくい)、叔斉(しゅくせい)は旧悪(きゅうあく)を念(おも)わず。
怨(うら)み、是(これ)を用(もち)いて希(まれ)なり。
過去の悪を引きずらず、人を憎まずに生きる。
それこそが、徳のある人の品格である。
注釈
- 伯夷・叔斉(はくい・しゅくせい)…孤竹国の王子。殷から周への王朝交代に際し、義を守って周に従わず、食を断って餓死したことで知られる。
- 旧悪を念わず…過去にされたこと(不正や裏切り)をいつまでも恨みに思わない。
- 怨み是を用いて希なり…人を怨むということが非常に少なかった=心が澄みきっていたという評価。
コメント