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小さな天地としてのわたし、大きな天地としての世界

自分の心と体は、それ自体が一つの小さな宇宙(小天地)である。
その中で、喜びや怒りといった感情が乱れず、好き嫌いの判断も自然の理(ことわり)に則っていれば

そこには静かで美しい調和が生まれ、人生そのものが整っていく。

また、天地(自然)は万物を生む「大いなる父母」であり、
その恩恵の中で、すべての人がうらみや嘆きを持たず、
あらゆるものが障りなく過ごすことができれば、
そこには思いやりに満ちた、仲むつまじい理想の世界
が広がる。

個人としての調和と、世界としての調和――
この二つが重なったところに、理想的な生き方と社会の姿がある。


原文(ふりがな付き)

吾(われ)が身(み)は一小天地(いっしょうてんち)なり。喜怒(きど)をして愆(あやま)らず、好悪(こうお)をして則(のり)有(あ)らしめば、便(すなわ)ち是(こ)れ燮理(しょうり)の功夫(こうふ)なり。天地(てんち)は一大父母(いちだいふぼ)なり。民(たみ)をして怨咨(えんし)無(な)く、物(もの)をして氛疹(ふんしん)無からしめば、亦(また)是れ敦睦(とんぼく)の気象(きしょう)なり。


注釈

  • 一小天地(いっしょうてんち):個人の身体と精神を小さな宇宙になぞらえた表現。人間の内面世界。
  • 愆らず(あやまらず):誤ることなく、過ちがない状態。感情の暴発を防ぐ。
  • 則有らしむ(のりあらしむ):理(ことわり)=道理に従わせること。
  • 燮理(しょうり):調和、バランス。自然と心を和らげ、整える功夫(努力)。
  • 一大父母(いちだいふぼ):天地(自然界)を万物を生み育てる親のように見る、東洋思想の核心。
  • 怨咨(えんし):人々のうらみや嘆き。社会的不和の象徴。
  • 氛疹(ふんしん):わだかまり、さわり。万物の間にある衝突や不調和。
  • 敦睦(とんぼく):情が厚く、調和に満ちた関係性。友愛の精神。

※この思想は『老子』や『荘子』、さらには佐藤一斎の『言志四録』にも通じる、「万物一体」「天地自然との一体感」に基づいた東洋思想の本質的な教えです。


パーマリンク(英語スラッグ)

  • harmony-within-and-without(内にも外にも調和を)
  • small-self-great-universe(小さき自我と大いなる天地)
  • ideal-life-ideal-world(理想の生き方、理想の世界)

この条文は、**「人は自然の一部である」**という思想のもと、個人の在り方と世界の在り方を見事に重ね合わせています。
私たちの心が調和を保てば、社会もまた調和へと近づく――個の完成が、全体の理想につながるという壮大な哲理です。

精神を調え、自然と共にある生き方を追求したいすべての人に向けた、美しい終章のような教えといえるでしょう。

目次

1. 原文

吾身一小天地也。
喜怒不愆、好惡有則、便是燮理之功夫。
天地一大父母也。
民無怨咨、物無氛疹、亦是敦睦之氣象。


2. 書き下し文

吾が身は一小の天地なり。
喜怒をして愆(あやま)らず、好悪をして則(のり)有らしめば、すなわち是れ燮理(しょうり)の功夫なり。
天地は一大の父母なり。
民をして怨咨(えんし)無く、物をして氛疹(ふんしん)無からしめば、また是れ敦睦(とんぼく)の気象なり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 吾が身は一小の天地なり。
     → 自分自身の存在も、小さな宇宙(天地)のようなものである。
  • 喜怒をして愆らず、好悪をして則有らしめば、すなわち是れ燮理の功夫なり。
     → 喜びや怒りの感情を間違った方向に使わず、好き嫌いにも一貫した基準があれば、これは心を調和させる修養の賜物である。
  • 天地は一大の父母なり。
     → 天地自然とは、人類と万物を育てる大いなる父母である。
  • 民をして怨咨無く、物をして氛疹無からしめば、また是れ敦睦の気象なり。
     → 人々に不満や嘆きがなく、自然界にも濁りや病がなければ、それは調和と平和の気配である。

4. 用語解説

  • 一小天地:人間の身心は、宇宙の縮図であるという東洋思想。
  • 愆(あやま)り:誤り、過ち。ここでは感情の暴走など。
  • 則(のり):規範、道理、原則。
  • 燮理(しょうり):万物を調和させ、適切に整えること。心身のバランスを保つ修養。
  • 一大父母:天地自然は、すべてを生み育てる存在=父母のようなものという比喩。
  • 怨咨(えんし):恨みや嘆き、不平。
  • 氛疹(ふんしん):自然界の濁りや不調和、病的な気配。
  • 敦睦(とんぼく):親しみあい、和らぎ合うこと。社会や自然との円満な関係。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

自分の身も、宇宙の縮図である。
喜びや怒りを正しく使い、好き嫌いに道理をもたせられれば、これは心を調和させた修養の成果である。
天地自然は万物を育む大いなる父母であり、
人々に不満がなく、自然界に濁りがなければ、それはまさに平和と親和の理想的な状態である。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「個人の心の調和と、世界の調和は響き合っている」**という、東洋的な宇宙観と倫理観を語っています。

  • 自分の心の秩序が乱れれば、世界にも乱れを及ぼす
  • 個人の調和=社会の調和=自然の調和という三位一体の視点。

「私一人の乱れは小さい」と思いがちだが、心の平穏が世界の平穏と通じているという思想は、現代にも深い示唆を与えます。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 「感情のコントロールは、組織の空気を左右する」

リーダーやマネージャーが、怒りをぶつけたり、好き嫌いで人を扱うと、職場全体の空気が荒れる。
→ 感情に偏らず、**公平かつ理性的に判断する力=“燮理の功夫”**が組織を安定させる。


● 「自律した個人こそ、健全な組織をつくる」

社員一人ひとりが、感情や好悪を自己制御できれば、
職場に不平・不満・争いは減り、自然と協調の空気が生まれる。
→ 心の秩序が、集団の秩序を生む


● 「企業も社会の一部、“大きな自然の子”として調和を目指す」

企業活動もまた、自然や社会との調和の中にある。
環境負荷、地域との関係、従業員の幸福──
“天地の父母性”を意識すれば、CSRやSDGsも自ずと意義深くなる。


8. ビジネス用の心得タイトル

「心を調え、組織を調え、世界を調える──内なる宇宙が外の秩序を創る」


この章句は、「秩序は内面から始まる」という深い真理を語っています。
個人の感情、職場の空気、社会の在り方──
これらすべては繋がっており、“調和する心”が世界に波及する力を持つのです。

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