この世をうまく生きていくためには、
世俗の人々とまったく同じではいけない。自分を失ってただ従うだけでは、自立した人格にはなれない。
しかし逆に、人とまったく異なる行動をとって孤立するのも、また誤りである。
特異さを誇るだけでは、調和を失い、物事は成就しがたい。
また、何かを成し遂げようとするなら、人に嫌われるほど強く反発するのは避けねばならない。
だが同時に、人の顔色をうかがい、迎合してばかりでは、真の実力も信頼も築けない。
つまり――
- 「人と調和はするが、安易に同調しない」
- 「人に不快感を与えないが、媚びへつらうこともしない」
このように、自己を保ちつつも周囲との調和を壊さない姿勢こそが、
君子(人格者)のとるべき中庸の道であり、
人生における最も深い処世術なのである。
原文(ふりがな付き)
「世(よ)に処(しょ)しては、宜(よろ)しく俗(ぞく)と同(おな)じかるべからず。
亦(また)た宜しく俗と異(こと)なるべからず。
事(こと)を作(な)すには、宜しく人(ひと)をして厭(いと)わしむべからず。
亦た宜しく人をして喜(よろこ)ばしむべからず。」
注釈
- 世に処して:この世で人として生きていく、世渡りをする。
- 俗と同じ:世間一般に流されること。
- 俗と異なる:世間を拒み、孤立すること。
- 厭わしむ:嫌がられること。
- 喜ばしむ:喜ばせる、媚びへつらうこと。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
harmonize-but-don’t-conform
(調和せよ、されど流されるな)live-without-pleasing-or-offending
(迎合せず、反発せず)true-balance-in-society
(社会での真のバランス)
この条は、まさに現代においても最も難しい**「自分らしさ」と「協調性」の両立**を見事に言い表しています。
「みんなと違う」だけでは孤立し、「みんなと同じ」だけでは無個性。
“自分を失わず、他人を害せず”という生き方こそ、真の成熟といえるでしょう。
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