無口すぎて何を考えているのかわからない人には、
こちらも軽々しく本心を明かすべきではない。
それは壁のような沈黙であり、信頼の通路が開かれていないからだ。
また、感情的に怒りやすく、自分ばかりが正しいと信じ込む人には、
口を慎み、距離をとることが賢明である。
そうした相手に対して言葉を重ねても、対話は成立せず、むしろ災いを招くおそれがある。
人を見極め、言葉を選び、距離を定めること。
それは冷たさではなく、自己を守り、相手を見守る智慧なのである。
原文(ふりがな付き)
沈沈不語(ちんちんふご)の士(し)に遇(あ)わば、且(しば)らく心(こころ)を輸(いた)すこと莫(なか)れ。悻悻(こうこう)自(みずか)ら好(この)しとする人を見(み)れば、応(まさ)に須(すべか)らく口(くち)を防(ふせ)ぐべし。
注釈
- 沈沈不語(ちんちんふご):異様なほど無口で、何を考えているかつかめない人。『論語』では「言うべきにして言わざれば、人を失う」として、無口すぎることは信頼関係を築きにくいとされる。
- 心を輸す(こころをいたす):心の内を打ち明けること。本音や信頼を見せること。
- 悻悻(こうこう):すぐに怒り、感情的になりがちな性格。
- 自ら好しとする人:自分だけが正しいと思い込む独善的な人物。
- 口を防ぐ:口を慎む。むやみに話さず、無用なトラブルを避けること。
パーマリンク(英語スラッグ)
guard-your-heart-and-mouth
(心と口を守る)deal-with-silence-and-fire
(沈黙と激情にどう向き合うか)discern-before-disclose
(打ち明ける前に見極めよ)
この条文は、人間関係における**「関わりすぎない勇気」と「自己防衛の知恵」**を教えてくれます。
誰とでも深く語ればよいというものではなく、相手の性質に応じた距離感や対応が、穏やかな人間関係を築く鍵なのです。
1. 原文
沈沈不語之士、且莫輸心。
見悻悻自好之人、應須防口。
2. 書き下し文
沈沈として語らざるの士に遇えば、しばらくは心を輸すことなかれ。
悻悻として自ら好しとする人を見れば、まさに口を防ぐべし。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 沈沈として語らざるの士に遇えば、しばらくは心を輸すことなかれ。
→ 物静かで口を開かない人物に出会った時は、軽々しく自分の心の内を打ち明けるべきではない。 - 悻悻として自ら好しとする人を見れば、まさに口を防ぐべし。
→ 感情的で自分に酔っているような人物に出会ったら、言葉には特に注意を払うべきである。
4. 用語解説
- 沈沈不語(ちんちんふご):沈黙して物を語らない様子。内面を明かさない、寡黙な人物のこと。
- 輸心(ゆしん):心を開く、気持ちを打ち明ける。
- 悻悻(こうこう):怒りっぽく、苛立ち、好戦的・自己中心的な性格。
- 自好(じこう):自分を好む、自惚れ、独りよがり。
- 防口(ぼうこう):言葉を慎む、発言に気をつけること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
沈黙してあまり語らない人には、しばらくは心を開かないほうがよい。
また、怒りっぽく自惚れているような人に対しては、自分の発言に特に注意すべきである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「人を見て、自分の心や言葉をコントロールせよ」**という人間関係における洞察の重要性を説いています。
- **第一句は、“沈黙する人=信用できるとは限らない”**という警鐘。
→ 口数が少ない人に安心して心を開くと、裏で利用される可能性もある。慎重さが必要。 - **第二句は、“感情的な人=対話のリスクが高い”**という警戒。
→ 言葉がきっかけで関係が悪化するリスクが高く、発言には細心の注意を払うべきという教訓。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「寡黙な人に心を開くのは、“観察のあと”に」
無口な人に安心感を抱いて、機密情報や本音を早々に話してしまうと、意図しない形で使われる可能性がある。
まずは観察と信頼構築を。“距離感”が安全の鍵。
● 「自己主張が強く、怒りっぽい人には“言葉の管理”を」
気分で反応が変わる相手には、真意が伝わらず不用意な一言がトラブルの火種に。
冷静・論理的・明確な言葉選びと、“言わない選択”も重要な防衛策。
● 「“誰にでもオープン”は危険──話す相手を選べ」
職場での信頼関係や人間関係構築において、“誰に何を話すか”は戦略的判断。
「話す技術」だけでなく、「話さない判断」も大切なスキル。
8. ビジネス用の心得タイトル
「話すな、開くな、まだ早い──人を見極め、言葉を選べ」
この章句は、「沈黙=信用」「率直=誠実」ではないという、現代でも重要な人間観察の知恵を教えています。
信頼関係の構築は、“時機と相手を選ぶ知恵”にこそかかっています。
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