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苦言と苦難こそ、徳を磨く砥石

人は日々、耳に痛い忠告や、心にひっかかる出来事によって、徳を磨き、成長する。
これらは人生における「砥石」であり、自分を研ぎ澄ます機会である。
反対に、褒め言葉ばかりを浴び、何もかも思い通りに進んでいる状態は、
猛毒の中に身を置くようなもの。やがて必ず、自身を損なうことになる。
人は逆風に向かってこそ、まっすぐ高く飛べる。


「耳中(じちゅう)、常(つね)に耳に逆(さか)らうの言(こと)を聞き、
心中(しんちゅう)、常に心に払(ふ)るの事(こと)有(あ)りて、
纔(わず)かに是(こ)れ徳(とく)に進(すす)み行(おこな)いを修(おさ)むるの砥石(といし)なり。
若(も)し言言(げんげん)耳を悦(よろこ)ばし、事事(じじ)心に快(こころよ)ければ、
便(すなわ)ち此(こ)の生(しょう)を把(と)って鴆毒(ちんどく)の中に埋在(まいざい)せん。」


注釈:

  • 耳に逆らうの言…聞いていて不愉快な忠告や厳しい意見。心の防衛本能が拒否するが、実は必要な言葉。
  • 心に払るの事…心に引っかかる、納得できない出来事や不満。
  • 纔かに是れ…かろうじて〜によって。ここでは「ようやくこれによって」といった意。
  • 砥石(といし)…刃物を研ぐ石。比喩的に、人の徳や人格を磨くための試練や困難。
  • 鴆毒(ちんどく)…中国の猛毒。快楽や称賛に溺れてしまうことの危険さを強調。

1. 原文:

耳中常聞逆耳之言、心中常有拂心之事、纔是砥礪德行之砥石。
若言言悅耳、事事快心、便把此生埋在鴆毒中矣。


2. 書き下し文:

耳中、常に耳に逆らうの言を聞き、心中、常に心に払るの事有りて、纔(わず)かに是(こ)れ、徳を砥礪(しれい)し行いを修むるの砥石なり。
若(も)し言言(げんげん)耳を悦ばし、事事(じじ)心に快ければ、便(すなわ)ち此の生を把(と)って鴆毒(ちんどく)の中に埋在(まいざい)せん。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ):

  • 「耳中、常に耳に逆らうの言を聞き、心中、常に心に払るの事有りて、纔かに是れ徳修行の砥石なり」
     → 日常的に耳に痛い言葉を聞き、心が逆撫でされるような事を経験してこそ、それが徳を磨き、行いを修めるための“砥石”となる。
  • 「若し言言耳を悦ばし、事事心に快ければ、便ち此の生を把って鴆毒の中に埋在せん」
     → 逆に、聞く言葉がすべて耳に心地よく、出来事がすべて快適であるような人生は、自分の命を毒の中に埋めてしまうようなものである。

4. 用語解説:

  • 逆耳の言(げきじのげん):耳に逆らう=忠告や批判など、聞きづらいが正しい意見。
  • 拂心(ふっしん)の事:心を逆撫でする、イライラさせるような出来事。
  • 纔是(さいぜ):ようやくこれが本当に~である、の意。
  • 砥石(といし):刀を研ぐ石。ここでは人格や徳を磨く「鍛錬の材料」の比喩。
  • 鴆毒(ちんどく):古代中国で言われた猛毒の酒。転じて、命を蝕む誘惑・甘言の象徴。

5. 全体の現代語訳(まとめ):

人として成長するには、時に耳に痛い忠告を聞き、心が不快になるような出来事にも向き合うことが大切だ。
そうした経験が、徳を磨き、人格を鍛える砥石となる。
一方で、すべての言葉が心地よく、すべての出来事が快いと感じられるような環境は、まるで自らの人生を毒に沈めるようなもので、成長もなく堕落する危険がある。


6. 解釈と現代的意義:

この章句は、「不快な経験こそが人格を磨く材料であり、快適さだけを求める人生は堕落の道である」という逆説的な教えを説いています。

現代では、「心地よい情報」「自分に都合の良い評価」ばかりを好み、批判や摩擦を避ける傾向が強まっています。
しかし、自己成長にとって重要なのは、自分の弱点を指摘されることや、思い通りにならない体験を通じて学ぶことなのです。

これは「レジリエンス(心の耐性)」「フィードバックの受容力」を高めることにも通じ、個人の成熟だけでなく、健全な組織づくりにも直結します。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):

  • 「耳に痛い言葉を歓迎できる文化が、成長を生む」
     忖度のないフィードバック、率直な意見交換ができる組織は強い。
     リーダーほど「NO」と言われることを受け入れる度量が求められる。
  • 「ストレスやトラブルは“人格を磨く砥石”」
     クレーム対応、対立意見の調整、困難な交渉など、心を乱す場面にこそ学びがある。
     逃げずに向き合うことが、真のプロフェッショナルへの道。
  • 「快適さだけを追い求めると、企業も人も衰退する」
     社内で称賛ばかり受け、外部の厳しい評価に晒されないと、組織は内部から腐る。
     “心地よさ”だけの環境は、実は最も危険な毒である。

8. ビジネス用の心得タイトル:

「不快こそ成長の種──“耳の痛さ”と向き合う勇気が人格を鍛える」


この章句は、「成長はコンフォートゾーンの外にある」ことを、古典的かつ本質的に語っており、現代のビジネス環境でも極めて示唆に富んでいます。

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