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喪とは形式ではなく、親への深い恩に応える“心の時間”

弟子の宰我(さいが)は、孔子に問いかけた。
「三年も喪に服すのは長すぎませんか? 君子が三年も礼楽を行わなければ、社会秩序が乱れてしまいます。穀物も火種も一年で巡るのですから、喪も一年でよいのではないでしょうか」。

これに対して孔子は、厳しい問いかけで返す。
「親を亡くして一年が経ったら、君は旨い飯を食べ、美しい着物を着て、何とも思わないのか?」
宰我が「はい、平気です」と答えると、孔子はこう言う。
「それなら、そうすればいい。だが、君子というものは、喪中には何をしても心が安まらない。だから礼や楽を控えるのだ」。

そして宰我が去った後、孔子は弟子たちにこう語った――
「宰我はなんと不仁(ふじん)なことか。人の子は三年かけて、ようやく親の懐(ふところ)から離れる。
三年の喪というのは、その三年分の愛に応えるための、心の表現なのだ
宰我は、はたしてその愛を感じて育ったのだろうか」。

目次

原文

孺悲欲見孔子、孔子辭以疾。將命者出、取瑟而歌、使之聞之。

書き下し文

孺悲(じゅひ)、孔子(こうし)に見(まみ)えんと欲(ほっ)す。
孔子、辞(じ)するに疾(やまい)を以(もっ)てす。
命を将(も)う者、戸を出(い)づ。瑟(しつ)を取りて歌(うた)い、之(これ)をして之を聞(き)かしむ。

現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  1. 孺悲(じゅひ)が孔子に会いたいと申し出た。
  2. 孔子は「病気です」と言ってそれを断った。
  3. 使者が戸口から出ると、孔子は琴(瑟)を取り、歌い始めて、それを孺悲にわざと聞かせた。

用語解説

  • 孺悲(じゅひ):春秋時代の人物。孔子が礼的・道徳的に相容れなかったと考えられている。
  • 辞以疾(じしてやまいをもってす):「病気だ」と言って辞退する。表面的には体調不良を理由に会見を断る。
  • 將命者(しょうめいしゃ):使者。会見の申し出を伝える役の者。
  • 瑟(しつ):古代中国の弦楽器。琴に似た楽器で、礼楽教育の重要な道具。
  • 之をして之を聞かしむ:意図的に音楽を聞かせる。実際は「病ではない」ことを暗に示す行為。

全体の現代語訳(まとめ)

孺悲という人物が孔子に会いたいと申し出たが、孔子は「病気なので会えない」と言って断った。
使者が門を出た後、孔子はわざと琴を取り、歌いながら演奏し、その音を使者に聞かせて孺悲に伝わるようにした。
つまり、「病気というのは口実であり、会いたくないという意志表示である」ことを婉曲に伝えたのである。

解釈と現代的意義

この章句は、礼を重んじつつ、非礼や不徳の相手を遠ざける孔子の知恵を示しています。

  • 孔子は、直接的に拒絶するのではなく、礼節を保ちつつ拒絶の意を明確にした
  • 表向きは柔らかいが、態度としてははっきりと「関わるに値しない」と判断している。
  • 真意を伝える手段として、“行動で語る”という儒家的な慎みと知恵が見て取れます。

ビジネスにおける解釈と適用

「断るにも“品格ある表現”を」

  • 明確な拒否が角を立てる場面では、態度や間接的表現を使うことで、礼を失わずに意志を示すことができる。
  • 例:リスクある取引や、相容れない提携依頼への対応など。

「礼節と意思表示のバランス」

  • 礼儀を守ることと、主張をはっきり示すことは両立する。
  • “丁寧すぎて何も伝わらない”のではなく、含意をもって誠実に伝える

「言葉より“行動”が真意を語る」

  • 音楽を奏でて「私は元気だが、会わない」と伝えた孔子のように、言葉ではなく“やり方”で信念を示すことが信頼されるリーダーの条件。

まとめ

「語らずして断る力──“礼と信念”を兼ね備えた態度が信頼を生む」

この章句は、礼節を持ちながらも明確なスタンスを取るリーダーの姿勢を表現しています。
ステークホルダー対応・対外交渉・危機管理などにも応用可能な考え方です。

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