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偉業を成しても、品格の大きさは別の話である

孔子は、斉(せい)の名宰相・管仲(かんちゅう)について「器が小さい」と評した。
弟子がそれを聞いて、「倹約すぎたのですか」とたずねたが、孔子は「いや、三つも邸宅を持ち、使用人も別々に抱えていた。とても倹約家とは言えない」と否定した。
「では、礼を重んじたということですか」と聞くと、孔子は再び否定した。
「諸侯が門に塀を立てるのは格式ある者の証だが、管仲もそれをまねている。諸侯が盟約の際に使う『反』という器具も、大夫である彼が使っていた。これで『礼を知る』というなら、礼を知らぬ者などいないことになる」と。

「管氏(かんし)にして礼(れい)を知らば、孰(たれ)か礼を知らざらん」

地位や実績では測れぬものがある。それが「器」であり、「品格」である。


※注:

  • 「管仲(かんちゅう)」…斉の桓公を補佐し、中国の覇者にした名宰相。功績は大きいが、孔子は礼の面では評価を割り引いている。
  • 「器(うつわ)」…人の度量・人格・品格の広さ。
  • 「三帰(さんき)」…三か所の邸宅。ぜいたくの象徴。
  • 「邦君(ほうくん)」…国の君主。
  • 「反(そり)」…諸侯の宴席で使われる礼器(酒器を置く台)。大夫には本来ふさわしくない。

1. 原文

哀問社於宰我。宰我對曰、夏后氏以松、殷人以柏、周人以栗、曰、使民戰栗。
子聞之曰、成事不說、遂事不諫、既往不咎。


2. 書き下し文

哀公(あいこう)、社(しゃ)を宰我(さいが)に問う。
宰我、対(こた)えて曰(いわ)く、夏后氏(かこうし)は松を以(もっ)てし、殷人(いんひと)は柏(はく)を以てし、周人(しゅうひと)は栗(くり)を以てす。民をして戦栗(せんりつ)せしむるを曰(い)うなり。
子(し)之(これ)を聞(き)きて曰(いわ)く、成事(せいじ)は説(と)かず、遂事(すいじ)は諫(いさ)めず、既往(きおう)は咎(とが)めず。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ)

  • 「哀公、社を宰我に問う」
     → 魯の哀公が、国家の祭祀を司る“社”について宰我に尋ねた。
  • 「宰我、対えて曰く、夏后氏は松を以てし、殷人は柏を以てし、周人は栗を以てす」
     → 宰我は答えた。「夏の王朝では松を、殷では柏を、周では栗の木を社の木として用いています」
  • 「民をして戦栗せしむるを曰うなり」
     → 「民が(恐れて)震え上がるようにするためだと言われています」
  • 「子之を聞きて曰く、成事は説かず、遂事は諫めず、既往は咎めず」
     → 孔子はこれを聞いて言った。「すでに終わったことについては論じない。すでに成し遂げられたことに意見しない。すでに過ぎたことについてはとがめない」

4. 用語解説

用語解説
哀公(あいこう)魯の国君。孔子の晩年に在位。
宰我(さいが)孔子の弟子の一人。聡明だが合理的すぎる性格で孔子に度々批判される。
社(しゃ)土地の神を祀る祭壇や祭神。国家の安定や五穀豊穣を祈る象徴的存在。
戦栗(せんりつ)恐れて身震いすること。「栗(くり)」にかけた語呂合わせ的解釈。
成事不説すでに終わった事は、今さら論評しない。
遂事不諫すでに完了した行為は、途中で諫めなかったなら今さら批判しない。
既往不咎すでに過ぎたことは、とがめ立てしない。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

魯の哀公が、国家の土地神を祀る社について宰我に尋ねた。
宰我は「王朝によって社の木は異なり、夏は松、殷は柏、周は栗を用いた。それは人々を震えさせ、畏敬の念を抱かせるためです」と答えた。
それを聞いた孔子は、「すでに定まったことは今さら論じるべきでない。成し遂げられたことには後から意見すべきでない。すでに終わったことに対して咎めるべきではない」と言った。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、過去への固執よりも、現在と未来への前向きな姿勢を示すべきという孔子の実践的な教訓を表しています。

  • 宰我の説明は形式・言葉遊びに偏っており、本質を見ていない
  • 孔子は、すでに行われた事実については、結果を尊重し、責め立てるのではなく前を向くべきと語っている。
  • 「成事不説、遂事不諫、既往不咎」は、反省よりも未来志向の態度を重視する立場。

7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 「終わったことを責めず、前に進め」

  • プロジェクトの失敗や意思決定の過去を責め続けても生産的ではない
  • 孔子は、「もう終わったことには固執せず、未来志向で考えよ」と教えている。

✅ 「報告・分析は未来の改善のために」

  • 過去の問題点を“誰のせいか”ではなく、“どう次に活かすか”に焦点を当てる。
  • 「成事は説かず」「既往は咎めず」は、非難ではなく建設的な対話への転換を促す原則。

✅ 「形式や語呂合わせより、本質を見る」

  • 宰我のように“語呂”や“制度の外形”ばかりを重視する態度は、本質を見誤るリスクがある
  • ビジネスでも「言葉の美しさ」より、「その制度の背景にある目的と意味」を理解することが大切。

8. ビジネス用の心得タイトル

「過去は責めず、未来に活かせ──成事を語らず、遂事を悔やまず」


この章句は、「過ぎたことにこだわらず、前を向いて行動せよ」というリーダーの寛容さと判断力を促す、孔子の重要な知恵です。

失敗や意見の食い違いがあったとき、**“なぜこうなったか”より“これからどうするか”**に軸を置くリーダーシップが、信頼と成長を導きます。

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