堂々と世に示すことのできる潔白な節操や高い道義は、
人目のつかない暗く静かな場所での地道な修行や内省によって育まれる。
また、国家の運命を動かすような大きな施策や変革の実現も、
それは決して偶然の賭けや感情の爆発からではなく、
水の底を歩くような慎重さと、綿密な準備・思索から生まれるのである。
つまり、表に見える「成功」や「壮大な結果」は、裏に隠れた努力と慎みの賜物なのである。
原文(ふりがな付き)
青天白日(せいてんはくじつ)の節義(せつぎ)は、暗室屋漏(あんしつおくろう)中(ちゅう)より培(つちか)い来(きた)る。旋乾転坤(せんけんてんこん)の経綸(けいりん)は、臨深履薄(りんしんりはく)の処(ところ)より操(あやつ)り出(い)だす。
注釈
- 青天白日の節義:晴れわたる空のように、明るく正しく堂々とした節操や義の精神。
- 暗室屋漏:家の奥まった暗い場所。人目につかない私的空間や内面的な領域。そこでの修行・自己鍛錬の象徴。
- 旋乾転坤(せんけんてんこん):「乾」は天、「坤」は地を表し、天地をひっくり返すほどの大変革・大業のこと。
- 経綸(けいりん):国家や組織を治めるための施策・計画。政治・行政の根幹。
- 臨深履薄(りんしんりはく):深い水辺に立ち、薄氷を踏むような慎重さ。『詩経』由来の言葉で、緊張感ある配慮と行動の意。
※この思想は、西郷隆盛の「兼ねて気象を以て克ち居れよ(常に備えて自己に勝て)」という『南洲翁遺訓』にも通じます。大きなことを成し遂げるには、平凡な日々の中に非凡な努力を積むことが不可欠なのです。
パーマリンク(英語スラッグ)
great-deeds-quiet-roots
(偉業は静かな根から)inner-discipline-outward-glory
(内なる修行が外に栄光を)from-shadows-to-sky
(陰の積み重ねが空を描く)
この条文は、「結果」よりも「過程」こそが人間の真価を決めるという普遍的な価値を伝えています。
華やかな成功の背後には、誰にも見られない努力、黙々と続ける日常、緻密な思索がある――
まさにこれは、現代のあらゆる分野(政治、経営、芸術、学問など)にも通じる「成功の本質論」です。
「光を望むなら、まずは影に根を張れ」という、この菜根譚の一節は、私たちの心に深い問いを投げかけてくれます。
1. 原文
青天白日之節義,自暗室屋漏中培來。
旋乾轉坤之經綸,自臨深履薄處操出。
2. 書き下し文
青天白日の節義(せつぎ)は、暗室屋漏の中より培(つちか)い来たる。
旋乾転坤(せんけんてんこん)の経綸(けいりん)は、臨深履薄(りんしんりはく)の処より操(あやつ)り出だす。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 青天白日の節義は、暗い部屋の中で育まれる。
→ 誰の目にも明らかな節操や義理は、実は誰にも見られない場所での行いによって養われる。 - 天地を動かすような大きな計画や統治も、危険に満ちた慎重な場面から生まれる。
→ 大きな事業や成果は、細心の注意が求められる困難な状況での対応から始まる。
4. 用語解説
- 青天白日(せいてんはくじつ):まっすぐで潔白、誰に対しても胸を張れる公明正大な状態。
- 節義(せつぎ):節操と義理。道徳的な強さや誠実さ。
- 暗室屋漏(あんしつおくろう):誰にも見られない密室や隠れた場所。=私生活・一人きりの時。
- 旋乾轉坤(せんけんてんこん):天地を回転させるという意味で、大きな変化や変革を指す。
- 経綸(けいりん):国家や組織の統治・運営。大事業の計画・施策。
- 臨深履薄(りんしんりはく):深い淵に臨み、薄氷を踏むような慎重な姿勢。=極度の注意・危機感。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人目に触れるような公明正大な節義は、実は誰にも見られないような密かな場面で培われる。
また、大きな社会変革や組織の舵取りは、非常に慎重で危険な場面を乗り越えることで成し遂げられる。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「公に見える徳は、私の場で養われる」「偉業は、細心の覚悟から始まる」**という東洋思想の要諦を語っています。
- 誰も見ていないところでこそ、本当の品格が問われる。
- 成功や変革は、静かな覚悟と地道な積み重ねの上に成り立つ。
表面的な美辞麗句やアピールではなく、日々の誠実な行動・無名の努力こそが真の力を養うのだという思想です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「本当の誠実さは、見えないところに宿る」
- 他人の見ていない場でこそ、誠実な行動が問われる。
→ コンプライアンス、報告書の正確性、社内での言動、時間の使い方──どれも見られていない時の姿が信用をつくる。
● 「大きなプロジェクトの成功は、“危うさ”の中の慎重さから」
- 新規事業や経営判断において、華やかな成果の裏にはリスクと困難を乗り越えた緻密な対応がある。
→ “臨深履薄”──危機の場面で冷静さを保てる人材が、組織の要になる。
● 「自己研鑽と日々の自律が、堂々たる評価につながる」
- 表に出る栄誉や称賛は、裏での地道な積み重ねがあって初めて意味を持つ。
→ 日常の自己管理・行動倫理・謙虚な学びが、いずれ公明正大な人物評価として結実する。
8. ビジネス用の心得タイトル
「表の誠実は、裏で育つ──大義は、危機の中の慎重から生まれる」
この章句は、「誠実さ」と「変革の胆力」がいずれも**“内なる慎み”から始まる**という真理を教えてくれます。
「誰にも見られていない時に、どれだけ正しくいられるか」
「極度の緊張下で、どれだけ冷静でいられるか」──
そこにこそ、真の人格と統治者・リーダーとしての力量があるのです。
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