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才能に満足せず、もっと高みを目指せ

大器に甘んじず、君子たる柔軟さと向上心を忘れるな

弟子の子貢が、自らの人物評価を孔子に問うたとき、孔子は「お前は器(うつわ)だ」と答えた。
「器」とは、一定の役割を果たす有能な人材を指すが、同時に「器にすぎない」ともとれるため、子貢はやや不満を覚えた。
さらに「どんな器ですか」と問うと、孔子は「瑚璉(これん)だ」と答える。
瑚璉とは、宗廟の祭礼に用いられる荘厳で貴重な器。つまり、君子として立派な働きを担える人物であるという最高級の賛辞である。
しかし同時にそこには、「形式にとらわれすぎることなく、柔軟さとさらなる向上心を持て」という孔子からの期待と励ましも込められていた。
才能に恵まれた者ほど、学びの歩みを止めないことが求められる――この言葉は、あらゆる“有能な人”へのメッセージである。


原文とふりがな付き引用

子貢(しこう)、問(と)うて曰(いわ)く、賜(し)や如何(いかん)。
子(し)曰(いわ)く、女(なんじ)は器(うつわ)なり。
曰く、何(なん)の器ぞや。曰く、瑚璉(これん)なり。

お前は立派な器だ――
だが、それに満足せず、もっと学び、高めてゆけ。


注釈

  • 子貢(しこう)…孔子の高弟で、知識・弁舌・政治的手腕に優れた人物。論語にも多く登場する。
  • 器(うつわ)…具体的な役割を果たす人物、有能な人材。ただし、柔軟さに欠け、応用力が乏しいという含意もある。
  • 瑚璉(これん)…宗廟の祭礼で用いられる、美しく貴重な祭器。孔子が選んだ表現としては最高級の褒め言葉。
  • 孔子の「君子は器ならず」(=役割に閉じない柔軟さを持て)という教えを背景にすると、この評価は賞賛と戒めの両方を含んでいる。
目次

1. 原文

子貢問曰、「賜也何如。」
子曰、「女器也。」
曰、「何器也。」
曰、「瑚璉也。」


2. 書き下し文

子貢(しこう)、問うて曰(いわ)く、「賜(し)や如何(いかん)。」
子(し)曰く、「女(なんじ)は器(うつわ)なり。」
曰く、「何の器ぞや。」
曰く、「瑚璉(これん)なり。」


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

「子貢問曰、賜也何如」

→ 子貢が孔子に尋ねた。「私(賜)は、どのような人物でしょうか?」

「子曰、女器也」

→ 孔子は答えた。「お前は“器”だよ。」

「曰、何器也」

→ 子貢が聞いた。「どんな器でしょうか?」

「曰、瑚璉也」

→ 孔子は答えた。「それは瑚璉のような器だ。」


4. 用語解説

  • 子貢(しこう)/賜(し):孔子の高弟。本名は端木賜(たんぼく・し)。弁舌と商才に優れ、孔子門下でも才人として知られる。
  • 器(うつわ):物を入れる容器の意味のほか、転じて「才能や人間の器量」を指す。儒家では「器=限定された役割・才覚」という含意を持つ。
  • 瑚璉(これん):宗廟の祭祀に使われた、極めて尊い器。国家儀礼で使用されるため、地位・名誉・実務において重んじられる象徴。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

子貢が孔子に「自分はどのような人物ですか」と尋ねたところ、孔子は「お前は“器”である」と答えた。さらに「どのような器ですか」と問うと、孔子は「瑚璉のような貴い器である」と評した。


6. 解釈と現代的意義

この問答には、才能ある者の限界と尊さについての深い示唆が込められています。

  • 「器なり」=才能はあるが、聖人や大賢ではない
     孔子は“器”という言葉で、子貢が才能ある実務家・役人であることを認めつつも、哲学的・倫理的な全人的理想には至らぬことを示しています。
  • 「瑚璉なり」=その中でも特に貴重な器
     器には大小・用途の違いがあるが、子貢はその中でも“国の儀式”に使われるような高位・高格の器にたとえられており、非常に高い評価といえる。

このやりとりからは、「人にはそれぞれに適した価値・役割がある」こと、そして「賢才をもってしても“聖人”とは異なる」という孔子の厳しくも的確な人物観が表れています。


7. ビジネスにおける解釈と適用

「自他の“器”を見極め、適所に配す」

子貢のように優秀な人材でも、全能ではない。組織においても、誰もが“器”=役割を持っている。その「器」にふさわしいポジションを与えることが、リーダーの最大の責務。

→ 人を聖人にしようとせず、“最も輝く場”に配置せよ。

「“大器”にはそれなりの責務と公的意義を」

瑚璉は宗廟で使われる国家的な器。これは「優秀な人材は、自らの影響力を公共のために用いよ」という示唆にも読めます。

→ リーダー・エース級の人材には、単なる成果ではなく、“組織や社会の象徴としての自覚”を求める必要がある。


8. ビジネス用の心得タイトル

「才ある者を、才にふさわしい“器”に──人材配属の眼が組織をつくる」


この章句は、個人の自己認識と、指導者の人材評価の在り方、双方にとって学びの多い内容です。

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