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礼儀は、心を動かす美しさになる

── 丁寧な所作は、相手への最大の敬意

孔子は、君主から命を受けて貴賓をもてなす役に就く際、凛とした緊張感を全身にまとっていた。
その足取りはきびきびとし、同僚に挨拶する際には、手を左右に動かしても衣服は決して乱れなかった。
来賓を先導して小走りに進むときには、両ひじを張った姿がまるで翼のように美しく見えた。
また、客が帰る際には必ず見送り、礼を尽くした上で「振り返ることがなくなるまでお見送りしました」と君主に報告したという。

礼儀は、形だけではない。それが伴う所作の美しさや細部への気配りにこそ、心が映る。
その心が、相手の心にも余韻を残す。


原文とふりがな付き引用

「君(きみ)、召(め)して擯(ひん)せしむれば、色(いろ)、勃如(ぼつじょ)たり。足(あし)、躩如(かくじょ)たり。与(とも)に立(た)つ所(ところ)に揖(ゆう)するには、其(そ)の手(て)を左右(さゆう)にし、衣(ころも)の前後(ぜんご)は揚如(ようじょ)たり。趨(はし)り進(すす)むには翼如(よくじょ)たり。賓(ひん)、退(しりぞ)けば、必(かなら)ず復命(ふくめい)して曰(い)わく、賓(ひん)、顧(かえり)みず、と。」


注釈

  • 勃如(ぼつじょ):顔色を正し、厳粛な雰囲気をまとうこと。
  • 躩如(かくじょ):急ぎつつも乱れない、きびきびとした足取り。
  • 揚如(ようじょ):動きに合わせて衣がひるがえっても、美しく整っている様子。
  • 翼如(よくじょ):両ひじを張り、袖が翼のように見える姿。
  • 顧みず:客が振り返らずに立ち去ったこと。見送られた安心感と満足の表れ。

1. 原文

君召使擯、色勃如也、足躩如也、揖與立、左右其手、衣前後襜如也、趨進翼如也、賓退、必復命曰、賓不顧矣。


2. 書き下し文

君、召して擯(ひん)せしむれば、色(いろ)、勃如(ぼつじょ)たり。足(あし)、躩如(かくじょ)たり。与(とも)に立つ所に揖(ゆう)するには、其の手を左右にし、衣(ころも)の前後、襜如(せんじょ)たり。趨(はし)り進(すす)むには、翼如(よくじょ)たり。賓(ひん)、退(しりぞ)けば、必ず復命(ふくめい)して曰(い)わく、「賓、顧(かえり)みず」と。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「君、召して擯せしむれば、色、勃如たり」
     → 君主に命じられて接待役(擯)を任されると、顔色は引き締まり、真剣な面持ちとなった。
  • 「足、躩如たり」
     → 足取りは素早くも落ち着きがあり、機敏で礼儀正しく歩いた。
  • 「与に立つ所に揖するには、其の手を左右にし」
     → 宴に来た賓客と立ち並んで礼をする時は、両手をきちんと動かし、正しく所作を整えた。
  • 「衣の前後、襜如たり」
     → 衣服の前後は整っており、だらしなく乱れることがなかった。
  • 「趨り進むには翼如たり」
     → 歩みを早める時も、あたかも羽ばたくように軽やかで慎み深かった。
  • 「賓、退けば必ず復命して曰く、『賓、顧みず』と」
     → 客が退出すると、必ず主君に復命し、「客は振り返らずにお帰りになりました」と報告した。

4. 用語解説

  • 擯(ひん):儀礼における接待・案内係。賓客を迎える重要な役割。
  • 色勃如(ぼつじょ):緊張感と真剣さが表れた面持ち。
  • 躩如(かくじょ):機敏かつ礼を失わぬ足の運び。
  • 揖(ゆう):お辞儀・拱手(きょうしゅ:両手を胸の前に重ねる礼)をすること。
  • 襜如(せんじょ):衣服が整っていて乱れがないさま。
  • 翼如(よくじょ):羽ばたくような静かで滑らかな動き。
  • 復命(ふくめい):命を受けた者が任務の結果を主君に報告すること。
  • 顧みず:「振り返らず」=賓客が礼を尽くされ、満足してまっすぐ帰ったことを表す。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孔子は、君主から儀礼の接待役を命じられると、真剣な表情で臨み、足取りは機敏かつ慎み深かった。
賓客とともに立って礼をする際には、手の動きに気を配り、衣服も乱れなく整っていた。
速く歩くときも、羽ばたくように軽やかで優雅であった。
客が退出すれば、必ず主君に復命し、「賓客は後ろを振り返らずに立ち去りました」と報告した。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、礼儀・所作・報告の徹底を通じて、孔子の「内面の誠と外面の節度」が如何に一致していたかを描いています。

特に、「たかが接待役」であっても、一つ一つの所作・表情・報告まで妥協なく丁寧に行う孔子の態度は、「役職の大小にかかわらず、自分のなすべきことに全力を尽くす」精神を象徴しています。


7. ビジネスにおける解釈と適用

🎯 「任された役割に全力で応じる姿勢」

  • 役職や立場に関係なく、任された業務には誠意と全力で臨む。
  • 会議の司会進行、来客対応、議事録など、一見“雑用”に見える業務においてこそ人柄が試される。

✨ 「礼儀と所作にこそ人格が宿る」

  • 服装、姿勢、歩き方、報告の仕方など、「日常の動作」はビジネスパーソンとしての信頼感に直結。
  • 礼儀作法を形骸化させず、**誠意を“動作で示す”**ことがプロフェッショナリズムの証。

📣 「報連相の“質”で差がつく」

  • 客が帰ったことすら丁寧に復命する孔子の姿勢は、現代で言えば「アフターフォローの質」の高さを意味する。
  • 上司や顧客への報告は、タイミング・言葉・気配りまで含めて「仕事の一部」と捉えるべき。

8. ビジネス用の心得タイトル付き

「動作は言葉より雄弁──“誠意と所作”があなたの信頼をつくる」


この章句は、単なる礼儀作法の教示ではなく、「小さな任務にも魂を込める」「細部に神が宿る」ことを、孔子が自らの行動で示した名場面です。
現代のビジネスにおいても、“誰も見ていない”と思われる細部にこそ、信頼と評価の本質が宿ります。


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