貧しくとも人に媚びず、富んでも傲らない――それは立派な生き方である。
だが、さらに優れているのは、貧しさの中にも楽しみを見いだし、富を得ても礼を忘れず、どのような境遇にあっても己の道を正しく貫くことができる人物である。
それはまさに、詩経にいう「切磋琢磨(せっさたくま)」の精神――日々自らを磨き続ける在り方に通じる。
わずかな言葉の中に深い理解を示した子貢に対して、孔子はその学びの深さを喜んだ。
「貧(まず)しくして諂(へつら)う無(な)く、富(と)みて驕(おご)る無きは如何(いかん)。子(し)曰(いわ)く、可(か)なり。未(いま)だ貧にして楽(たの)しみ、富みて礼(れい)を好(この)む者に若(し)かざるなり。子貢(しこう)曰く、詩(し)に云(い)う、『切(せっ)するが如(ごと)く、磋(さ)するが如く、琢(たく)するが如く、磨(ま)するが如し』と。其(そ)れ斯(こ)れを之(これ)謂(い)うか。子曰く、賜(し)や、始(はじ)めて与(とも)に詩(し)を言(い)うべきのみ。諸(これ)に往(ゆ)くを告(つ)げて、来(き)たるを知(し)る者(もの)なればなり」
真に磨かれた人物とは、境遇に左右されず、内なる道を楽しみ、礼を守り続ける者である。
※注:
- 「諂う」…人にこびへつらうこと。
- 「驕る」…自分の富や地位を誇り、思い上がること。
- 「詩経」…古代中国の詩集。孔子が重視した古典。
- 「切磋琢磨」…象牙や玉を削り磨くように、互いに努力して人格を高め合う意。
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