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清く、柔らかく、鋭く、穏やかに——すべての徳を調和させた人格こそ理想

人格は清廉であることが望ましい。
だが、清廉すぎて相手を拒むようではなく、包容力をも併せ持つことが肝要である。

思いやりに富んだ仁者であることは尊い。
だが、優柔不断ではなく、必要なときにはしっかりと決断できなければならない。

聡明であっても、他人の細かい欠点にこだわって「察しすぎる」ようでは、かえって害となる。
正直さも美徳だが、それを振りかざして他人を責め立ててしまっては本末転倒だ。

こうした理想の人格者を、古人は
「蜜餞(みつけん)甜(あま)からず、海味(かいみ)醎(から)からず」——
つまり「甘すぎず、辛すぎず」と評した。

本当に優れた人物とは、どの徳も極端に走らず、すべてを柔らかく調和させている。
それこそが「懿徳(いとく)」——品格ある美しい徳である。


原文とふりがな付き引用

清(せい)にして能(よ)く容(い)るること有(あ)り、仁(じん)にして能(よ)く断(だん)を善(よ)くす。
明(めい)にして察(さっ)を傷(きず)つけず。直(ちょく)にして矯(た)めに過(す)ぎず。
是(こ)れを蜜餞(みつけん)甜(あま)からず、海味(かいみ)醎(から)からずと謂(い)う。纔(わず)かに是(これ)懿徳(いとく)なり。


注釈(簡潔に)

  • 清にして能く容る:清廉でありながら、他人を受け入れる度量がある。
  • 仁にして能く断を善くす:優しさがあっても、決断すべきときは毅然と行動できる。
  • 明にして察を傷つけず:賢くても、過剰に詮索しない。相手の弱さを許す。
  • 直にして矯に過ぎず:正直だが、相手を矯正しすぎず、寛容に構える。
  • 蜜餞甜からず、海味醎からず:甘すぎず、辛すぎず。品よく、控えめで過不足がない。
  • 懿徳(いとく):真に立派な人格としての徳。内に美を備えた高い品格。

パーマリンク案(英語スラッグ)

grace-in-balance
「調和の中にこそ徳が宿る」という本条のエッセンスを表現したスラッグです。

その他の案:

  • not-too-sweet-not-too-harsh
  • virtue-lies-in-moderation
  • refined-character-is-balanced

この章は、「極端な美徳は時に害となる」という深い洞察をもとに、
あらゆる人格的美点を「調和」させることの大切さを語っています。

まさに、君子とは「極端な人」ではなく、「調和した人」である。
このバランス感覚こそ、現代にも通じる成熟した人間像を示しています。

1. 原文

淸能有容、仁能善斷。明不傷察、直不矯。是謂蜜餞不甜、海味不醎。纔是懿德。


2. 書き下し文

清にして能く容(い)るること有り、仁にして能く断(だん)を善(よ)くす。
明にして察を傷(そこ)なわず、直にして矯(た)めに過ぎず。
是れを蜜餞(みつせん)甜(あま)からず、海味(かいみ)醎(から)からずと謂う。纔(わず)かに是れ懿徳(いとく)なり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)

  • 清能有容
     → 心が清らかであっても、寛容さを兼ね備えている。
  • 仁能善斷
     → 慈しみの心がありながらも、物事の判断は的確である。
  • 明不傷察
     → 聡明でありながらも、細かすぎて人を傷つけることはしない。
  • 直不矯
     → 正直だが、過剰に堅くて融通の利かないようなことはない。
  • 是謂蜜餞不甜、海味不醎
     → ちょうどよい甘さの蜜餞(ドライフルーツのような甘味)や、ほどよい塩加減の海産物のように、自然な味わい。
  • 纔是懿德
     → それこそが、本当にすぐれた徳(=懿徳)である。

4. 用語解説

  • 清(せい):清廉・清浄。心や行いの清らかさ。
  • 容(よう):受け入れること、寛容な心。
  • 仁(じん):思いやり・慈しみの心。
  • 善断(ぜんだん):正しく判断すること。情に流されない判断力。
  • 明(めい):明晰な頭脳、知性の光。
  • 察(さつ):細かく観察し分析すること。
  • 直(ちょく):正直でまっすぐな性格。
  • 矯(きょう):矯正・厳しさ。極端に融通が利かないこと。
  • 蜜餞(みつせん):果物の砂糖漬けなどの甘味。
  • 海味(かいみ):塩味のある海の幸。
  • 懿徳(いとく):深く美しい徳。内に品格をたたえた高尚な人徳。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

心が清らかであるだけでなく寛容さがあり、
思いやりのある人が、必要な場面では的確に判断する。
頭の良い人が、他人を細かく詮索して傷つけることがなく、
正直な人が、かたくなで頑固にならない。

このような人は、ちょうど甘すぎない蜜餞や、しょっぱすぎない海の幸のように、
自然で調和のとれた人柄であり、まさにこれこそが“懿徳”と呼ぶにふさわしい。


6. 解釈と現代的意義

この章句が説いているのは、**「美徳の真価は“中庸のバランス”にある」**という教訓です。

  • 清廉であるだけでは「冷たい人」になり得る。そこに寛容さがあって初めて魅力となる。
  • 優しさ(仁)だけではリーダーになれない。判断力と決断力が伴ってこそ本物。
  • 賢くても、細かすぎては周囲を萎縮させる。明るくあれど傷つけない慎みが必要。
  • 正直なだけでは、周囲と衝突しやすい。そこに柔軟性が加わってこそ信頼を得る。

突出した個性や強みが、極端に走ることなく、調和されてこそ“徳”となるという思想です。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

▪ 「優しさ」と「決断力」の両立がリーダーの鍵

部下想いで情が厚い人でも、決めるべき時に迷っていてはリーダーになれない。
仁にして断を善くする──優しさと判断力の両立こそが組織を支える。

▪ 「厳しさ」や「正直さ」も、“過ぎたるは及ばざるが如し”

細かすぎるチェック、正直すぎる言動は、時に組織を萎縮させる。
美徳は、調和の中においてこそ光る。

▪ 適度な「味つけ」が人間関係を豊かにする

過剰な自己主張や過度の控えめさは、人間関係をぎこちなくする。
蜜餞不甜、海味不醎──ちょうどよい“味わいのある人物”こそが人望を集める。


8. ビジネス用の心得タイトル

「美徳はバランスに宿る──甘すぎず、辛すぎず、人を和ませ導け」


この章句は、「極端を排し、中庸の調和を重んじる」という東洋の智慧が詰まっています。
個性や強みが“人徳”として周囲を和ませるには、
その表現に深い配慮と節度、そして自然さ
が必要だということを、見事に教えてくれる一節です。

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