――政治の原点は、自分自身にある
孔子は、為政者にとって最も基本となる資質を「身を正すこと」だと説いた。
自分自身の行いが正しければ、政治を行うことなど難しいことではない。
しかし、自分を律することすらできなければ、どうして他人を導き、世を治めることができるだろうか――と問うた。
政治とは、他人に命じる前に、自分自身が模範であること。
正しさは、言葉ではなく行動によって示されなければ、人はついてこない。
孔子のこの言葉は、あらゆるリーダーの「在り方」の本質を突いている。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、苟(いやし)くも其(そ)の身(み)を正(ただ)しくせば、政(まつりごと)に従(したが)うに於(お)いて何(なに)か有(あ)らん。
其の身を正しくするに能(あた)わずんば、如何(いかん)ぞ人(ひと)を正(ただ)さん。」
注釈:
- 苟くも(いやしくも) … 仮にも、少しでも。
- 其の身を正しくする … 自らの言動・行動を律し、道理にかなうようにすること。
- 政に従うに於いて何か有らん … 政治を行う上で、何の問題もない、という意味。
- 如何ぞ人を正さん … 自分を正せぬ者に、どうして他人を正せるだろうか、という反語的な問い。
1. 原文
子曰、苟正其身矣、於從政乎何有。不能正其身、如正人何。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、苟(いやしく)も其(そ)の身(み)を正(ただ)しくせば、政(まつりごと)に従(したが)うに於(お)いて何(なに)か有(あ)らん。
其の身を正しくするに能(あた)わずんば、如何(いかん)ぞ人(ひと)を正さん。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ)
- 「子曰く、苟くも其の身を正しくせば、政に従うに於いて何か有らん」
→ 孔子は言った。「もし自分自身を正しく保つことができるなら、政治を行うことに何の困難があろうか。」 - 「其の身を正しくするに能わずんば、如何ぞ人を正さん」
→ 「自分の身を正すことすらできないのに、どうして他人を正すことができようか。」
4. 用語解説
- 苟くも(いやしくも):仮にでも、少しでも。控えめな前提条件を示す語。
- 其の身を正す:自らの行動・態度・倫理を正しく整えること。自己管理・自己修養。
- 政に従う:政治を行う、公職に就く。リーダーとして人を導く。
- 如(いかん)ぞ〜や/何ぞ〜や:反語的表現。「どうして〜できようか」「いや、できない」
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「もし自分自身を正しく保つことができるのなら、政治を行うことなど難しいことではない。
しかし、自分すら律することができない人間に、どうして他人を正すことができようか。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「リーダーの資格はまず自己の修養から始まる」**という、儒教における鉄則を明確に語っています。
- 自分自身を律せない者が、組織を率いたり他人に規律を求めたりするのは、説得力を欠く偽善的行為だと孔子は断じます。
- 「徳による感化」を重視する孔子にとって、模範を示すことこそ最大のリーダーシップです。
- この教えは、現代における**「言行一致」や「率先垂範」**の重要性と完全に一致しています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
- 「自分を律する者だけが人を動かせる」
ルールを押しつけるだけのリーダーより、自らが守る姿勢を見せるリーダーの方が人を納得させる力を持つ。 - 「トップの品格が組織の空気をつくる」
リーダーが誠実で、日々の行動や言葉遣いに配慮があれば、組織全体も自然と整っていく。 - 「信頼は“口”ではなく“態度”で築かれる」
いくら美辞麗句で理念を語っても、本人がそれに反する行動をとれば、部下の信頼は一瞬で崩れる。 - 「自己管理できない人間にマネジメントはできない」
時間・感情・倫理・生活態度など、自己コントロール力のある人材だけが、持続的なリーダーシップを発揮できる。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「人を導く前に、自らを正せ──“率先垂範”が信頼の礎」
この章句は、リーダーシップ論、倫理観、組織文化づくりなど、現代のあらゆるマネジメントテーマと親和性が高く、
**「まず自分がどうあるべきか」**を見直す出発点として最適です。
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