誰かが「なぜ政治にたずさわらないのか」と問うたとき、孔子はこう答えた――
政治とは、役職に就くことだけではない。古典の書にもあるように、「親に孝行し、兄弟と仲よくすること」は、すでに政治の本質に通じている。
まず自分を正しく修め、家庭を和やかに整えること。そこにすでに小さな政治があり、その積み重ねがやがて大きな社会を支えるものとなる。つまり、日々の実践そのものが「政治」なのである。
世を変える第一歩は、わが身を整え、身近な人との関係を大切にするところから始まる。
原文:
「或謂孔子曰、子奚不爲政。子曰、書云、孝乎惟孝、友于兄弟、施於有政、是亦爲政、奚其爲爲政。」
書き下し文:
「或(ある)ひと孔子(こうし)に謂(い)いて曰(いわ)く、子(し)は奚(なん)すれぞ政(まつりごと)を為(な)さざるや。子曰く、書(しょ)に云(い)う、『孝(こう)なるか、惟(こ)れ孝、兄弟(けいてい)に友(ゆう)なり、有政(ゆうせい)に施(ほどこ)す』と。是(こ)れ亦(また)政(まつりごと)を為(な)すなり。奚(なん)ぞ其(それ)政を為(な)すことを為(な)さんや。」
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「或るひと孔子に謂いて曰く、子は奚すれぞ政を為さざるや」
→ ある人が孔子に尋ねた。「先生はなぜ政治に直接携わらないのですか?」 - 「子曰く、書に云う、孝なるか惟れ孝、兄弟に友なり、有政に施す、と」
→ 孔子は答えた:「書経にはこうある。『親に孝行し、兄弟仲良くし、それを社会に広める。』と。」 - 「是れ亦た政を為すなり」
→ それもまた、立派な政治(=社会秩序の構築)なのだ。 - 「奚すれぞ其れ政を為すことを為さんや」
→ であるならば、あえて形式的な“政治”にこだわる必要があるだろうか?
用語解説:
- 為政(いせい):政治に直接携わること、官職に就いて統治を行うこと。
- 書(しょ):『書経』。古代中国の政治的教訓や歴史を記した古典の一つ。
- 孝(こう):親への敬愛と奉仕。
- 友(ゆう):兄弟との仲睦まじさ。
- 施す(ほどこす):広める、適用する、影響を与える。
- 有政(ゆうせい):政治のあるところ、すなわち社会・国家。
全体の現代語訳(まとめ):
ある人が孔子に「なぜ政治に直接携わらないのですか」と尋ねた。
孔子はこう答えた:
「書経には『孝行し、兄弟と仲良くすることが、そのまま政治の実践につながる』とある。
つまり、家庭や身近な人間関係において徳を尽くすこと自体が政治なのだ。
であるならば、わざわざ“政治をやる”と名乗る必要があるだろうか?」
解釈と現代的意義:
この章句は、「政治とは形式や地位ではなく、日常の倫理と実践である」という孔子の思想を明確に示しています。
- 家庭内の倫理(孝・友)こそが、社会全体の秩序の基礎であるという考え。
- 孔子は「政治に携わること」よりも、「徳によって人を導くこと」に本質的価値を置いた。
- “善き個人”の集合こそが、“善き国家”をつくるという思想に通じる。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「リーダーシップは肩書きではなく、日常の姿勢で示せ」
- 上司や経営者でなくとも、誠実で信頼されるふるまいをする人が、実質的に“組織を導いている”。
- 小さな行動・言葉・姿勢が、職場全体に影響を与える。
- 「組織文化は“日常の倫理”から生まれる」
- モラルやルールを掲げるよりも、日々の行動で互いに敬意を示し、思いやりをもって接することが、文化の土台になる。
- 「人材育成は“家庭や基本の価値観”から始まる」
- 若手育成やチームづくりにおいても、まずは基本的な礼儀、感謝、思いやりの実践からスタートすべき。
- 孔子の「孝と友」は、現代でいえば**“人間としての基礎力”**。
ビジネス用心得タイトル:
「形式より実践──“日常の徳”こそが、最も確かなリーダーシップ」
この章句は、「政治とは名目ではなく、行為と倫理の積み重ねである」という、私たちの働き方・リーダー像・社会貢献の本質に深く関わる普遍的な教えです。
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