役人の心得:
一つ目は「**公平(こうへい)**であること」。
――これさえ守れば、判断が明快となり、職務は正しく遂行される。
二つ目は「**清廉(せいれん)**であること」。
――これがあれば、自然と周囲に対して威厳が生まれ、信頼される存在になる。
つまり、役人として社会に関わる者が「公正さと清潔さ」を保つことは、明るい組織と揺るぎない信頼関係を築く基盤である。
家庭の心得:
一つ目は「**思いやり(恕:じょ)**であること」。
――互いに思い合えば、感情は和らぎ、家庭は円満となる。
二つ目は「**倹約(けんやく)**であること」。
――無駄を省いて暮らせば、たとえ多くの収入がなくても、必要な分は満たされる。
つまり、家庭においては「気持ちの余裕」と「生活の節度」が調和すれば、穏やかで持続可能な暮らしが築けるということである。
原文(ふりがな付き)
「官(かん)に居(お)るに二語(にご)有(あ)り。曰(いわ)く、
『惟(た)だ公(こう)なれば則(すなわ)ち明(めい)を生(しょう)じ、
惟(た)だ廉(れん)なれば則(すなわ)ち威(い)を生ず』。
家(いえ)に居(お)るに二語(にご)有り。曰く、
『惟(た)だ恕(じょ)なれば則ち情(じょう)平(たい)らに、
惟(た)だ倹(けん)なれば則ち用(よう)足(た)る』。」
注釈
- 公(こう):公平、公正。私心なく物事を判断すること。
- 明(めい):明朗。判断が明確で誤りがない状態。
- 廉(れん):私利私欲に走らない清廉潔白な心。
- 威(い):自然とにじみ出る威厳、統率力。
- 恕(じょ):相手の立場に立って思いやる心。仁の実践。
- 倹(けん):つつましやかに暮らすこと。浪費を戒める徳。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
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(公には廉潔、私には思いやりを)two-pillars-of-duty-and-home
(公務と家庭、それぞれの二つの柱)fairness-kindness-frugality
(公平・思いやり・倹約)
この条は、現代の「公私のバランス」のあり方にも非常に示唆に富んでいます。
職場では信頼される判断力と高潔さを、家庭では優しさと節度ある暮らしを――
この4つの要素さえ守れば、人としての基本がきちんと立ち上がる。それは何よりも堅牢な人生の土台となるのです。
1. 原文
居官有二語。曰、惟公則生明、惟廉則生威。
居家有二語。曰、惟恕則情平、惟儉則用足。
2. 書き下し文
官に居るに二語あり。曰く、「惟(た)だ公なれば則ち明(めい)を生じ、惟だ廉(れん)なれば則ち威(い)を生ず」。
家に居るに二語あり。曰く、「惟だ恕(じょ)なれば則ち情(じょう)平らかに、惟だ倹(けん)なれば則ち用(よう)足る」。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「公正であれば、自然と明察が生まれる」
→ 偏らず私情なく物事を見る姿勢が、明晰な判断を導く。 - 「清廉であれば、自然と威厳が生まれる」
→ 欲を離れた正しい行動が、他人からの尊敬を生む。 - 「思いやりがあれば、家庭の感情は穏やかになる」
→ 寛容な心は、家族間の摩擦を和らげる。 - 「倹約であれば、生活は自然と足りてくる」
→ 無駄遣いせずに慎ましく暮らせば、必要なものは十分に得られる。
4. 用語解説
- 公(こう):私心のない公正さ。フェアであること。
- 明(めい):明察、明確な判断力。
- 廉(れん):私利私欲のなさ。清廉潔白な姿勢。
- 威(い):自然と生まれる威厳や信頼。
- 恕(じょ):相手を思いやり、許す心。儒教では徳の核心。
- 情平(じょうたいら):感情が穏やかで安定していること。
- 倹(けん):節約、無駄を避ける生活態度。
- 用足(ようた)る:必要なものが十分にあること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
役職に就く者が心がけるべきことは二つある。
公正であれば、物事は明確に見えるようになり、
清廉であれば、自然と威厳と信頼が生まれる。
家庭生活において大切なことも二つある。
思いやりがあれば、家庭は穏やかになり、
倹約すれば、無理なく暮らしに満足できるようになる。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「組織における統治原理」と「家庭における生活原理」の二本立てで示されています。
- 公と廉はリーダーシップの礎:組織の長や責任ある立場では、公平な判断と清廉な行動が明確さと信頼を生む。
- 恕と倹は生活の智慧:家庭では、寛容な心と質素な暮らしが安定をもたらす。
つまり、公的な場では「原則に基づく厳しさ」が求められ、
私的な場では「情と節度に基づく柔らかさ」が必要という、
場面に応じた徳の使い分けを説いているのです。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「管理職に必要な二つの資質:公正と清廉」
- 惟公則生明:公平な判断こそが、部下の信頼と的確な意思決定につながる。
- 惟廉則生威:自分に甘くせず、利害に左右されない態度は、自然と周囲に尊敬される。
●「働く人に必要な二つの生活美徳:思いやりと倹約」
- 惟恕則情平:社内でも家庭でも、摩擦を避けるにはまず相手への想像力。
- 惟倹則用足:金銭や時間の浪費を避ける意識が、ゆとりを生む。
この4つはまさに、現代に求められる倫理的な働き方と暮らし方をシンプルに表現している名句です。
8. ビジネス用の心得タイトル
「役職には“公と廉”を、暮らしには“恕と倹”を──二つの場に二つの徳」
この章句は、リーダーシップと家庭生活の両立に悩む現代人にとって、古典からの鋭い助言となります。
- 組織では「信頼される判断」と「威厳ある姿勢」。
- 家庭では「やさしさ」と「節度」。
それぞれの環境で発揮すべき徳を理解し、使い分けることで、
より調和のとれた人生が築けるのです。
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