――内にも外にも、人の心を動かす統治が理想
楚(そ)の地方長官である葉公(ようこう)が、孔子に政治のあり方を問うた。
孔子は、それに対して明快に、しかし深い含意をもってこう答えた。
「近くの人々が喜び、遠くの人々がやってくる――それがよい政治です」
つまり、まずは地域の人々が安心して暮らせるようにし、
その姿を見聞きした遠方の人々が「そこに住みたい」と思うような社会を築くこと。
善政とは、無理に示威しなくても、人々の心を惹きつける磁力を持つものなのだ。
目に見える制度だけでなく、暮らしやすさ・敬意・秩序――
そうした価値が自然と人を集める。それが孔子の描く理想の統治だった。
原文とふりがな付き引用:
「葉公(ようこう)、政(まつりごと)を問(と)う。
子(し)曰(いわ)く、近(ちか)き者(もの)説(よろこ)び、遠(とお)き者来(きた)る。」
注釈:
- 葉公(ようこう) … 楚の国の地方長官で、名は沈諸梁(しんしょりょう)とも。孔子に政治を学ぼうとした人物。
- 近き者 … その土地に住む人々、地元の民。
- 遠き者 … 他国や遠方に住む人々。政治や暮らしぶりを聞きつけて移住を望む存在。
- 説び(よろこび) … 喜ぶ、満足する。善政の恩恵を感じること。
1. 原文
葉公問政。子曰、近者説、遠者來。
2. 書き下し文
葉公(しょうこう)、政(まつりごと)を問(と)う。
子(し)曰(いわ)く、近(ちか)き者(もの)説(よろこ)び、遠(とお)き者来(きた)る。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ)
- 「葉公、政を問う」
→ 葉の国の公(領主・政治家)が、孔子に「政治とはどうあるべきか」と尋ねた。 - 「子曰く、近き者説び、遠き者来たる」
→ 孔子は答えた。「近くの者が喜び、遠くの者がやって来るようであれば、それがよい政治である。」
4. 用語解説
- 葉公(しょうこう):楚の一地方領主で、孔子に政(政治)のあり方を尋ねた人物。
- 政(まつりごと):国家や地域を治めること。ここでは「よい統治とは何か」を問うている。
- 近き者説ぶ(よろこぶ):領地の住民・近隣の人々が満足し、幸せを感じること。
- 遠き者来たる:外部の人々がその政治を慕って移住してくること。評判が高まって、人が自然に集まってくる状態。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
葉公が孔子に尋ねた:「よい政治とは何か?」
孔子は答えた:
「身近な人々が喜び、遠くからも人々が集まってくるようであれば、それが理想的な政治である。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「内外から信頼され、魅力ある社会や組織こそ理想である」**という、極めて本質的な統治哲学を表しています。
- “近き者”が喜んでいることは、まず日常的な暮らし・地域社会・現場がうまく回っている証拠。
- “遠き者”がやってくるのは、その地域・国・組織に魅力と信頼があり、自然と人が集まる状態。
つまり、「他者を惹きつける政治」は、内部の満足と外部からの評価の両方が成立している状態だと孔子は説いているのです。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
- 「社内満足 × 社外評価 = 強い組織」
従業員満足(近き者説ぶ)と、ブランド力や応募者の多さ(遠き者来たる)の両立が健全な企業の証。 - 「顧客と社員の“自発的なファン化”を生む経営」
「いい会社ですね」「ここで働きたい」と自然に人が集まり、内部の人も誇りを持って働ける組織づくりを目指すべき。 - 「マーケティング不要なほど魅力ある組織文化」
本当にいい製品・サービス・働き方を提供していれば、外に大声で宣伝しなくとも人は集まる。 - 「組織改革の成果は“足元の笑顔”に現れる」
社内の空気、日々の満足度、現場の笑顔──これこそが本当の「改革の成果」であり、外部の関心を惹きつける源泉。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「近きを喜ばせ、遠きを惹きつける──“魅せる前に満たせ”が組織の真価」
この章句は、「いい政治・いい組織とは、自然に人が集まるもの」という、“内実の魅力”を重視した思想を端的に表しています。
企業ブランディング・働きがい改革・地域活性化などの文脈において、現代でも非常に有効な指針です。
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