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栄光の中に、滅びの種は宿る

―『貞観政要』巻五より:太宗の自戒と臣下への諫言要請

🧭 心得

真の賢君は、誉れの瞬間にこそ、最も深く己を省みる。
貞観十二年、西域の疏勒(そろく)・朱俱波(しゅくは)・甘棠(かんとう)といった諸国から、使節が貢物を持って長安に来朝した。これは唐の国威が遠くまで届いていることの象徴であった。

しかし太宗は、この華やかな出来事に浮かれることなく、むしろ不安と恐れの気持ちを口にした。
「もし国内が不安定ならば、諸国は朝貢などしてこない。だが、この栄光に私自身がふさわしいほどの徳があるのだろうか? 私は始皇帝や漢の武帝と同じように、四方を平定した。しかし彼らは最期を安穏に終えられなかった」――と。

そして太宗は、自らを戒めると同時に、臣下たちに「直言の諫め」を強く求めた。
「もしお前たちが私の欠点を隠し、美辞麗句だけを並べるならば、この国はまもなく滅ぶだろう」と、厳しくも誠実な姿勢を示した。


🏛 出典と原文

貞観十二年、西域諸国・疏勒・朱俱波・甘棠の使者、方物を貢ず。
太宗、群臣に謂いて曰く:

「もし中国が安定していなければ、どうして遠方の日南や西域の国々が使節を遣わして来ようか。私にその徳があるかと思うと、かえって不安になる

歴代で天下を一統し、辺境を平定したのは、秦の始皇帝と漢の武帝だけである。
始皇帝は暴政により、子の代で国が滅び、武帝は奢侈に耽って国祚(こくそ:王朝の命運)を危うくした。

私もまた短刀(剣)一つで四海を平定したが、彼らと同じく栄光を手にした身として、油断すれば同じ末路を辿るだろう

よって私は常に自らを恐れ、決して怠惰を許さぬよう心を引き締めている

ただ、それは公(おん)らが正しく直言して私を補佐するかどうかにかかっている
もしそなたたちが、**美辞だけを並べて私の過ちを見逃し、諂いだけを口にするならば、国家の危機はすぐに訪れるだろう」」。


🗣 現代語訳(要約)

西域からの使節の到来を喜ぶどころか、太宗は「このような栄光の時こそ、自らを戒めるべき」とし、かつて栄華を誇った始皇帝と漢武帝がいずれも安泰に終わらなかった歴史を引き合いに出して**「直言の諫め」こそ国家存続の鍵だ**と訴えた。


📘 注釈と解説

  • 疏勒(そろく)・朱俱波(しゅくは)・甘棠(かんとう):唐代に西域方面(現在の中央アジア)から朝貢してきた国々。実在と伝聞の両説あり。
  • 日南(にちなん):現在のベトナム中部。南方の朝貢国としてしばしば登場。
  • 国祚(こくそ):国家の命運、王朝の存続。
  • 三尺劍(さんじゃくのけん):短剣の意。象徴的に「自らの武」で天下を平定したことを指す。
  • 直言正諫(ちょくげんせいかん):正しいことを隠さずに進言すること。儒教的に最も忠義な臣の態度とされる。

🔗 パーマリンク案(英語スラッグ)

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  • 補足案:warned-by-history / not-blinded-by-tribute / listen-to-honest-counsel
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