天がある人に特別な「才能」を授けるのは、その人を通じて多くの人の愚を啓き、導くためである。すなわち、それは世の中をよりよくするための「使命」なのだ。
しかし現実には、その才能を自分の優越感のために使い、人の欠点を暴き、見下す材料としてしまう者がいる。それは、本来の目的を見失った行為であり、傲慢の極みである。
同様に、天がある人に「富」を与えるのは、多くの人の困窮を救うための資源としてである。にもかかわらず、その富を独占し、自分だけの快楽や権威の誇示に使い、かえって貧しい者を押しつぶす者がいる。
このように、**授かりながらもその意味を理解せず、自己のためだけに用いた者は、「天に背いた者」=戮民(りくみん)**として、天から裁かれるにふさわしい大罪人だと、厳しく戒められている。
原文と読み下し
天(てん)は一人(いちにん)を賢(けん)にして、以(もっ)て衆人(しゅうじん)の愚(ぐ)を誨(おし)う。
而(しか)して世(よ)は反(かえ)って長(ちょう)ずる所(ところ)を逞(たくま)しくして、以て人(ひと)の短(たん)を形(あらわ)す。
天は一人を富(と)ましめて、以て衆人の困(くる)しみを済(すく)う。
而して世は反って有(ゆう)する所を挟(かこ)んで、以て人の貧(ひん)を凌(しの)ぐ。
真(まこと)に天(てん)の戮民(りくみん)なるかな。
注釈
- 誨う(おしう):教え導くこと。
- 長ずる所を逞しくす:自分の長所(能力)を誇示し、他人の短所を見下すこと。
- 有する所を挟んで:富や地位など「持っていること」を鼻にかける、おごる。
- 貧を凌ぐ:貧しい者を圧迫し、さらに苦しめること。
- 戮民(りくみん):「天の戮民」とは、天の意に背く大罪人。天が罰すべき対象。
関連思想と出典
- 孟子の教え(万章章句下):「長を挟まず、貴を挟まず、兄弟を挟まず、而して友たり」
→ 自分の立場や優位性を笠に着るのではなく、徳をもって人と交わるべきと説く。
パーマリンク(英語スラッグ)案
- gifts-are-for-others(賜物は他者のためにある)
- abuse-of-talent-and-wealth(才能と富の濫用)
- heaven-punishes-the-proud(天は傲慢を裁く)
この心得は、個人の成功が社会との関係性のなかで成り立つことを思い出させてくれます。
天から授かった力を独占せず、分かち合い、活かすことが、真に意味のある生き方。持てる者の責任とは、「誇ること」ではなく「支えること」にあるのです。
1. 原文
天賢一人、以誨衆人之愚。而世反長所長、以形人之短。
天富一人、以濟衆人之困。而世反挾所有、以凌人之貧。眞天之戮民哉。
2. 書き下し文
天は一人を賢にして、以て衆人の愚を誨(おし)えしむ。而して世は反って長ずる所を逞(たくま)しくして、以て人の短を形(あらわ)す。
天は一人を富まして、以て衆人の困しみを済(すく)わしむ。而して世は反って有する所を挟んで、以て人の貧を凌(しの)ぐ。真に天の戮民(りくみん)なるかな。
3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)
一文目:
天は一人を賢くするのは、愚かな人々を教え導くためである。
→ しかし世の中は、その人の長所を誇示して、他人の欠点をあからさまにする。
二文目:
天は一人を富ませるのは、困っている人々を救うためである。
→ しかし世の中は、その財をひけらかして、貧しい人々を見下すようになる。
三文目:
真にこれは、天(自然や道理)が人々を罰するものではなく、人が自らを貶めているのである。
4. 用語解説
- 誨(おしえ)る:教え導くこと。
- 長ず(ちょうず)る:長所・得意とすること。
- 逞しくする(たくましくする):誇示する、誇り高くすること。
- 形す(あらわす):他人の短所や欠点を目立たせる。
- 挾(はさむ):ここでは「抱える」「誇る」「よりどころにする」意。
- 凌ぐ(しのぐ):見下す、侮る、上に立つ。
- 戮民(りくみん):民を殺す・罰すること。ここでは「天が罰したかのような状態」の比喩。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
天は、ある人に知恵を与えるのは、多くの人々を教え導くためであり、また富を与えるのは、困窮する人々を助けるためである。
ところが現実の世の中では、人は自分の長所を誇って他人の短所をさらし、自分の財を頼みにして他人の貧しさを見下してしまう。
これはまるで、天が人々を罰しているかのように見えるが、実際には人間自身が本来の道理を歪め、自らを堕としているのである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「能力や富は“人のために使うべきものであり、誇るためのものではない”」**という深い倫理観を示しています。
- 知恵は人を導くためにある
- 富は人を救うためにある
しかし現実には、それらを“見せびらかし”や“他人を貶める道具”にしてしまう。そうして“天(自然・理)”が授けた恩恵を、本来の意味から外してしまう。それが「自らを罰する(戮民)」行為である、と述べています。
この章句は、持てる者の責任と謙虚さ、社会的役割の本質を問いかけているのです。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「知識・スキルは“人を育てるため”に使え」
専門知識や経験を誇示するのではなく、それを後輩育成や共有に活かすことが組織全体の力を高める。教え導く姿勢こそがリーダーシップ。
●「富・権力は“恩恵”を広げる手段である」
財務・地位・予算を持つ人は、それを周囲の成長や支援に使うべき。自分の利益や優越感のために使えば、やがて組織から反発を招く。
●「謙虚さが“本来の使命”を全うさせる」
天賦の才やチャンスを得た者こそ、自らを低くし、役割に徹する姿勢が求められる。これが長期的な信頼とリーダーシップの土台となる。
●「“優越感”は組織を腐らせ、“貢献心”は組織を豊かにする」
自分の強みを、他人の劣位と比較して悦に入る態度は、組織の信頼を失う。強みを皆のために活かすことが、真のプロフェッショナリズム。
8. ビジネス用の心得タイトル
「知も富も誇るな──“授かりし力”は人のために活かせ」
この章句は、立場・知識・資源を持つ者がいかにふるまうべきかという、現代のリーダーやプロフェッショナルに対する鋭い問いです。企業理念、倫理研修、マネジメントの基盤づくりに活かせる普遍的な金言と言えるでしょう。
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