家族の誰かが過ちを犯したとき、
すぐに感情的になって怒鳴りつけたり、見限って冷たく突き放したりするのは避けるべきである。
だからといって何も言わずに放っておくのも、思いやりに欠ける。
もし直接伝えるのが難しい内容であれば、
他の話題にかこつけて、やんわりと伝えるのが良い。
また、そのとき理解してもらえなくても、
少し時間をおいて、改めて別の機会に諭すことで、自然と心に届くこともある。
まさにそれは、春のやさしい風が氷を少しずつ解かすようなもの。
穏やかで温かい空気が、やがて凍った心をほぐしていくような働きである。
このようなふるまいこそが、家庭という場にふさわしい「模範」といえるだろう。
原文とふりがな付き引用
家人(かじん)、過(あやま)ち有(あ)らば、宜(よろ)しく暴怒(ぼうど)すべからず、宜しく軽棄(けいき)すべからず。
此(こ)の事(こと)言(い)い難(がた)くば、他(た)の事(こと)を借(か)りて隠(いん)に之(これ)を諷(ふう)せよ。
今日(こんにち)悟(さと)らざれば、来日(らいじつ)を俟(ま)ちて再(ふたた)び之を警(いまし)めよ。
春風(しゅんぷう)の凍(こお)れるを解(と)くが如(ごと)く、和気(わき)の氷(こおり)を消(け)すが如くにして、纔(わず)かに是(こ)れ家庭(かてい)の型範(けいはん)なり。
注釈(簡潔に)
- 暴怒(ぼうど):感情をむき出しにした怒り。
- 軽棄(けいき):軽んじて見捨てること。
- 諷(ふう)する:他のことにかこつけて、さりげなく忠告する。
- 警める(いましめる):注意して戒める。思いやりを込めたアドバイス。
- 春風が凍れるを解く:春の風が大地をゆっくりと解かすように、穏やかに導く姿勢のたとえ。
- 型範(けいはん):模範、理想的なあり方。
パーマリンク案(英語スラッグ)
gentle-guidance-is-family-wisdom
「優しく導くことこそ家庭の知恵」という本条の主旨を表したスラッグです。
その他の案:
- warmth-heals-in-the-home
- like-spring-melting-ice
- patience-is-family-leadership
この章は、家庭における人間関係の本質を見事に捉えています。
家族だからこそ、感情ではなく誠意で、正しさではなく温かさで導くことが大切なのです。
真の愛情は、怒りで一時的に正すことではなく、
相手が気づき、変わる「きっかけ」をそっと差し出すことにある――
それが、家族における最も成熟したふるまいです。
1. 原文
家人有過、不宜暴怒、不宜輕棄。此事難言、借他事隱諷之。今日不悟、俟來日再警之。如春風解凍、如和氣消氷、纔是家庭型範。
2. 書き下し文
家人、過ち有らば、宜しく暴怒すべからず、宜しく軽(かろ)んじて棄つべからず。
此の事言い難ければ、他の事を借りて隠(ひそ)かにこれを諷(ふう)せよ。
今日悟らざれば、来日を俟(ま)ちて再びこれを警めよ。
春風の凍れるを解くがごとく、和気の氷を消すがごとくして、纔(わず)かに是れ家庭の型範(けいはん)なり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 家人有過、不宜暴怒、不宜輕棄。
→ 家族に過ちがあっても、怒りを爆発させてはならず、軽く見て見捨ててもいけない。 - 此事難言、借他事隱諷之。
→ 直接言いにくいならば、他の話題を借りて遠回しに諭すようにすべきである。 - 今日不悟、俟來日再警之。
→ 今日すぐに悟らなくても、日を改めて再び注意すればよい。 - 如春風解凍、如和氣消氷、纔是家庭型範。
→ 春の風が氷を溶かすように、和やかな雰囲気で諭すことこそ、家庭の理想的な模範である。
4. 用語解説
- 家人(かじん):家族・身内のこと。
- 暴怒(ぼうど):激しく怒ること。
- 軽棄(けいき):軽んじて見限ること。
- 諷(ふう)する:直接言わずにやんわりと示す、比喩や他の話題を通じて戒める。
- 春風解凍(しゅんぷうかいとう):穏やかな風が自然と凍りを解かすように、優しさで解決すること。
- 和氣消氷(わきしょうひょう):和やかな気配で冷たさを溶かすこと。
- 家庭型範(かていけいはん):家庭における理想的な態度・模範。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
家族が過ちを犯したとしても、感情的に怒りをぶつけたり、見限ってしまってはならない。
もし直接伝えづらい内容であれば、他の話題を使ってやんわりと諭すべきだ。
その場ですぐに気づかなくても、翌日また静かに諭せばよい。
春風が氷を溶かすように、温かな気持ちで接してこそ、真に理想的な家庭の在り方である。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**家庭内での人間関係における「温かく、持続的な教え方」**の大切さを説いています。
- 家族という近しい関係こそ、言い方一つで深く傷ついたり、逆に成長を促す場にもなります。
- 一時の感情で怒鳴ったり切り捨てたりするのではなく、愛と知恵で静かに支える姿勢が求められます。
- 時間をかけてでも、相手が自ら悟るように導くことが、長期的な信頼と成長につながるのです。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 社員教育・指導の心得として応用できる
- 部下のミスに対して怒鳴るのではなく、「なぜ起きたか」「どうしたら防げるか」を、別の事例や環境から導くことで、真の理解と自立を促せる。
▪ チームの関係性は、“空気”によって成り立つ
- 対話の温度感が「春風のように柔らかく」あることが、職場の信頼と安心を支える。
▪ タイミングと伝え方が、教育の成果を左右する
- 今日気づかなければ、明日もう一度伝えればいい。あきらめないことと、穏やかであることの両立が重要。
8. ビジネス用の心得タイトル
「怒りより思いやり──“春風のように教える人”が人を育てる」
この章句は、家庭内だけでなく、組織運営・教育・人間関係全般において通用する深い知恵です。
- 怒りではなく理解を。
- 即効より、持続的な成長を。
- 厳しさより、やさしさの中にこそ教育の力がある。
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