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資金運用表

目次

資金運用表について

資金運用とバランスシートの関係については理解した。では、資金運用表とは具体的にどのようなものであり、バランスシートとどのように関連しているのか。

ここで参考になるのが「第15表」であり、これが資金運用表のフォーマットを示している。

資金運用表のフォーマット

ご覧の通り、この表は「田の字」構造になっており、四つの区分が設けられている。上部が固定資金、下部が運転資金、右側が使途、左側が源泉を示している。

まとめると、資金運用表は以下の4つの区分に分かれている。

  1. 固定資金の使途(右上)
  2. 固定資金の源泉(左上)
  3. 運転資金の使途(右下)
  4. 運転資金の源泉(左下)

資金運用表の記載順

記入の順番としては、固定資金から始める。

最初に必要となる固定資金、つまり使途にあたる部分を記載する(右上①)。

次に、その資金をどのように調達するか、すなわち源泉にあたる部分を記入する(②)。

続いて、運転資金の使途を③に記する。

最後にその源泉を④に記載する。

この記入方法の詳細については後ほど触れる。

資金運用表とバランスシートの関係

その前に資金運用表とバランスシートを並べて比較してみてほしい。下記は、バランスシートを資金の区分に基づいて整理したものである。

資金運用表の①に該当するのは「固定資金の使途」であり、これはバランスシートにおける固定資産と繰延資産に相当する部分(左下)を指す。この部分を資金運用表の区分記号①で表すことができる。

同様に、固定資金の源泉はバランスシートの右下部分に該当し、これに②の記号を付ける。また、左上の流動資産は運転資金の使途を意味するため③の記号が付与される。一方、右上の流動負債は運転資金の源泉に相当し、これに④の記号が割り当てられる。

ここで、「第15表」の資金運用表を「逆さ」にしてみる。そして、それを「第16表」のバランスシートと比較し、それぞれの区分記号―①、②、③、④の位置関係を確認してみよう。

両者を照らし合わせると、記号の位置が完全に一致していることがわかるはずだ。

このことから明らかになるのは、バランスシートを逆さにしたものが資金運用表そのものであるという点だ。

資金運用計画

では、いよいよ「資金運用計画」に話を進めよう。巻末に掲載されている「第17表」の「資金運用計画表」を参照しながら進めてほしい。

この表に記入する数字は、「期末における数値が期首と比べてどれだけ変化したか」という「差額」を示すものである。

「出っ放し」の資金については、期中に支出された総額がそのまま差額となり、「入りっ放し」の資金は、期中に収入された総額が差額として現れる。

一方、「出たり入ったり」する資金の場合、期首残高と期末残高、すなわち帳尻の差額が該当する。これらの差額が計画期間中に新たに発生する各勘定科目の資金の使途および源泉を示しているわけだ。

記入にあたっては、まず各資金の使途と源泉を慎重に見積もることが必要となる。これが、いわゆる「資金運用計算」のプロセスである。

計算結果をもとに、その内容をじっくり検討する。危険な要素はないか、無駄が生じていないか、さらに効率的な運用方法が考えられないか……といった点を議論しながら、試行錯誤を繰り返す。そ

して、より良い形へと改善し、最終的に計画を確定させる。このプロセスこそが「資金運用計画」の本質である。

①固定資金の使途

では、いよいよ具体的な記入手順に入ろう。記入の順番は先述した通りで進める。まず固定資金の使途から始める。

固定資金の使途項目

  • 前期利益金処分(例:法人税、配当金、役員賞与)
  • 当期予定納税(前期法人税の半分程度)
  • 長期借入金返済(年間の総返済額)
  • 前期設備支手決済(未払手形の決済)
  • 当期設備投資(取得価格を記入し、残額は当期支手として記入)
  • その他(関係会社増資や団体生命保険料など)

1. 前期利益金処分

その最初が「1. 前期利益金処分」である。

ここでいう「前期」とは、この資金運用計画が第八期のものであれば、第七期を指す。つまり、前期に発生した利益のうち、当期において処分(すなわち外部へ流出)するために必要な資金を計上する。これが固定資金の使途としての最初の項目となる。

これは、営業報告書に記載されている「当期利益を下記の通り処分いたします」という部分に該当する内容だ。「①法人税等」とは、法人税および地方税を指している。「②配当金」や「③役員賞与」については、特別な説明を必要としない明確な項目である。

2. 当期予定納税

次に「2. 当期予定納税」である。これは一年決算の会社に見られる項目で、金額は前期法人税の約半分程度とされる場合が多い。

3. 長期借入金返済

続いて「3. 長期借入金返済」だが、これは「出っ放しの資金」に該当する項目である。年間に返済予定の総額をここに記入する。これらはいずれも資金運用計画において重要な要素を構成する。

4. 前期設備支手決済

「4. 前期設備支手決済」は、その名称の通りである。この支手には、以下の二種類がある。

  1. 損費勘定の支手
    設備に関連する費用として計上される部分で、損益計算書の費用項目に該当する。
  2. 資産勘定の支手
    設備の購入や建設など、資産として計上される部分で、バランスシートの資産項目に該当する。

これらは前期に発生した設備関連の支出のうち、当期において決済される分を示している。

この二つの支手は性質がまったく異なるものであるため、それぞれ別々に取り扱い、異なる視点で考える必要がある。しかし、実際には試算表やバランスシート上では区別されることなく、「支払手形」として一括して扱われているのが現状だ。

この一括表示によって、資金運用の観点から重要な区分が曖昧になり、詳細な分析や計画が難しくなる可能性がある。

つまり、現在の形式は外部への報告を目的としたものであり、企業内部の実態や立場が完全に無視されている状態にあるということだ。外部報告においては一括表示でも問題はないかもしれないが、企業内部での管理や意思決定に用いる試算表では、これらを明確に区別すべきだというのが私の主張である。試算表の区別によって、資金運用や財務管理においてより精密で有用な情報が得られるはずだ。

損費勘定の支手は運転資金に該当するため、運転資金として適切に管理する必要がある。一方、資産勘定の支手は固定資金に該当するため、固定資金としての視点で考えるべきである。この区別を行うべき理由は、運転資金と固定資金では性質や役割が異なるため、それぞれの特性に応じた管理と運用を行うことが資金計画の精度向上につながるからだ。適切な分類と管理が、企業内部の資金運用を効率的かつ合理的に進める鍵となる。

ただし、このように厳密に分離しなければ資金運用計画が作成できないというわけではない。したがって、状況や必要性に応じて分離しない方法を取ることも問題はない。分離の有無は、計画の目的や企業内部の運用方針に基づいて柔軟に判断すればよい。最も重要なのは、資金運用計画が実用的であり、意思決定に役立つ形で構築されているかどうかである。

5. 当期設備投資

「5. 当期設備投資」については、非償却資産である土地と、償却資産である建物や機械設備などの二つに分類すれば十分である。この項目に記入するのは、投資額、すなわち設備の取得価格だ。

短期的な資金運用計画の場合、この数字は短期設備計画書に記載された数字と一致する。なお、投資額のうち、来期以降に支払われる予定の金額は、固定資金の源泉項目に「当期設備支手」として記載し、両建て処理を行う必要がある。これは、バランスシートの整合性を保つために欠かせない操作である。両建てを行わなければ、資金の流れと残高が正確に反映されず、計画全体の整合性が失われることになる。

6. その他

「6. その他」に関しては、バランスシートの固定資産勘定を細かくチェックし、そこから発生する資金があるかどうかを確認する。何らかの資金の動きが確認できた場合、それを適切に記入すればよい。

具体的な例としては、以下のような項目が挙げられる:

  • 団体生命保険料の払込み
    企業が加入する保険の支払いに伴う資金。
  • 関係会社への増資払込み
    関係会社の資本金増加に対する出資金。
  • テナントの保証金
    テナント契約に伴う保証金の支払い。

これらの項目は一見すると小規模な資金の動きであっても、計画の精度に影響を与えるため見落とさずに記入することが重要である。

以上で述べた項目が、計画期間中に発生する固定資金の総額を構成する。この総額に対し、必要な資金を確保し、それをもって固定資金のすべての使途を賄う必要がある。そのうえで、さらに固定資金の余裕を確保することが求められる。

固定資金余裕

固定資金余裕とは、予期せぬ支出や突発的な投資機会に対応するための資金的な安全策であり、企業の財務安定性を支える重要な要素だ。計画を策定する際には、この余裕を考慮しつつ、資金の過不足が生じないようにバランスを取ることが不可欠である。

②固定資金の源泉

固定資金の源泉

  • 期首現金・流動預金(当座・普通・通知預金)
  • 当期経常利益(利益計画の数字)
  • 当期減価償却費(資金源としての減価償却費)
  • 前期予定納税(予定納税額が減ることで源泉とする)
  • 当期設備支手(設備支手の両建て)
  • 増資
  • その他(株式売却、土地売却など)
  • 長期借入金(不足分に余裕をもたせた額を計上)

1. 期首現金・流動預金

次に行うのは、必要な固定資金をどのように、またいくらの金額で調達するかを、固定資金の源泉として見積もることである。その第一の源泉が「1. 期首現金・流動預金」である。

流動預金には、以下の三種類が含まれる:

  • 当座預金
  • 普通預金
  • 通知預金

これらの流動預金は、その性質上、現金と同等に扱われるため、現金と一括して管理する。このように現金および流動預金を最初の資金源とすることで、計画期間中の固定資金需要の一部を賄う。

現金および流動預金は即時性のある資金として重要な役割を果たすため、優先的に考慮される項目である。

固定預金については、解約しない限り即時に資金として利用することができないため、流動性の観点から現金や流動預金とは明確に区別して扱う必要がある。(ただし、資金調達の担保や見返りとして利用される場合がある。)

この点において、バランスシート上で「現金預金」として固定預金をまとめて表示することは、外部報告用としては問題ない。

しかし、資金運用計画の観点では固定預金を別個に考慮するのが適切である。なぜなら、即時利用可能な資金と、そうでない資金を区別することで、資金の流動性や運用可能性を正確に把握できるからだ。

このように区分することで、資金計画がより実態に即したものとなり、意思決定の精度が向上する。

期首の現金・流動預金は、決算が完了するまで正確な金額を把握することができない。しかし、各企業には通常、最低限必要とされる金額が存在する。これは、以下のような状況によって影響を受ける:

  • 決算日の直後に支手決済日が控えている場合
    必要な資金を確保しておく必要があり、金額は多くなる。
  • 決算日の直前に支手決済日や給料日がある場合
    決算時点での必要金額は比較的少なくて済む。

これらを考慮して、適切な金額を見積もり記入するのが望ましい。ただし、見積もりが煩雑で手間がかかる場合には、いっそのこと「0」として記入する方法もある。計画の段階で「0」としておけば、最低必要額を別途考慮して追加する形で柔軟に調整が可能となる。重要なのは、資金運用計画全体の整合性を保ちながら進めることだ。

2. 当期経常利益

「2. 当期経常利益」は、利益計画に基づく数字をそのまま記入する。

3. 当期減価償却費

「3. 当期減価償却費」も同様に、利益計画で計算された金額を記入する必要がある。減価償却費が資金の源泉とみなされる理由については「経営計画篇」で詳しく説明しているので、そちらを参照するとよい。

4. 前期予定納税

「4. 前期予定納税」は、前期にすでに予定納税を行っているため、当期の納税額がその分軽減され、資金の源泉と見なされる。

5. 当期設備支手

「5. 当期設備支手」は、すでに述べた通り、来期以降に決済される設備投資分を固定資金の源泉として記入する。

6. 増資

「6. 増資」は特に説明を要しない項目であり、新たな資本投入による資金の追加を表す。これも資金の重要な源泉の一つとして考慮される。

7. その他

「7. その他」は、特定の条件下で発生する資金の源泉を記入する項目であり、以下のようなケースが該当する:

  • 前期赤字による還付金
    前期に税負担が過剰だった場合に発生する還付金。
  • 配当金や役員賞与の未払い
    前期に計上されたが、まだ支払われていない場合。
  • 土地売却
    固定資産である土地を売却し、得られる収入。
  • 株の売却
    保有株式を売却した際の収入。
  • 敷金や保証金の受け取り
    テナント契約やその他取引で発生する保証金の収入。

これらは通常発生する項目ではないが、特定の状況で発生する資金源として重要な位置を占める。計画作成時には、これらの項目を適切にチェックし、記載漏れがないよう注意が必要である。

8. 長期借入金

「8. 長期借入金」は、以下の手順で見積もる。

  1. 固定資金の使途合計を算出
    計画期間に必要とされる固定資金の総額を計算する。
  2. 「固定資金余裕」を加算
    固定資金の使途合計に、必要な固定資金余裕を追加する。この余裕額は、各企業の性格や運営状況によって大きく異なる。
  • 固定資金余裕の適正額を見積もる際には、まず仮の数字を設定して計算し、その結果から余裕が多すぎるのか少なすぎるのかを確認して調整する。
  • 例えば、受手のサイト(支払サイト)が長い企業や、材料費率が低い企業では運転資金が不足しがちになるため、固定資金余裕を多めに設定し、この余裕分を運転資金として流用する必要がある。

これらの計算を通じて導き出される金額が、必要とされる固定資金全体の規模を反映する。そして、この総額を基にして、実際に調達するべき長期借入金の額を見積もる。適切な余裕を持たせることで、予期せぬ資金需要や運転資金不足に対応できる計画が可能となる。

次のステップとして、固定資金の源泉を合計し、それを固定資金余裕を含めた使途の合計と比較する。その結果、差額として不足分が明らかになる。この不足分に対して、十分な余裕を持たせた金額を長期借入金として計上するのが適切である。この際、きりの良い数字、たとえば上二桁だけを揃えた金額とするのが望ましい。

注意すべき点

  1. 両建預金の発生
    長期借入金に両建預金が伴う場合がある。これにより、必要な借入金額が増加することになるため、この分を考慮して借入金額を設定する。両建預金については、固定資金の使途に記載する。
  2. 当期中の借入返済の有無
    当期中に借り入れた長期借入金の一部を返済する場合、その返済額も固定資金の使途として忘れずに記載する必要がある。

これらを適切に反映することで、計画が現実的かつ柔軟性のあるものとなり、資金運用全体の整合性が保たれる。また、長期借入金の設定においては、企業の財務バランスや資金需要を十分に検討し、過不足のない計画を構築することが重要だ。

長期借入金を記入した後、固定資金の源泉の記入が完了する。そのため、次の手順を進める:

  1. 固定資金の源泉の「計」を記入する
    固定資金の各項目を合計し、その金額を「計」として記入する。
  2. 同額を固定資金の使途の「計」に記入する
    固定資金の源泉の「計」と同じ金額を、固定資金の使途の「計」に記載する。
  3. 差額を固定資金余裕に記入する
    固定資金の使途の合計額と源泉の合計額との差を計算し、その差額を「固定資金余裕」として記入する。

これにより、固定資金の使途と源泉がバランスし、資金運用計画の固定資金部分が完成する。ここで注意すべきは、この手法がバランスシートの作成と同じ要領で行われている点である。

運転資金の計画へ

固定資金の計画が終了したら、次に運転資金の計画に移る。ここでも、固定資金と同様に使途から始める。運転資金の使途と源泉をそれぞれ整理して記入することで、運転資金計画のバランスを取っていく。

「1. 受取手形増加」は、期中に増加した金額を指す。この場合の「受取手形」とは、手持手形割引手形の合計額を意味する。

バランスシートと資金運用計画の違い

  • バランスシートでは、手持手形のみを「受取手形」の勘定科目として記載し、割引手形は「脚注」に記載する形式が一般的である。
  • 外部報告用としてはこの方法で問題ないが、資金運用計画では手持手形と割引手形を分けて考えることは非現実的である。

理由

資金運用計画では、運転資金の全体像が明らかにならないと、割引手形の必要額を計算することができない。そして、割引手形の額が確定しなければ、手持手形の正確な額を計算することもできない。両者が相互に依存しているため、資金運用ではこれらを一括して「受取手形」として扱い、計画を進めるのが実務的である。

したがって、資金運用計画においては、手形の詳細な分類にこだわらず、全体の使途額をもとに割引手形の必要額を含めた計算を行い、計画を立てることが効率的である。

受取手形の期中増加額は、以下の計算式で求めることができる:

[
\text{期中受取手形増加額} = \text{期末受取手形} – \text{期首受取手形}
]

各数値の算出方法

  1. 期首受取手形
  • 決算後の場合:期首の受取手形は、「手持手形」と「割引手形」を合計すればよい。
  • 決算前の場合:その時点での受取手形の数字をもとに推定する。この推定はさほど難しくない。経営計画が通常、決算の2〜3カ月前に作成されるため、その時点の数字をほぼそのまま利用しても問題ない。
  1. 期末受取手形
  • 計画期間の終わりにおける受取手形の見込み額を設定する。

推定の簡便性

推定が必要な場合でも、経営計画が作成されるタイミングでは手元にかなりの情報が揃っているため、正確な見積もりを出すのは難しくない。特に、決算前の時点での受取手形残高をそのまま活用することは、実務上十分に許容される。

この方法により、期中の受取手形増加額を効率的に計算し、資金運用計画に反映させることができる。

期末受取手形の見積りは、受取手形回転率を用いて以下の手順で行う。具体例をもとに説明する。

計算手順

  1. 前期受取手形回転率の算出
  • 計算式:
    [
    \text{受取手形回転率} = \frac{\text{前期売上高(年商)}}{\text{前期受取手形(手持+割手)}}
    ]
  • 例:
    [
    \text{前期受取手形回転率} = \frac{500,000千円}{100,000千円} = 5
    ]
  1. 計画期末の受取手形見積り(回転率が同じ場合)
  • 計算式:
    [
    \text{計画期間売上高(目標)} \div \text{計画期末受取手形} = \text{前期受取手形回転率}
    ]
  • 式を変形:
    [
    \text{計画期末受取手形} = \frac{\text{計画期間売上高(目標)}}{\text{前期受取手形回転率}}
    ]
  • 例:
    [
    \text{計画期末受取手形} = \frac{600,000千円}{5} = 120,000千円
    ]
  1. 期中受取手形増加額の算出
  • 計算式:
    [
    \text{期中受取手形増加額} = \text{計画期末受取手形} – \text{期首受取手形}
    ]
  • 例:
    [
    \text{期中受取手形増加額} = 120,000千円 – 100,000千円 = 20,000千円
    ]

調整と予測の織り込み

計算で得られた数字に対し、計画期間中に予測される以下の変化を反映する:

  • 金融環境の変化
    金融引き締めが予想される場合、受取手形が増加する可能性を考慮。
  • 顧客構成の変化
    取引先の支払い状況や信頼性が売上に影響を与える場合、受取手形の回転率や残高を調整。

これらの要因を基に、計画の精度を高めた見積りを行うことで、実態に即した運用計画を立てることができる。

「2. 売掛金増加」も、受取手形と同様に、売掛金回転率を利用して期末残高を見積り、そこから増加額を計算する。

売掛金回転率の計算式

[
\text{売掛金回転率} = \frac{\text{売上高(年商)}}{\text{売掛金}}
]


計算手順

  1. 前期売掛金回転率の算出
  • 前期の売上高と売掛金残高を用いて回転率を計算。
  • 例:
    前期売上高が5億円(500,000千円)、前期売掛金が1億円(100,000千円)の場合:
    [
    \text{売掛金回転率} = \frac{500,000千円}{100,000千円} = 5
    ]
  1. 計画期末の売掛金見積り
  • 前期の売掛金回転率が変わらないと仮定して計算。
  • 計算式:
    [
    \text{計画期末売掛金} = \frac{\text{計画期間売上高(目標)}}{\text{前期売掛金回転率}}
    ]
  • 例:
    計画期間売上高が6億円(600,000千円)の場合:
    [
    \text{計画期末売掛金} = \frac{600,000千円}{5} = 120,000千円
    ]
  1. 期中売掛金増加額の算出
  • 計算式:
    [
    \text{期中売掛金増加額} = \text{計画期末売掛金} – \text{期首売掛金}
    ]
  • 例:
    期首売掛金が1億円(100,000千円)の場合:
    [
    \text{期中売掛金増加額} = 120,000千円 – 100,000千円 = 20,000千円
    ]

調整と予測の織り込み

計算結果に対し、以下の予測を反映することで、より正確な増加額を見積もる:

  • 顧客の支払いサイトの変更
    取引先の支払い期間が長くなる場合、売掛金残高が増加する可能性を考慮。
  • 売上構成の変化
    新規顧客の増加や特定の顧客との取引割合の変化が、売掛金に影響を及ぼす場合がある。

これにより、計画期間中の売掛金の動きをより実態に即した形で予測し、資金運用計画に反映できる。

「3. 棚卸資産増加」の計算は、在庫状況が正常である場合と過剰在庫の場合でアプローチが異なる。


1. 正常な在庫状況の場合

棚卸資産回転率を用いて計算を行い、予測される増減要因を反映する。

棚卸資産回転率の計算式

[
\text{棚卸資産回転率} = \frac{\text{売上高(年商)}}{\text{棚卸資産}}
]

計算手順

  1. 前期棚卸資産回転率の算出
    前期売上高と前期棚卸資産の値を用いて計算。
  • 例:
    前期売上高が5億円(500,000千円)、前期棚卸資産が1億円(100,000千円)の場合:
    [
    \text{棚卸資産回転率} = \frac{500,000千円}{100,000千円} = 5
    ]
  1. 計画期末棚卸資産の見積り
    前期の回転率が変わらないと仮定し、計画期末の棚卸資産を計算。
  • 計算式:
    [
    \text{計画期末棚卸資産} = \frac{\text{計画期間売上高(目標)}}{\text{前期棚卸資産回転率}}
    ]
  • 例:
    計画期間売上高が6億円(600,000千円)の場合:
    [
    \text{計画期末棚卸資産} = \frac{600,000千円}{5} = 120,000千円
    ]
  1. 期中棚卸資産増加額の算出
    計算式:
    [
    \text{期中棚卸資産増加額} = \text{計画期末棚卸資産} – \text{期首棚卸資産}
    ]
  • 例:
    期首棚卸資産が1億円(100,000千円)の場合:
    [
    \text{期中棚卸資産増加額} = 120,000千円 – 100,000千円 = 20,000千円
    ]

2. 過剰在庫の場合

在庫削減を目指す場合には、社長や経営陣の意向に基づいて削減目標を設定する。この際、以下の点を考慮する:

  • 正常在庫の回転率を参考にする
    業界標準や過去の正常時の回転率を参考に、削減目標を現実的な範囲に設定する。
  • 具体的な削減額を計画に組み込む
    「いくら減らしたいか」という明確な目標を設定し、期中棚卸資産の減少額として反映する。

予測と調整

  • 需要変動仕入れリードタイムの影響を考慮して、増減を修正。
  • 在庫削減が売上や生産活動に与える影響も評価し、計画の実現性を検討する。

これにより、計画に現実性を持たせながら、運転資金への影響を最適化できる。

以下は、運転資金の使途に関する各項目の解説と処理手順です。


1. 固定預金

通常は「定期積金」として扱われる項目。これにより運転資金が減少するため、計画時には考慮が必要。


2. 短期借入金返済

  • 実際に返済が行われる場合には、その返済額を記入する。
  • 「ころがし」(借り換え)によって実質的に返済がない場合は、この項目を「0」として処理する。

3. その他

運転資金の使途を構成する流動資産の各勘定科目を見直し、大きな変動が予想される項目を記入する。例えば:

  • 前払金の増減
  • 消耗品の購入
  • 一時的な資金流出(例:保証金の支払い)

これらを適切にチェックし、該当する項目を記載する。


4. 期末現金流動預金

この項目は未記入のまま進める。具体的な金額は「運転資金の源泉」を計算した後に最終的に決定する。


5. 運転資金の源泉へ移行

運転資金の使途が一通り整理できたら、次に「運転資金の源泉」に移る。ここで、運転資金の調達方法を記載し、使途と源泉のバランスを取る作業を進める。

「2. 支払手形増加」は、支払手形回転率を用いて期末残高を見積り、期首残高との差額を算出する方法を取る。この手法は、受取手形や売掛金の増加額を計算する際と同様の考え方である。

支払手形回転率の計算式は以下の通りとなる。

[
支払手形回転率 = \frac{\text{売上高(年商)}}{\text{支払手形}}
]

「3. 買掛金増加」は、計算方法としてはすでに理解できるだろう。期首と期末の買掛金残高の差額を算出する形となる。買掛金回転率を用いて計算を行う場合、その式は以下の通りだ。

[
買掛金回転率 = \frac{\text{売上高(年商)}}{\text{買掛金}}
]

これまで繰り返し示してきた回転率の計算式からも分かる通り、「回転率」を求める際には、計算式の分子は常に売上高(年商)となる。一方、分母には、計算しようとする回転率に対応する勘定科目を入れるだけでよい。たとえば、受取手形回転率なら分母に受取手形、買掛金回転率なら分母に買掛金を用いるといった具合だ。

残る項目は、「4. 割引手形増加」と「5. 短期借入金増加」である。この二つについては、回転率を用いて計算することは適さない。理由は、これらが前述の運転資金の源泉、すなわち固定資金余裕支払手形増加買掛金増加の三つで補いきれなかった不足分を埋める役割を担っているからである。したがって、これらの増加額は、計画全体の資金不足額を見極めたうえで設定される。

計算手順は次の通りである。まず、運転資金の使途の総額に期末現金流動預金を加える。この期末現金流動預金は、売上高が伸びている場合、期首現金流動預金に売上の伸び率を考慮して若干の余裕を加えた金額とする。

次に、以下の項目の合計をこの金額から差し引く:

  • 固定資金余裕
  • 支払手形増加
  • 買掛金増加

こうして算出された不足資金が、実際に必要な追加資金となる。この不足資金を割引手形短期借入金にどのように割り振るかを決定することが、計画の最終ステップとなる。

割り振りの割合や基準は、会社の財務方針や資金調達能力、運転資金の必要性に応じて柔軟に設定することが求められる。

まずは割引手形(割手)である。初めに、割引手形回転率を用いて計算を試みる。ただし、割引手形は、実際にその金額だけの受取手形がなければ割ることができない。このため、割引可能な手形の金額は受取手形増加分の8~9割程度と見積もるのが現実的である。

計算と留意点

  1. 割引手形回転率の計算
    [
    \text{割引手形回転率} = \frac{\text{売上高(年商)}}{\text{割引手形}}
    ]
    この回転率を用いて、計画期末の割引手形を一旦計算する。
  2. 割引可能な手形の制約
    受取手形増加分がすべて割引に回せるわけではない。安全率を見込んで、割引可能な金額を受取手形増加分の8割~9割程度として見積もる。
  3. 割引手形の決定
    こうして算出された割引手形の金額を不足資金の補填に充てる。

現実的な調整

割引手形は、資金調達の柔軟性を高める一方で、調達コストや受取手形の信頼性による制約がある。したがって、割引可能額を慎重に見積もり、実現可能な範囲内で計画に組み込む必要がある。残りの不足分は短期借入金で補うことになる。

割引手形の源資が十分にある場合、その金額を「4. 割引手形増加」として記入する。不足が生じる場合は、源資の範囲内で可能な限り割引手形を増加させ、その額を記載する。割引手形で補いきれなかった残りの不足分は「5. 短期借入金増加」として記入する。

その後、以下の手順で計画を完成させる:

  1. 運転資金の源泉の「計」を記入
    運転資金の各源泉を合計し、その金額を「計」として記載する。
  2. 運転資金の使途の「計」に反映
    運転資金の源泉の「計」と同額を運転資金の使途の「計」に記入する。
  3. 期末現金流動預金の算出と記入
    運転資金の使途の合計額と源泉の合計額との差額を計算し、その差額を「期末現金流動預金」として記入する。

これにより、一通りの資金運用計画の計算が完了する。最後に計画全体を見直し、数字の整合性や現実性を確認して微調整を行うことが重要だ。

計画の見直し

作成後に数字を検討し、実現可能性やリスクを再確認することで、実用的な「資金運用計画」となります。この計画をもとに、会社の資金の流れを適切に管理し、資金ショートを防ぐことが重要です。

蛇足ながら、この計算では、以下のような数字の扱い方を心がけると効率的である。

  1. すでに確定している数字
    例えば、前期予定納税など、実際に発生している金額はそのまま利用する。
  2. 計算で明確に求められる数字
    長期借入金返済定期積金のように、発生額が明確に計算可能な項目についても、正確な数値をそのまま使用する。
  3. 計画数字はキリのよい値を採用
    計画のために設定する数字(例えば、割引手形増加や短期借入金増加など)は、キリのよい値を使うのが実務的である。計画値は、あくまで考察や意思決定のための目安であり、細かな調整は必要ない。
  4. 半端な数字の扱い
    端数が生じた場合、それを期末現金流動預金に吸収させる形で調整する。こうすることで、計画全体の整合性を保ちながら、計算を簡潔に済ませることができる。

計画は精密さを求めるよりも、全体像をつかみやすくし、実際の運用や判断を円滑に進めるための道具として機能させるべきである。このような数字の扱い方がその目的に適している。

計算が完了したら、その結果を慎重に検討する必要がある。具体的には、以下の点を確認する:

  1. 潜在的なリスクの有無
  • 計画した数字に過度な依存がないか。
  • 資金繰りが逼迫する可能性はないか。
  • 外部要因(経済情勢、取引先の状況など)が影響するリスクが隠れていないか。
  1. 実現可能性の確認
  • 計画した数字が現実的で実現可能かどうか。
  • 例えば、割引手形や短期借入金の調達がスムーズに行える状況か。
  1. 裏付けの検証
  • 数字の根拠が明確であるか。
  • 特に、予測に基づく部分(売上高や在庫回転率など)が適切に見積もられているかを再確認。

まとめ

これらを慎重に検討し、不整合や無理のある箇所を見つけた場合は、計画を修正していく。このプロセスこそが「資金運用計画」の本質であり、単なる計算ではなく、計画の妥当性と実現可能性を追求する重要なステップである。

資金運用表は、事業活動における資金の使途と源泉を視覚化し、計画的に資金を管理するための重要なツールです。資金運用表は、「田の字」構造で固定資金と運転資金を、使途と源泉ごとに整理します。

資金運用表の構成

資金運用表とバランス・シートの関係

資金運用表は、バランス・シートを逆さにした形で表され、以下のように対応します:

  • 固定資金の使途は、バランス・シート上の固定資産と繰延資産
  • 固定資金の源泉は、固定負債、引当金、資本金
  • 運転資金の使途は、流動資産
  • 運転資金の源泉は、流動負債

資金運用表の作成手順

  1. 運転資金の使途
  • 受取手形増加(期首・期末の差額で増加額を算出)
  • 売掛金増加(売掛金回転率で見積り)
  • 棚卸資産増加(正常在庫を参考に予測)
  • 固定預金(定期積金など)
  • 短期借入金返済(返済がなければ「0」)
  • その他(流動資産の勘定科目を確認)
  1. 運転資金の源泉
  • 固定資金余裕(運転資金に回す余剰資金)
  • 支払手形増加(支払手形の回転率をもとに見積り)
  • 買掛金増加(買掛金の期末・期首差額)
  • 割引手形増加(不足資金を補うための手形割引)
  • 短期借入金増加(不足分の最後の手段として計上)
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