資金は最も重要な要素
「資金」は、事業経営において「損益」と並ぶ最も重要な要素であり、社長の資金調達能力は事業の成否を左右する決定的な要因と言える。また、
資金は社長の最大の関心事であり、同時に最も大きな悩みの一つであることも疑いの余地がない。
それにもかかわらず、日本の多くの会社の社長、たとえ大企業であっても、その大半が「資金音痴」と言える状況にあるのは実に不思議なことだ。

実務に即したノウハウが出回っていない
しかし、一方でそれも仕方のないことと言える。資金の動きは非常に複雑で、その全体像を理解するのは容易ではないからである。
もう一つの理由は、資金に関する文献が膨大に存在しているにもかかわらず、事業経営に必要な実践的な理論がほとんど存在しないことにある。
結局のところ、資金というものは実務の経験がない学者には扱いきれるものではない。資金についての現状は、このように極めて残念な状態にあると言える。
実を言えば、私自身もかつて資金の問題に悩み抜いた一人だ。どれだけ文献を読み漁っても役に立たず、教えてくれる人も見当たらない。完全に行き詰まり、手の打ちようがなかったのだ。
バランスシートは意図して変えられる
その状況を打破するきっかけが訪れたのは、コンサルタントになったばかりの頃だった。静岡県清水市のスター精密を訪問し、当時の専務であった佐藤誠一氏の話を伺っていたときのことだ。佐藤氏が資金について触れ、「資金運用が変われば、バランスシートが変わる」とおっしゃった。その一言が私にとって電撃のような衝撃となったのである。
驚くべきことに、このような基本的で重要なことを明確に教えてくれる文献は存在しなかった。
その一言が、私の中で複雑にもつれていた「資金」という問題の糸を解きほぐすための「糸口」となった。それをきっかけに、資金という固まりを少しずつ解きほぐし、自分なりに整理していくことができたのだ。
さらに、それを実戦に応用できる形に工夫を重ねた。その結果、ようやく実務に役立つ方法論が完成し、それを導入した社長たちから、「おかげで資金のことが理解できるようになった」「これまでいかに愚かな資金の使い方をしていたか痛感した」という感想をいただけるようになったのである。
資金運用計画の実行プロセス
では、その「実戦的資金運用」とは具体的にどのようなものであり、どのように実務に応用するのか。それは非常に重要なテーマであり、説明が長くなるため、本書の後半で詳細に述べることにする。

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