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損益計算と資金運用の乖離

企業経営において、損益計算が黒字であるからといって、資金運用が健全であるとは限りません。

このギャップを認識し、対策を講じることは経営者にとって欠かせない課題です。

損益計算上の利益は、資金運用面での安定を保証するものではないからです。

目次

「勘定合って銭足らず」のリスク

典型的な問題の一つが、「勘定合って銭足らず」という状況です。

これは、会計上の利益が計上されていても、実際のキャッシュフローが不足し、資金繰りが行き詰まるケースを指します。このような状態では、資金不足が事業運営全体を混乱に陥れる危険があります。

特に、大規模投資を伴うプロジェクトでは、建設費用の支払いスケジュールや収益の発生タイミング、運転資金の余裕を正確に見通し、適切に管理することが不可欠です。

損益計算に頼るだけでは、資金不足による運営の混乱を防ぐことはできません。

損益計算の盲点

損益計算上の利益が資金繰りに直結しない要因は、主に次の通りです。

  1. 返済資金
    割賦手形や借入金の返済は損益計算には含まれませんが、実際には現金ベースでの支出が必要です。
  2. 税金
    法人税や地方税などの支払いは損益計算とは別に現金で発生します。
  3. 運転資金
    日々の事業運営に必要な資金の流れは、損益計算の範囲外です。

これらの現金ベースの支出を考慮しない資金計画では、致命的なギャップが生じる可能性があります。

十年間の資金運用試算から浮き彫りになった問題

ある企業の新築計画を例に挙げてみます。

このプロジェクトでは損益計算上、黒字の見通しが立っていました。しかし、長期的な資金運用見積もりを行った結果、計画通り進んだとしても、毎年大幅な資金不足が発生することが明らかになりました。

試算では、経常利益と減価償却費を合わせても必要な資金に届かないことが判明しました。この結果、資金運用の観点から計画が破綻していることが浮き彫りになりました。損益計算の数字に安心していた経営者にとって、これは衝撃的な事実でした。

資金運用の見直しと対応策

この状況を受け、以下のステップで計画を見直しました。

  1. 長期的な資金見積もりの作成
    売上収入、支出、返済額、税金、運転資金をすべて考慮した十年間の資金計画を作成。
  2. 現実的なリスクの認識
    毎年生じる資金不足の規模を把握し、それに伴う金利負担や財務体質の圧迫を予測。
  3. 計画の再構築
    本社ビル新築計画を断念し、代替案として条件に合う貸ビルを契約。

この見直しにより、資金不足のリスクを回避し、事態を収束させることができました。

教訓:資金運用の重要性を経営に反映する

このケースから得られる教訓は明確です。損益計算だけで経営判断を下すのではなく、資金運用の視点を持つことが不可欠です。資金運用計画の策定には、以下の要素を取り入れるべきです。

  • 長期的な視野
    短期的な収支バランスに加え、長期的なキャッシュフローの見通しを立てる。
  • 現金ベースの管理
    返済や税金などの実際の現金支出を計画に反映する。
  • 柔軟な対応策の用意
    予期せぬ資金不足に備え、代替案やリスクヘッジを事前に考慮。

まとめ

損益計算上の黒字は、経営の健全性を保証するものではありません。資金運用の現実を直視し、具体的で実践的な計画を立てることが、持続可能な経営の基盤を築く鍵となります。

経営者は、このギャップを深く理解し、リスクを回避するための資金管理に真摯に取り組む必要があります。それこそが、企業の存続と成長を支える最も重要な要素なのです。

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