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■引用原文(ダンマパダ 第三章「心品」 第34偈)
「水の中の住居から引き出されて陸の上に投げすてられた魚のように、この心は、悪魔の支配から逃れようとしてもがきまわる。」
—『ダンマパダ』 第3章 第34偈(中村元訳・岩波文庫)
■逐語訳(一文ずつ)
- 水の中の住居から引き出されて:快適で慣れ親しんだ環境から引き離されて。
- 陸の上に投げすてられた魚のように:自分の居場所を失い、苦しみにもがく状態のたとえ。
- この心は:私たちの内面の心(チッタ)。
- 悪魔の支配から逃れようとして:煩悩・欲望・無知・怒りなどの「マーラ(魔)」の束縛から解放されようと努力し。
- もがきまわる:落ち着かず、方向もわからず、苦しみながら揺れ動く様子。
■用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
水中の住居 | 魚にとっての自然で快適な環境。人間にとっては、欲望や慣れ親しんだ煩悩の世界。 |
陸の上の魚 | 生存に適さない場所に出され、混乱し苦しむ様子。心が支えを失い混乱することのたとえ。 |
悪魔の支配(マーラの支配) | 仏教において「マーラ」は悟りを妨げる煩悩・死・恐れ・快楽への執着などの象徴。 |
もがく心 | 修行や努力を通じて解放されようとするが、慣れた快楽への執着が残っており、混乱しやすい状態。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
心は、快楽や欲望という「慣れ親しんだ世界(煩悩の水)」から離れようとするとき、大きな不安と混乱に見舞われる。それは、魚が水の外に放り出されたときのように、方向を失い、もがき苦しむような状態だ。しかし、それこそが自由へ向かう通過儀礼であり、心が悪魔(マーラ)の支配から逃れようと奮闘する証でもある。
■解釈と現代的意義
この詩句は、「心の成長や解放には、必ず混乱と苦しみが伴う」という深い真理を語っています。快適さや惰性に甘んじることをやめ、変化を選び取ったとき、心は一時的に不安定になります。しかしその不安定さの中にこそ、変容の種があるのです。
現代社会でも、環境を変える・新しい挑戦をする・依存から離れるといった変化の過程では、心が混乱しがちです。しかし、それを「もがき」として受け入れることが、次のステージに進むために不可欠です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
変革への不安定さ | 新しいポジション、業務改革、転職など、慣れた場所を離れるときは心がざわめくのが自然である。 |
挑戦と苦しみの受容 | 役割拡大・新事業挑戦時に「できない」「怖い」と感じても、それは成長の前段階。 |
依存からの脱却 | 過去の慣習・依存的な人間関係・自己肯定の材料から離れると、心は不安になるが、独立の一歩である。 |
リーダーの支援力 | メンバーがもがいている時期には、焦らず見守り、支えることが大切。変化には時間が必要。 |
■心得まとめ
「もがきの中に、心の自由は生まれる」
煩悩の快適さから離れ、真の自由を目指すとき、心は混乱し、もがく。しかし、それは敗北ではなく、解放への入り口である。ビジネスにおいても、変化を前にした不安や混乱を否定せず、「今、自分は矢のように飛び出す準備をしている」ととらえよう。その認識が、真の飛躍をもたらす。
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