孔子は、常に自らの心と行いを点検することの大切さを説いた。
「徳が身につかなくなっていないか。学びが滞っていないか。正しいことを聞いても、行動に移せていないのではないか。よくないと知りながら、改められずにいないか」――
これら四つの問いを、孔子自身が日々省みていた。
学ぶ者として、また人として、進むべき道を見失わないために必要なのは、絶えざる内省の眼である。
原文・ふりがな付き引用
子(し)曰(い)わく、徳(とく)の脩(おさ)めざる、学(がく)の講(こう)ぜざる、義(ぎ)を聞(き)きて徙(うつ)る能(あた)わざる、不善(ふぜん)の改(あらた)むる能(あた)わざる、是(こ)れ吾(わ)が憂(うれ)えなり。
注釈
- 徳の脩めざる … 人格や道徳性を磨く努力を怠っていないか。
- 学の講ぜざる … 学問を探求し深める姿勢が弱っていないか。
- 義を聞きて徙る能わざる … 正しいとわかっていても、実行に移せない自分はいないか。
- 不善の改むる能わざる … よくない行いをやめられない弱さを放置していないか。
- 憂えなり … これらすべてが、自分にとって深い憂いの種であるという意味。
1. 原文
子曰、德之不脩、學之不講、聞義不能徙、不善不能改、是吾憂也。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、徳(とく)を脩(おさ)めざる、学(がく)を講(こう)ぜざる、義(ぎ)を聞(き)きて徙(うつ)る能(あた)わざる、不善(ふぜん)を改(あらた)むる能わざる、是(こ)れ吾(わ)が憂(うれ)いなり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「徳を脩めざる」
→ 自らの人徳を磨こうとしないこと。 - 「学を講ぜざる」
→ 学問を学び、また人とともに論じ合うことをしないこと。 - 「義を聞きて徙る能わざる」
→ 正しいことを聞いても、自らの態度や行動を変えることができないこと。 - 「不善を改むる能わざる」
→ 自分の悪いところを直すことができないこと。 - 「是れ吾が憂えなり」
→ これらが私の憂いである。
4. 用語解説
- 徳(とく):人としての道徳的品性、誠実さ、人格。
- 脩(おさ)める:磨く・修養する・整える。
- 学を講ず:学問を探求し、他者と議論・教授し合うこと。
- 義(ぎ):道理・正義・倫理的に正しい行為。
- 徙る(うつる):心や行動を移す、変える。
- 不善(ふぜん):悪い点、欠点、誤り。
- 改むる:改善・修正する。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言いました:
「自分の徳を磨かないこと、学問を学び深めないこと、正しいことを聞いてもそれを行動に移せないこと、悪いところを直せないこと──これらが私にとっての憂いなのだ。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「自己修養・学び・実行・改善」**の4つの欠如を、孔子が自身の憂いとして語った言葉です。
ここで重要なのは、これらが単に“できていない人”を批判するのではなく、自分自身への戒めとして語っている点です。
つまり孔子は、「徳を高める努力」「学問の深化」「正義の実践」「改善の実行」が常に意識されるべきであるという、不断の自己研鑽を説いています。
7. ビジネスにおける解釈と適用
■「人格を磨かないリーダー」は信頼を失う
リーダーの“徳”とは、誠実さ、謙虚さ、責任感。自己研鑽を怠れば、影響力は形骸化する。
■「学ばず語らず」は組織を鈍化させる
知識や情報を学び合い、チーム内で共有し議論する文化がなければ、組織は停滞する。
■「正論を聞いても変われない」現場
現場の声、データ、顧客の苦情に耳を傾けても、それに応じて行動を変えなければ形だけの経営になる。
■「失敗を直さない文化」は信頼と成長を妨げる
間違いを認めず、修正もせず、改善も試みない組織は、必ず信用を失い、やがて衰退する。
8. ビジネス用心得タイトル
「磨け、学べ、変われ、改めよ──“四つの怠り”が組織を腐らせる」
この章句は、リーダーシップ開発・組織改善・職業倫理教育など、さまざまな場面で活用可能な非常に汎用性の高い内容です。
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