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📜 引用原文(日本語訳)
情欲にひとしい火は存在しない。不利な骰の目を投げたとしても、怒りにひとしい不運は存在しない。迷妄にひとしい網は存在しない。妄執にひとしい河は存在しない。
——『ダンマパダ』第18章「汚れ」第251偈
📘 逐語訳
- 情欲にひとしい火は存在しない:貪欲(むさぼり)の激しさは、あらゆる火よりも燃え盛る。
- 不利な骰の目を投げたとしても、怒りにひとしい不運は存在しない:運が悪いことよりも、怒りに支配されることの方が遥かに有害。
- 迷妄にひとしい網は存在しない:真理を見失った状態(無知・錯覚)は、魂を絡めとる最強の罠である。
- 妄執にひとしい河は存在しない:強い執着は流れの激しい大河のように、心を押し流し、制御を失わせる。
🧾 用語解説
用語 | 意味 |
---|---|
情欲(貪欲) | 快楽・所有・感覚的満足を求める欲望。仏教の三毒のひとつ。 |
怒り(瞋) | 憤り・恨み・敵意。冷静な判断を失わせる強力な毒。 |
迷妄(痴) | 無明・錯誤・思い込み。仏法の理解を妨げる最大の障害。 |
妄執 | 間違ったものに固執する心。とらわれ。 |
河 | 執着の比喩。激流のように自己を押し流していく存在。 |
🌏 全体の現代語訳(まとめ)
この世に燃える火は多くあれど、情欲ほど心を焼き尽くす火はない。
運の悪さを嘆く人は多いが、怒りほど不幸を招くものはない。
罠は数あれど、迷妄ほど人の心を覆い隠す網はなく、
流れは多くとも、妄執ほど人を押し流す激しい河はない。
それほどに、心の中の四つの毒(欲・怒・無知・執着)は、人生を破壊する根源なのだ。
💡 解釈と現代的意義
この偈は、仏教の三毒(貪・瞋・痴)に、さらに**「妄執」**という心の習癖を加えた、**心の根本的な障害=“四毒”**を鮮やかな比喩で描き出しています。
それぞれの比喩は、極めて現実的で、深い洞察を含んでいます:
- 情欲=火:欲望は、満たしても満たしても再燃し、周囲と自分を焼き尽くす。
- 怒り=不運:感情的な怒りは、一瞬で信頼・努力・関係性を壊す。
- 迷妄=網:真理が見えなくなると、どれだけ努力しても方向が狂う。
- 妄執=河:強いとらわれは、判断力を失わせ、自らを流される人生にしてしまう。
💼 ビジネスにおける解釈と適用
心の毒 | ビジネスにおける影響 | 実例・適用 |
---|---|---|
情欲(貪) | 終わりなき成果主義や利益至上主義に陥る | 成果だけを求めすぎると不正や燃え尽きに繋がる |
怒り(瞋) | 人間関係の破壊、マネジメント崩壊 | 怒りのメールや叱責が信頼を一瞬で壊す |
迷妄(痴) | 誤解・偏見・無知に基づいた意思決定 | データを見ずに思い込みでプロジェクトを動かす |
妄執 | 旧習や自説への固執、柔軟性の欠如 | 時代遅れの方法に執着し、変化に対応できない組織 |
🧭 心得まとめ
「心の火を消し、網を断ち、河を越えよ」
成功を追うなとは言わない。だが、欲望・怒り・錯覚・執着という四つの毒を抱えたままでは、
何を得ても、何を成しても、あなたの人生は燃え、流れ、絡めとられ、壊れていく。
本当の力とは、内なる敵を見つめ、静かに打ち勝つ勇気である。
この偈は『ダンマパダ』全体の中でも、とりわけ内面の戦いの本質を鋭く突いた重要な一節です。
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