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理と事、心と境――すべては一体である

宇宙の根本的なあり方である「理(ことわり)」が空寂(くうじゃく)――
すなわち、すべての執着を超えて空しく、静かであるならば、
その現れである「事(ことがら)」もまた、同様に空寂である。

それなのに、「事」は幻だからと退けて、
「理」だけを求めるのは――
まるで影を捨てて形だけを残そうとするような、矛盾した振る舞いである。

また、心が空寂であれば、外界(外境)もまた空寂であるはずだ。
にもかかわらず、外界を遠ざけて心だけを残そうとするのは、
生臭い肉を手元に集めながら、それに群がる虫(ぶよ)を追い払おうとするような、
本質を見誤った行動に等しい。

「理(り)寂(じゃく)なれば則(すなわ)ち事(じ)も寂(じゃく)なり。事(じ)を遺(のこ)して理(り)を執(と)る者(もの)は、影(かげ)を去(さ)って形(かたち)を留(とど)むるに似(に)たり。心(こころ)空(むな)しければ則ち境(きょう)も空し。境を去って心を存する者は、羶(せん)を聚(あつ)めて蚋(ぜい)を却(しりぞ)くるが如(ごと)し。」

「本質(理)」と「現象(事)」は、対立するものではなく、
切り離すことのできない、相即不離の存在である。
また、内なる「心」と、外に見える「世界」も、互いに響き合っている。

理だけを求めて現象を退けるのではなく、
空の心で世界に向き合うことによって、
はじめて真の調和と理解が得られるのである。


※注:

  • 「理」…宇宙の根本原理・本体。絶対的・静的な側面。
  • 「事」…その理があらわれた現象。相対・動的な側面。
  • 「空寂(くうじゃく)」…すべてが空(むな)しく、静かなこと。執着を離れた境地。
  • 「羶(せん)」…生臭い肉。煩悩や欲望の象徴として使われる。
  • 「蚋(ぜい)」…ぶよなどの虫。欲望にたかる感情や煩悩の比喩。
  • ※仏教的には「理即事」「心境一如」「事理円融」など、二元を超えた一体性を説く(特に華厳宗の思想に見られる)。

1. 原文

理寂則事寂。事執理者、似去影留形。心空則境空。去境存心者、如聚羶卻蚋。


2. 書き下し文

理(り)寂(しず)かなれば、則(すなわ)ち事(じ)も寂なり。
事を遺(のこ)して理を執(と)る者は、影(かげ)を去って形(かたち)を留(とど)むるに似(に)たり。
心(こころ)空(むな)しければ、則ち境(きょう)も空し。
境を去って心を存(そん)する者は、羶(せん)を聚(あつ)めて蚋(ぶよ)を却(しりぞ)くるが如(ごと)し。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 理寂なれば、則ち事も寂なり
     → 根本の理(道理・真理)が静かに整っていれば、現実の出来事も自然と静まり整う。
  • 事を遺して理を執る者は、影を去って形を留むるに似たり
     → 現象を無視して理屈だけを追い求める者は、影を捨てて形だけを残すような不自然なことをしている。
  • 心空なれば、則ち境も空なり
     → 心が空(とらわれのない状態)になれば、外界(環境)もとらわれず空となる。
  • 境を去って心を存する者は、羶を聚めて蚋を却くるが如し
     → 外的な刺激(境界)を取り去っても、心の欲や執着が残っていれば、それは臭い肉を集めながら虫を追い払おうとするような矛盾した行為である。

4. 用語解説

  • 理(り):道理・本質・理念。仏教的には「空」の原理に近い。
  • 寂(じゃく):静まる、無の状態。仏教で「寂滅=煩悩のない状態」。
  • 事(じ):具体的な出来事や現象。
  • 影を去り形を留む:本来対であるべきものの一方だけを無理に扱おうとする愚。
  • 境(きょう):外界、環境、五感で感じる対象。
  • 心を存する:執着した心が残ること。
  • 羶(せん):臭い肉。蚋(ぶよ)などの虫を引き寄せる。
  • 蚋(ぶよ):小さな吸血性の虫。ここでは煩悩や執着の比喩。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

道理が静かであれば、現実の出来事も自然と穏やかになる。
しかし、出来事を無視して道理だけを求めるのは、影だけ消して形を残すような不自然なことだ。
また、心が空であれば、外の世界にもとらわれなくなる。
だが、外界を遠ざけながら心の執着が残っているのは、臭い肉をためながら虫を追おうとするような矛盾である。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「本質と現象の一致・調和」の重要性を説いています。

  • 道理(理)が整っていれば、事象(現象)も整う
  • しかし、現象を軽んじて理屈だけを追えば不自然な結果になる
  • 同様に、心が整えば外の世界も自然と穏やかになる
  • だが、外界から離れても心の執着があるなら、それは矛盾に過ぎない

これは仏教の「色即是空・空即是色」や、道家の「無為自然」に通じる考え方であり、「内面の状態が世界を映す鏡である」という根本思想です。


7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ “理念”だけで動く組織は、現場と乖離する

理想やビジョンは重要だが、「現場(事)」を見ずに理念だけで突き進めば、現実に根ざさない不整合を生む。

✅ “心の状態”が職場の空気を変える

リーダーやメンバーの「心の余裕」「とらわれのなさ」が、そのままチームの雰囲気や判断の質に影響する。

✅ 「問題の外部要因排除」ではなく、「内面の整理」が本質解決

職場環境を変える、ルールを厳しくする、という外的コントロールだけで問題を解決しようとすると、かえって反発や不整合が生まれる。
それよりも、「どう考えるか」「どう受け止めるか」といった内面の整理・修養が、本当の解決につながる。


8. ビジネス用の心得タイトル

「理と事、心と境──本質と現象はともに整えてこそ活きる」


この章句は、マインドフルネス研修哲学的リーダーシップ教育、また**問題解決における“構造と感情の両面理解”**の場面にも応用できます。


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