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恩も仇も、心に残さず静かに手放す

うらみは、善意を与えたときにこそ生まれやすい。
だから、人に良くした後は感謝を求めず、徳も怨みもどちらも忘れてしまう方がよい。

また、仇もまた、恩を施したときに生まれがちである。
恩を押しつけるよりも、恩も仇も共に跡形なく消えるようにするのが最善である。

与えたことに執着せず、受けたことにこだわらず。
無心で施し、無心で忘れること――それが人間関係の摩擦や衝突を超えて、真の調和を生む智慧である。


原文(ふりがな付き)

怨(うら)みは徳(とく)に因(よ)りて彰(あら)わる。故(ゆえ)に人(ひと)をして我(われ)を徳(とく)とせしむるは、徳と怨(うら)みの両(りょう)つながら忘(わす)るるに若(し)かず。仇(あだ)は恩(おん)に因(よ)りて立(た)つ。故に人をして恩(おん)を知らしむるは、恩と仇の倶(とも)に泯(ほろ)ぶるに若かず。


注釈

  • 徳に因りて彰わる:恩義を与えたことがかえって目立ち、それにより感謝されるどころか怨まれる原因になることもある。
  • 徳と怨みの両つながら忘るる:恩恵も怨みも、ともに相手の記憶から消えている状態が最もよい。
  • 仇は恩に因りて立つ:恩を受けた相手が、それを負担に感じたり、屈辱と受け取ったりして、逆に恨みを抱くことがある。
  • 恩と仇の倶に泯ぶる:恩も仇も、跡形なく消え去るのが理想の境地。

パーマリンク(英語スラッグ)

  • forget-both恩仇(恩と仇をともに忘れる)
  • true-giving-is-selfless(真の施しは見返りを求めない)
  • no-burden-of-gratitude(感謝の重荷を背負わせない)

この条文は、「善意すらも人間関係を複雑にしうる」という逆説的な洞察に立ちながら、究極の無私を説いています。
「してやった」という気持ち、「してもらった」という気負い――そのどちらからも自由であることが、互いの心を平和にするのです。

目次

1. 原文

怨因德彰。故使人德我、不若德怨之兩忘。
仇因恩立。故使人知恩、不若恩仇之俱泯。


2. 書き下し文

怨みは徳に因りて彰わる。故に人をして我を徳とせしむるは、徳と怨みの両つながら忘るるに若かず。
仇は恩に因りて立つ。故に人をして恩を知らしむるは、恩と仇のともに泯ぶるに若かず。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 怨みは徳に因りて彰わる。
     → 人の恨みは、かえって善行によって浮かび上がることがある。
  • 故に人をして我を徳とせしむるは、徳と怨みの両つながら忘るるに若かず。
     → だから、人に「恩を受けた」と思わせるよりは、恩も怨みも両方とも忘れてもらう方がよい。
  • 仇は恩に因りて立つ。
     → 敵意は、恩に対する反発としても生まれる。
  • 故に人をして恩を知らしむるは、恩と仇のともに泯ぶるに若かず。
     → だから、人に「恩を受けた」と意識させるよりは、恩も仇もともに水に流してしまう方がよい。

4. 用語解説

  • 怨(えん):うらみ、敵意、心のしこり。
  • 徳(とく):善行、恩恵、道徳的な行為。
  • 彰わる(あらわる):はっきりと表面に現れること。
  • 仇(あだ):敵、恨みの対象となる者。
  • 恩(おん):感謝すべき行為、助けられたこと。
  • 泯ぶ(ほろぶ):消える、なくなる。ここでは「水に流す」の意。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

恨みというものは、善行や恩義があったからこそ、かえって目立つことがある。
だから、他人に「恩を受けた」と思わせることよりも、恩も恨みもともに忘れてもらう方が、よほどよい。
同じく、敵意というものは、恩義に対する反発からも生まれる。
だから、人に「恩を感じさせる」よりは、恩も仇もともに消し去ってしまう方がよいのだ。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、恩や徳を“意識させる”ことの危うさを鋭く指摘しています。

  • 恩や徳を受けたと“相手に意識させる”ことは、逆にプレッシャーや反発、嫉妬を生み、関係をこじらせる原因にもなる。
  • 真の善意とは、「見返りを求めず、忘れてもらうほどに自然な行為」である。
  • 人間関係において、善行でさえも無理に覚えさせると、逆効果になる──この逆説が本章の核心です。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 「恩を押しつけるリーダーは信頼を失う」

「自分がしてやった」と部下に恩を意識させる上司は、感謝よりも反発を招く。
恩は、見返りを求めず“忘れてもらう”ことで、信頼に変わる。

● 「過剰なアピールは“敵”を生む」

「善行の自慢」「過去の貢献の強調」は、かえって嫉妬や敵意を呼び起こす原因になる。
社内外の人間関係では、“やったことを水に流せる度量”が器の大きさを示す。

● 「ギブは、さりげなく」

クライアントへの支援、同僚へのフォローアップ──それを意識させず、あくまで自然体で行うこと。
「あの人には何かと助けてもらってる」という印象が残るのは、恩を感じさせない善行の賜物である。


8. ビジネス用の心得タイトル

「恩を語らず、徳を誇らず──“水に流す”度量が人を動かす」


この章句は、人間関係の本質を見抜く鋭い視点を提供しています。
「与えたことを忘れ、受けたことを覚える」──この精神が、信頼と長期的な関係を築く鍵となります。

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