孔子はある日、人生の選択と「道(みち)」について、シンプルかつ鋭い比喩で弟子たちに語った。
「誰だって部屋から出るときには、戸口(出入り口)から出るものだろう。
なのに、どうして人生という部屋を出ていくときに、私たちが説く“道”を通ろうとしない者が多いのか?」
この言葉には、「わかっていながらやらない」ことへの叱咤と嘆きが込められている。
人は、頭では何が正しいかを知っていても、そこに至る努力を避けたり、近道や逃げ道に流されたりするものだ。
しかし、孔子が言う「道」は、人として正しく、まっすぐに生きるための普遍的な道筋であり、避けては通れない「戸口」のようなもの。
正しい道がわかったならば、ためらわずにそこを進むべきである。
それがたとえ険しくとも、「本来通るべき出入り口」なのだから。
ふりがな付き原文
子(し)曰(いわ)く、
誰(たれ)か能(よ)く出(い)づるに戸(こ)に由(よ)らざらん。
何(なん)ぞ斯(こ)の道(みち)に由(よ)る莫(な)きや。
注釈
- 戸に由らざらん:部屋から出るならば、誰でも出入り口を通るはずだという比喩。
- 斯の道(このみち):孔子が説いた「仁・礼・義」に基づく正しい生き方、つまり人としての正道。
- 由る莫きや:それを通ろうとしないのはなぜか? という問いかけと嘆き。
1. 原文
子曰、誰能出不由戶、何莫由斯道也。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、誰(た)れか能(よ)く出(い)づるに戸(こ)に由(よ)らざらん。
何(なん)ぞ斯(こ)の道(みち)に由(よ)ること莫(な)きや。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 子曰く、誰か能く出づるに戸に由らざらん。
→ 孔子は言った。「家を出るときに、誰が戸口(正しい出入り口)以外から出ようとするだろうか。」 - 何ぞ斯の道に由ること莫きや。
→ 「ではなぜ、人々はこの“正しい道(=道徳・仁の道)”を通ろうとしないのか?」
4. 用語解説
- 出づるに戸に由らざらん(いずるに とに よらざらん):
「家から出るときに、わざわざ窓や裏口ではなく、普通は正面の戸から出る」という意味。常識を象徴する比喩。 - 斯の道(このみち):
孔子の教える「仁」や「礼」などの正しい生き方・人の道のこと。 - 由る(よる):
通る、従う、基づくの意。 - 莫(な)きや:
〜する者がいないのはなぜか、という反語的表現。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った。
「誰が家から出るときに、正面の戸口を通らずに出ようとするだろうか?
それなのに、なぜ多くの人がこの“正しい道”を通ろうとしないのか。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「人間としての正しい道=道徳の道が、なぜかえって避けられるのか」という孔子の嘆きを表しています。
- 家の戸口から出るのが自然で常識であるように、“道(仁・礼)”に従うのが本来の生き方であるというたとえ。
- にもかかわらず、人は欲望・効率・私利に流され、正道を避けて“近道”や“抜け道”を選びがち。
- 孔子はそのような風潮に対して、「なぜ当たり前のことを避けるのか?」と強く問いかけているのです。
7. ビジネスにおける解釈と適用
● 「“近道”ではなく“本道”を通る姿勢が信頼を生む」
- 不正な手段・ごまかし・忖度といった**“裏口から出るような行動”**は一時的な成果しか生まない。
- 多少遠回りに見えても、誠実・正道・原理原則に基づく判断こそが信頼と持続性の鍵。
● 「“当然すべきこと”を回避していないか、自問せよ」
- 挨拶・報連相・フィードバックなど、当たり前に見える行為が疎かになると組織文化は崩れる。
- 孔子の問いは、現代ビジネスにおいても**「原点に立ち返れ」という倫理的なリマインダー**である。
● 「シンプルな行動原則を“バカにしない”ことが一流の証」
- “正門から出る”という素朴なたとえに、ルール・誠実・丁寧さを尊ぶ哲学が込められている。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「裏口から出るな──正道こそ最強の戦略」
この章句は、道徳・誠実・原則の実践こそが本当の「生きる力」であるという、孔子のまっすぐな信念を語っています。
企業理念の再確認、行動指針づくり、リーダーの倫理教育など、広い場面で活用できる教えです。
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