過去に縛られず、今このときの「正しさ」に従うのが大人
孟子は、人としての信義(しんぎ)を重んじつつも、「必ず前言を守るべきだ」「始めたことを必ずやりきるべきだ」という硬直的な姿勢を、**真の人格者=大人(たいじん)**のあり方とはしなかった。
もちろん、言葉に偽りがなく、行動に責任を持つことは美徳である。
しかし、大人とはその時々の状況と義(ぎ)に照らして判断し、より良き道を選びなおす力を持つ人でもある。
過去の言葉や行動にただ頑なに執着することが、必ずしも「正しさ」ではない。
むしろ、「今、何が義にかなうか」を柔軟に見極めて行動を変える――そこにこそ、本物の徳があると孟子は説いている。
原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
大人(たいじん)たる者(もの)は、
言(げん)必(かなら)ずしも信(しん)ならず、行(こう)必(かなら)ずしも果(か)たさず。
惟(た)だ義(ぎ)の在(あ)る所(ところ)のままなり。
注釈
- 言必ずしも信ならず:「言ったことを必ず守る」とは限らない。状況に応じて訂正することもある。
- 行必ずしも果たさず:「始めたことを必ずやりきる」とは限らない。途中でやめることも義にかなう場合がある。
- 義(ぎ):道義・道理・正しい判断。「今、なすべきことは何か」という基準。
- 関連語句:『論語』子路第十三
「言うこと必ず信、行うこと必ず果。硜硜然(こうこうぜん)として小人なるかな」
⇒ 小人とは、小さくかたくなで視野が狭い者を指す。孟子はこれを踏まえて逆説的に述べている。
心得の要点
- 人は、過去の言葉や行動に縛られるより、今の義に従うべき。
- 柔軟さと誠実さは両立する。真の大人は「変えるべきときに、変える勇気」がある。
- 硬直した誠実より、時機に応じた正義を。
- 自分の言葉に固執することが、かえって徳を損なう場合もある。
パーマリンク案(スラッグ)
- flexibility-in-righteousness(義にかなう柔軟さ)
- true-integrity-adapts(真の誠実さは適応する)
- not-bound-by-past-words(過去の言葉に縛られない)
この章は、現代のリーダーシップや倫理的判断にも深く通じます。ルールや言葉の枠を超えて「義」を判断基準にする姿勢は、混迷する時代にこそ求められる大人の徳です。
原文:
孟子曰:
大人者、言不必信、行不必果、惟義所在。
書き下し文:
孟子(もうし)曰(いわ)く、
大人(たいじん)たる者は、言(こと)必ずしも信(しん)ならず、行(おこな)い必ずしも果(か)たざるなり。
惟(ただ)義(ぎ)の在(あ)る所のみ。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「大人たる者は、言必ずしも信ならず」
→ 真に徳のある人物は、言ったことが常に実行されるとは限らない。 - 「行い必ずしも果たざるなり」
→ また、始めたことを必ずしも最後までやり遂げるとは限らない。 - 「惟義の在る所のみ」
→ ただ“義(=正義・道理)”にかなっているかどうかだけが、行動の基準である。
用語解説:
- 大人(たいじん):徳を備えた立派な人物、理想的なリーダーや人格者のこと。
- 信(しん):言葉に責任を持ち、必ず実行するという意味。
- 果(か)つ/果たす:最後までやり抜くこと、やり遂げること。
- 義(ぎ):道理にかなったこと。道徳的・社会的に正しいとされる原則。
- 惟(ただ)…のみ:まさに…だけが重要である、の意。
全体の現代語訳(まとめ):
孟子はこう言った:
「真に徳のある人物は、発言を必ず守るとも限らず、始めたことを必ずやり遂げるとも限らない。
それは、言葉や行動そのものよりも、**“それが義(=道理)にかなっているかどうか”**だけを基準としているからだ。」
解釈と現代的意義:
この章句は一見、信義や一貫性を否定しているように見えますが、孟子が本当に言いたいのは次のことです:
形式的な約束や実行よりも、「その時々の正義・道理」に従うことのほうが大切である
つまり、状況が変わり「言った通りにすること」がもはや義に反すると判断されれば、あえて発言を撤回し、行動を中止することが“義にかなった行為”となるということです。
孟子は、「頑なな信義」よりも「柔軟で理にかなった判断」にこそ、真の人格者の判断基準があると説いています。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「約束を守ること以上に、“正しいことをする勇気”が大切」
当初の計画や発言が現状に合わなくなった時、
“守ること”に固執するのではなく、“修正すること”の方が誠実な判断となる場合がある。 - 「一貫性より柔軟性。目的は“義”であって“実行”ではない」
環境変化の中で当初の方針に固執すれば、かえって害を生む。
正義・誠実さ・公共性を基準に、方向修正する柔軟さがリーダーに求められる。 - 「撤回は無責任ではない。“義”のために行動を見直せる者こそ信頼に値する」
言ったことを守り続けるのは一見誠実だが、状況が悪化するならば変更する決断が必要。
誠実さとは、“変えないこと”ではなく、“正しいことを貫くこと”である。
ビジネス用心得タイトル:
「言葉より義、貫徹より正義──変える勇気が真の信頼を生む」
この章句は、リーダーの判断力・柔軟性・道義的判断基準の確立において、非常に重要な理念を提供します。
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