誰かが私のことを中傷したり悪口を言っても、それはほんの一寸の雲が太陽を隠すようなものである。
一時的に人の目をごまかすかもしれないが、真実はやがて明らかになり、雲はすぐに晴れていく。
しかし、それに比べてこびへつらってくる人間(媚子・阿人)はもっと恐ろしい。
その害は、まるですき間風が肌を冷やし、知らぬ間に風邪をひいてしまうようなものだ。
害が目に見えず、気づかぬうちに自分の心や判断を狂わせ、人格や行動をむしばんでしまう。
こうした者は一見すると味方に見えるが、実は自分を堕落させる最大の原因にもなりうる。
だからこそ、中傷を恐れるよりも、迎合してくる者にこそ最も警戒すべきであるという、深い人生訓がここにある。
原文(ふりがな付き)
「讒夫(ざんぷ)毀士(きし)、寸雲(すんうん)の日(ひ)を蔽(おお)うが如(ごと)く、
久(ひさ)しからずして自(おの)ずから明(あき)らかなり。
媚子(びし)阿人(あじん)、隙風(げきふう)の肌(はだ)を侵(おか)すに似(に)て、
其(そ)の損(そこな)うを覚(おぼ)えず。」
注釈
- 讒夫毀士(ざんぷきし):中傷や悪評を広める者たち。悪口を吹き込む人物。
- 寸雲蔽日(すんうんへいじつ):小さな雲が太陽を隠すこと。一時的に事実を覆い隠すたとえ。
- 媚子阿人(びしあじん):へつらい、阿(おもね)る者。甘言をもって近づき、相手に取り入ろうとする人。
- 隙風(げきふう):すきま風。直接的な攻撃ではないが、知らず知らずのうちに身体を冷やし、害を及ぼすもの。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
flattery-is-more-dangerous-than-slander
(へつらいは中傷よりも危険)beware-of-the-friendly-poison
(親しげな毒に注意せよ)false-praise-erodes-slowly
(偽りの賞賛はじわじわ蝕む)
この条は、表面的な敵よりも、身近で好意的に見える存在の中にある害のほうが深く、気づきにくいという、極めて実用的な人生の知恵を語っています。
特に、権力や立場のある人間こそ、へつらいによって判断力を失い、自らを壊してしまう危険があります。
中傷は見える、でも媚びは心に染みる――まさにこの言葉こそ、真の警句と言えるでしょう。
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