企業を分類する際、製造業やサービス業といった業種ごとに、または従業員数や資本金によって整理すると、それぞれのビジネスの特徴や傾向が見えてきます。
同様に、管理会計では「固定費型企業」と「変動費型企業」に分類することがよくあります。
この分類は、企業のビジネスモデルを把握し、管理会計の観点から有効な戦略立案の基礎を築くために重要です。
固定費型事業 vs. 変動費型事業
「固定費型」事業と「変動費型」事業の対比を見てみましょう。
固定費型事業は、高い初期投資が特徴で、リスクも大きい反面、うまくいけば高いリターンが期待できます。
一方、変動費型事業は初期投資が少ないためリスクも少なく、利益も安定しやすい傾向がありますが、リターンも相応に抑えられます。
事業モデルに応じた管理ポイントや戦略も異なるため、以下でそれぞれの特徴を詳しく解説します。
固定費型企業の特徴
固定費型企業には、大規模な設備投資が必要とされる産業が該当します。電気やガスのインフラ産業、テーマパークやホテル事業などがその典型です。
このような企業は以下の特徴を持っています。
多額の設備投資が必要
会社設立や新規事業に莫大な投資が必要であるため、顧客を十分に確保できないと収益を上げることは困難です。しかし、逆にこの高額な投資の壁によって新規参入者が限られ、競争が緩和されるメリットもあります。
変動費が低い
固定費型企業では、たとえば航空会社やホテル業のように、顧客が一人増えた際にかかる追加コスト(変動費)はごくわずかです。これは、顧客が増えるたびに限界利益がほぼそのまま利益に加算されるため、収益率が高まる構造を持っています。
管理ポイントは「顧客の増加」
固定費型企業では、経営の中心は「顧客の増加」にあります。設備投資や人件費など削減が難しいため、マーケティング戦略を駆使して顧客を増やし、固定費負担を軽減することが求められます。
値引きが一時的に有効
固定費型企業は、値引きを一時的な戦略として有効活用することが可能です。変動費が少ないため、ある程度の値引きを行っても利益が確保できることが多いからです。ただし、競合も値引きに乗じると「値引き競争」に陥り、利益が大きく圧迫されるリスクもあります。
変動費型企業の特徴
一方、変動費型企業とは、小売業や卸売業のように、固定費はさほどかからず、代わりに変動費が高い企業を指します。
これには以下のような特徴があります。
初期投資が少なく、参入障壁が低い
設備投資が少なく、資金負担も軽いため、新規参入が容易です。しかし、この低コストの参入のしやすさが競争を激化させる一因にもなります。
利益率が低い
変動費型企業は、仕入原価と販売単価の差が小さいため利益率が低くなります。顧客が増えても増加分の利益は少なく、逆に顧客が減っても損失が少ない、つまりローリスク・ローリターン型といえます。
値引きが極めて危険
値引き戦略は、変動費型企業にとってリスクの高い施策です。たとえば、仕入原価1万8,000円の商品を2万円で販売している場合、10%の値引きをすれば利益がほぼゼロになります。これではコストが回収できず、赤字に転落するリスクが非常に高いため、変動費型企業にとって値引きは慎重に行うべきです。
企業が知るべき「コスト構造」の重要性
固定費型企業と変動費型企業をコスト構造で分類してみると、ビジネスモデルの特性や経営管理の重要なポイントがより明確になります。
企業は、管理会計を活用して自社がどのタイプに該当するかを見極め、戦略を最適化することで、競争力を高めることができます。
企業が固定費型か変動費型かによって、収益を最大化するための戦略は大きく異なります。このコスト構造の理解が、健全な経営の第一歩であることを改めて実感しましょう。
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