会社は、多種多様な人々がそれぞれ異なる活動を行い、常にどこかで変化が生じている場だ。そのため、その全体像を正確に捉えるのは予想以上に難しい。
そのことを裏付ける例として、私が訪問する多くの会社の社長たちが挙げられる。自社の実態を正確に把握しているどころか、ある程度把握している社長でさえ決して多くはない。これは、実態を把握しようとする努力を怠っているからではない。むしろ、自社を知ろうと懸命に取り組んでいる結果なのだ。
それにも関わらず、それが実現できないのは、「何を、どう捉えればいいのかが分からない」というのが実際のところだ。
社長のもとに提出される資料は、一見すると会社全体の状況を報告しているように見えるが、実際には会社の一部しか示していないものがほとんどだ。かろうじて全社的な視点を提供している資料といえば、損益計算書やバランスシートくらいであり、それらを基にした「財務分析」と呼ばれるものがその補助的な役割を果たしている。
財務分析は、言うまでもなく企業の健全性を測るための指標だ。しかし、その健全性とは「結果として表れた健全性」であり、あくまで表面的な視点にとどまっているに過ぎない。
そのため、財務分析から得られるのは、今後の事業経営を効率化するためのヒントにすぎない。それもあくまで示唆にとどまり、具体的に何をどう改善すべきかといった実践的な情報を得ることは非常に困難だ。
そもそも、財務分析というものは、企業内部の人々のために作られたものではない。それは、銀行や投資家といった外部の関係者が、融資の可否や投資の有利性を判断するために生まれた手法だ。したがって、企業の「優劣」を評価できれば、その目的は十分に果たされる仕組みになっている。
しかし、それだけでは我々にとって不十分だ。自分自身を正確に理解し、数多の戦いにおいて危機を回避するためには、多角的な視点で分析を行い、結果だけではなく、その原因や背景を深く知る必要がある。また、刻々と変化する状況を捉え続けることも欠かせない。
そのような分析結果を総合的に判断し、具体的な「進むべき方向」や「取るべき行動」を見出すことが求められる。それを可能にするために、私は企業分析を「二つの視点」から行うことを提唱している。完璧とは言い難いかもしれないが、この方法は正しい方向性を示すために必要最低限の条件を満たしていると自負している。
第一の視点は、従来から行われている「財務分析」だ。これはバランスシートや損益計算書、そしてそれらに基づく関連分析を含む。これを通じて、まず企業全体の健全性を評価し、その基礎的な状況を把握する。
第二の視点は、「市場活動」に関する分析だ。財務分析が企業を「外部」から捉えたものであり、安全性を「断面的」に評価するのに対し、市場活動の分析は、企業の活動内容そのものと、その動きのダイナミズムを把握するためのものだ。この分析を通じて、企業がどのように市場と関わり、どんな変化を起こしているのかを理解する。
第二の視点は、「危険度分析」だ。これは、会社が将来直面する可能性のあるさまざまな変化やリスクに対して、どの程度の危険性を抱えているのか、また、それにどれだけ対応する力を持っているのかを評価する分析である。この視点は、企業の長期的な安定性や成長可能性を見極める上で欠かせない。
以上述べた三つの視点からの分析は、それぞれ個別に「何をしなければならないか」を明らかにするだけでは不十分だ。これらの情報を統合し、「自社の事業をどのように創り上げていくのか」という前向きな計画、すなわち「経営計画」を策定してこそ、真の価値が生まれるのである。
私の15年以上にわたるコンサルタントとしての経験から断言できるのは、企業の実態を正確かつ総合的に把握するための手法として、「経営計画」に勝るものは存在しないということだ。さらに、経営計画は単なる分析ツールではなく、企業の進むべき方向を指し示す羅針盤としての役割を果たすものでもある。
さらに、経営計画は単なる指針にとどまらず、社長自身の意欲を高めるだけでなく、社員全員の動機づけを促し、全社が一丸となって目標に向かって進むことを可能にする、極めて優れたツールであることも間違いない。
財務分析は、企業の健全性や結果的な強さを測る指標となりますが、それだけでは会社の実態や未来への方向性を明らかにするには不十分です。実際の企業経営には、外部向けの財務情報では捉えきれない「内部活動の動き」や「市場での実績」「リスクに対する耐性と対策」が求められます。
1. 財務分析の限界
- 財務分析は、主に銀行や投資家など外部の視点から行われ、企業の安全性や優劣を判断するためのもので、会社内部の動向を直接的に明らかにするには限界があります。
- 損益計算書やバランスシートの分析で、企業の全体像や過去の結果を見ることができますが、これは「結果」としてのデータに過ぎません。
2. 市場活動分析の必要性
- 財務分析だけでなく、企業の市場活動の分析が必要です。売上や利益だけでなく、どのようにして競争優位を築いているか、顧客の動向、競争環境の変化にどう対応しているかを把握し、事業の実態を立体的に見つめる必要があります。
- これは、日々の市場の動きや消費者のトレンドを把握するために行う「動的な分析」といえます。
3. 危険度分析
- 企業が将来的に直面するかもしれないリスクや市場の変化にどれだけ対応できるかを測る「危険度分析」も不可欠です。
- 経営を維持するために想定されるリスク(市場縮小、供給リスク、法規制の変化など)を分析し、どれだけ対応能力を備えているかを見極めることが必要です。
4. 経営計画の立案
- 各種分析から得た情報をもとに、総合的に会社の進むべき方向を示す「経営計画」を作成することが、実態把握とともに不可欠です。
- 経営計画は、社長だけでなく全社員の動機付けのツールにもなり、会社全体が共通の目標に向かって一丸となるための羅針盤として機能します。
まとめ
財務分析だけに頼らず、市場活動と危険度分析を含めた三方向からの視点で事業の実態を把握することが重要です。
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