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親孝行に国境なし

──突厥人・史行昌(し・こうしょう)の行為より

国家や文化の違いを超えて、
親を思う心は普遍の人間性である。


異民族であっても、孝は真心に通じる

貞観年間、唐に仕える突厥(とっけつ)出身の史行昌は、
皇城の門・玄武門の警備に宿直していた。

ある日、食事の際に肉を残しているのを見た者が理由を尋ねると、
彼はこう答えた。

「持ち帰って母に食べてもらいたいのです」

その一言を聞いた太宗は深く感銘を受けた

「仁孝(じんこう)の心は、漢民族にも異民族にも等しく宿る

と語り、馬一疋(いっぴき)を賜与したうえ、
史行昌の母に肉を給付するよう命じた


引用(ふりがな付き)

「歸(き)して以(もっ)て母に奉(ほう)ず」
「仁孝(じんこう)の性(せい)、豈(あ)に華夷(かい)を隔(へだ)てんや」


注釈

  • 突厥(とっけつ):中国北方のテュルク系遊牧民族。唐代に一部が朝貢・臣従し、軍務などに従事した。
  • 華夷(かい):中国(華)と異民族(夷)を意味し、文明と異文明を対比する概念。
  • 尚乗局(しょうじょうきょく):皇帝専用の馬車・乗馬に関する官署。

心得

「孝に民族なし、情に隔てなし」

人として親を思いやる心は、
血縁や文化を越えて等しく尊ばれるべき徳である。

遠き異国から来た者でも、
母を慕って肉を取っておこうとする心に、
その人の真の徳が宿っている。

国のために尽くす武人の忠と、
その背後にある家族への思いこそ、
仁と孝の本質なのだ。

目次

『貞観政要』巻一より

突厥人・史行昌の孝行と太宗の感嘆


1. 原文

貞觀中、有突厥史行昌直玄武門、食而匿肉。人問其故、曰「歸以奉母」。
太宗聞而歎曰「仁孝之性、豈隔華夷」。
賜乘馬一疋、詔令給其母肉料。


2. 書き下し文

貞観の中、突厥の史行昌、玄武門に直(ちょく)し、食して肉を匿(かく)す。
人、その故を問うに、曰く「帰りて以て母に奉(たてまつ)らんとす」。
太宗、これを聞きて歎じて曰く「仁孝の性、豈(あ)に華夷(かい)を隔たらんや」。
乗馬一疋を賜い、詔してその母に肉料を給えと令す。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ)

  • 貞観年間、突厥人の史行昌という者が、玄武門の警備にあたっていた。
  • ある日、食事の際に肉を隠していたのを見て、周囲の者が理由を尋ねた。
  • 彼は「これを持ち帰って母に差し上げたいのです」と答えた。
  • これを聞いた太宗は深く感嘆し、「仁や孝の心は、漢民族と異民族の間で隔てられるものではない」と語った。
  • 太宗は彼に馬一疋を賜い、さらにその母に肉料を給するよう命じた。

4. 用語解説

  • 突厥(とっけつ):唐代における北方の遊牧民族。唐とは時に戦い、時に朝貢する関係にあった。
  • 史行昌(し・こうしょう):突厥出身で、唐に仕えた警備兵。ここでは異民族ながらも忠誠と孝行を示した人物。
  • 玄武門(げんぶもん):長安城北の重要な門で、太宗が「玄武門の変」を起こした地としても有名。
  • 直(ちょく):警備などの当番に就くこと。
  • 奉母(ほうぼ):母に尽くす、孝養を尽くすこと。
  • 仁孝(じんこう):仁愛と孝行。儒教道徳の根幹。
  • 華夷(かい):華(中華)=漢民族、夷=異民族を指す古典的対比。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

貞観年間、突厥出身の史行昌という人物が玄武門の警備にあたっていた。
ある日、食事中に肉をこっそり隠しているのを見た人がその理由を尋ねると、彼は「これを母に持ち帰って差し上げたいのです」と答えた。

この話を聞いた太宗は感動し、「仁愛や孝行の心は、漢民族と異民族の間で隔てられるものではない」と述べ、
史行昌に馬一頭を与え、さらにその母親に肉を給するよう命じた。


6. 解釈と現代的意義

この逸話は、**「孝行に人種や民族の壁はない」**という普遍的な価値観を太宗が明言した、非常に現代的な倫理感を含む物語です。

「仁孝の性、豈隔華夷」──これは、人間として最も基本的な“思いやり”や“親を思う心”は、国籍・文化・立場を超えて共通するという、唐代にしては驚くほど先進的なメッセージです。

また、行動の小ささ(肉を隠す)に宿る“大きな誠”を見逃さず評価した太宗の姿勢は、「細部から人間を見抜く」政治哲学の表れでもあります。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)

  • 「小さな行動にこそ、真の人間性が表れる」
     → 日常のちょっとした配慮や誠意の積み重ねが、信頼と評価に結びつく。
  • 「多様性の中にある“共通の徳”を認めよ」
     → 国籍・文化の違いを超えて共通する価値観(例:親への思い、仲間への気遣い)を評価軸とする組織は、真に包摂的なカルチャーを育む。
  • 「誠意ある行動は、評価されるべき資産である」
     → 顕著な成果だけでなく、“心からの動機”に対しても報酬や評価を与える姿勢が、ロイヤルティを生む。
  • 「現場の声をすくい上げたトップは、文化を変える」
     → 太宗のように現場の小さな行動に心を動かし、即座に制度・支援につなげるトップの感性は、組織全体の風土を形づくる。

8. ビジネス用の心得タイトル

「誠は文化を越える──“孝と仁”に報いる組織が信頼を築く」


この逸話は、現代におけるダイバーシティ&インクルージョンの価値を、中国古典的文脈で明快に語ったものといえます。

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