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誤解を恐れるな、卑怯を恐れよ


一、原文と現代語訳(逐語)

原文(聞書第八より)

先年川上お経の内、紺屋町田代辺の者五六人参詣致し、途中にて酒をたべ、時を移し居り申し候。
その内、久左衛門被官、宿許へ早く帰らず候て叶はざる事候故、同道人にも断り申し、日の内に罷帰り候。
然る処に、同道人ども、後にて余人と喧嘩致し、相手切殺し罷帰り候由、夜更け候て、久左衛門被官聞付け、さつそく同道人処へ参り、様子承り、
「やがて口書取り申さるべく候。その節我等も居り候て、相手を同然に切殺し候由、其方などよりも申出でらるべく候……もし其方など合点これなく候はば、ここにて腹を切るべし」
…押付け評定所にてお究めの節も、同じ様に申出で候へども、先に帰り候事相知れ候。いづれも御感なされ候て、御褒美に合ひ申し候。

現代語訳(まとめ)

ある年の川上の経会(仏教行事)の帰路、町人や侍の一行が酒を楽しんでいた。
その中の一人、木塚久左衛門の家臣は急用があり、仲間に断って先に帰宅した。

しかし、その後、一行は他人と喧嘩となり、相手を斬り殺してしまう。
この家臣は夜中にそれを知ると、自ら仲間のもとへ行き、こう願い出た。

「どうか、私も一緒に喧嘩して人を斬ったことにしてくれ。
主君に“その場にいた”と報告するつもりだ。
本当のことを言っても、逃げたと思われて卑怯者として処罰されるのが目に見えている。
それよりは、罪人として死ぬ方がましだ。
それを断るなら、ここで腹を切る」

仲間たちは仕方なく同意し、調査でも一緒に斬ったと申告するが、調べの結果、彼が先に帰った事実は判明した。
それを知った殿様は彼の忠義と覚悟に感心し、逆に褒美を与えたという。


二、用語解説

用語意味・注釈
被官(ひかん)家来・従者のこと。ここでは久左衛門の家臣を指す。
評定所裁判所のような場で、武士の事件を扱った。
一蓮托生文字通り「運命共同体」。仲間と共に最後まで運命を共にすること。
手討ち主君による家臣への私的な死刑。卑怯などの恥が理由で行われることも。

三、解釈と現代的意義

✦ 意地と誇りは、命より重い価値となることがある

この話の家臣は、「自分は戦わずに逃げた」と誤解されることを最大の屈辱と捉え、それを避けるために死をも辞さないと考えた。
江戸時代の武士にとって、「卑怯」という社会的評価は、死よりも恐ろしいことだった。

✦ 評価は“事実”より“印象”で決まる

たとえ無実でも「逃げた者」と思われれば、主君から信を失い、名誉を損なう。
この逸話は、現代社会でも「事実と印象のギャップ」に注意するべきだという教訓を与えている。


四、ビジネスにおける応用と教訓

ビジネス場面応用・示唆
トラブル時のチーム責任トラブル時に「自分は関係ない」と逃げるより、「チームの一員として責任を負う姿勢」が信頼を築く。
信用失墜のリスク管理無実でも誤解される状況は避け、説明責任を果たす手段を持つべき。
組織文化と忠誠心自らの立場だけでなく、組織全体の名誉と信義を優先する行動が長期的な信頼を生む。
レピュテーション・マネジメント評価は「真実より信じられていること」で形成される。そこにどう対応するかが戦略になる。

五、まとめ:この章句が教える現代的メッセージ

  • 名誉とは、自分の目ではなく、他者の目によって定まるもの
  • 評価を失うことのリスクは、時に命より大きい。
  • 信頼を得るとは、責任から逃げない姿勢の継続にある

目次

🧭現代の心得に再編するなら:

✅「潔白よりも、卑怯と見なされることを恐れよ。逃げない者が、信を得る。」


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