■ 引用(出典)
一九
この世は水瓶のように脆いものだと知って、
陽炎のようなはかない本性のものであるとさとったならば、
この世で悪魔の花の矢を断ち切って、
死王に見られないところへ行くであろう。
(『ダンマパダ』第18章 第19偈)
■ 逐語訳
- この世(あらゆる現象・関係・存在)は、水瓶のように脆く壊れやすいものであると理解したなら、
- それが陽炎のように、実体のない幻の性質を持っていると深く悟ったならば、
- 欲望・愛執・迷妄といった「悪魔の花の矢」を断ち切り、
- 死王(ヤマ)の目に触れない、すなわち輪廻と無常の支配を超えた境地――
- 解脱・涅槃に至るであろう。
■ 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
この世(ローカ) | 外界・人間関係・社会制度・物質世界など、五感と心に映る一切の現象界。 |
水瓶 | 簡単に壊れるものの象徴。壊れやすい人生・世界の構造を示す。 |
陽炎 | 実体なき幻想。欲望や認識の揺らぎを象徴する。 |
悪魔の花の矢 | 感覚欲・渇望・執着・怒り・迷いなど、心を縛るもの。 |
死王(ヤマ) | 死をつかさどる存在。無常と苦の象徴。 |
■ 全体現代語訳(まとめ)
この世が壊れやすく儚いものだと気づき、
世界が実体を持たない陽炎のような性質であると深く悟った者は、
欲望や執着という「悪魔の花の矢」を断ち切り、
もはや死の支配も届かない、真の自由の地に至るであろう。
■ 解釈と現代的意義
この偈は、「私たちが“現実”と思っている世界」そのものが、儚く脆く、幻想にすぎないと悟ることで、欲望や執着の支配から逃れる道が開かれる、と教えています。
つまり、これは仏教の核心概念――**「空(くう)」と「無常」**の体感的理解への招待です。
世界を「絶対化」しない。
出来事や評価を「唯一の現実」と見なさない。
それが心の自由を生み出します。
■ ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 応用の仕方 |
---|---|
変化に強くなる視座 | 企業の浮き沈み、市場の評価、社会的立場はすべて「陽炎」。一喜一憂せず、今なすべきことに集中できる。 |
執着からの解放 | 過去の実績、肩書、競合への感情など、執着は成長を阻む。幻想性に気づけば、しなやかな経営が可能になる。 |
全体像の俯瞰力 | ミクロな成否や感情に巻き込まれず、「この世自体が泡や影のようだ」と見ることで、全体の構造を俯瞰できる智慧が育つ。 |
サステナブルな働き方 | 確定しない未来・成果に縛られすぎず、今できる善いこと、意味ある貢献に集中する生き方へと転換できる。 |
■ ビジネス心得タイトル
「壊れる世に、壊れぬ智慧を咲かせよ」
この世界は、つかめば消える。
富も、評価も、関係も――すべては泡と陽炎。
ならば、執着するのではなく、見極め、手放し、進むこと。
そこにこそ、死すらも超える、真の働き人の美学がある。
この第十九偈は、個人の認識から世界全体への視座を押し広げた、仏教的智慧の完成形に近い内容です。
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