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喜びの中にも憂いがあり、苦しみの中にも喜びの芽がある

子どもが生まれるとき、母親の身体には危険が伴う。
お金が貯まれば、盗人の目にとまる。
このように、どんなに喜ばしいことの中にも、
実は心配や危険の種が潜んでいる。

反対に――
貧しい境遇にあれば、節約の知恵が育ち、
病気になれば、自分の体を大切にする心が芽生える。
つまり、どんな心配事や困難の中にも、
学びや喜びの芽が潜んでいるのだ。

こうした視点を持てる人こそが、
「順境も逆境も、喜びも悲しみも、すべて同じに見て、超えていける」――
まさに人生の達人である。


原文とふりがな付き引用

子(こ)生(う)まれて母(はは)危(あや)うく、鏹(こう)積(つ)んで盗(ぬす)びと窺(うかが)う。
何(なん)の喜(よろこ)びか憂(うれ)いに非(あら)ざらん。
貧(まず)しきは以(もっ)て用(よう)を節(せつ)すべく、病(やまい)は以て身(み)を保(たも)つべし。
何の憂いか喜びに非ざらん。
故(ゆえ)に達人(たつじん)は、当に順逆一視(じゅんぎゃくいっし)して、欣戚(きんせき)両(りょう)ながら忘(わす)るべし。


注釈

  • 鏹(こう)積む:銭(お金)がたまること。「鏹」は銭を束ねたもの。蓄財の意味。
  • 盗窺う(ぬすびとうかがう):盗人が狙う。財産が増えればリスクも増えるという意味。
  • 順逆一視(じゅんぎゃくいっし):順境(うまくいっている状態)と逆境(困難な状態)を同じように見て、心を動かさない態度。
  • 欣戚(きんせき):喜びと悲しみ。感情の両極。
  • 達人(たつじん):真に人間的に完成された人物。徳と知を兼ね備えた人物。

関連思想

  • 『老子』の「禍福はあい依る」――すなわち「禍(わざわい)は福のよりどころ、福は禍の伏すところ」という思想に通じる。
  • 『淮南子』の「人間万事塞翁が馬」は、喜びも悲しみも表裏一体であることを示す代表的な逸話。
  • 出光佐三の「順境にして悲観し、逆境にて楽観する」は、この条の精神を体現する現代の言葉である。

1. 原文

子生而母危、鏹積而盜窺、何喜非憂也。貧可以節用、病可以保身、何憂非喜也。故達人當順逆一視、而欣戚兩忘。


2. 書き下し文

子(こ)生(う)まれて母(はは)危(あや)うく、鏹(こう)積(つ)んで盗(ぬす)びと窺(うかが)う。
何(なん)の喜(よろこ)びか憂(うれ)いに非(あら)ざらん。
貧(ひん)は以(もっ)て用(よう)を節(せっ)すべく、病(やまい)は以て身(み)を保(たも)つべし。
何の憂いか喜びに非ざらん。
故(ゆえ)に達人(たつじん)は当に順逆(じゅんぎゃく)を一視(いっし)し、欣戚(きんせき)を両(ふた)つながら忘(わす)るべし。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「子が生まれたとき、母親は命の危険にさらされる。財産が積み重なると、盗人が狙いをつけてくる。──それは、喜びの中にも憂いがあることを示している。」
  • 「貧しければこそ、無駄遣いせずに節約でき、病があればこそ、自身を大切にして身を養うようになる。──つまり、憂いの中にも喜びがある。」
  • 「だからこそ、達人というものは、順境も逆境も同じように眺め、喜びも悲しみも等しく忘れているのである。」

4. 用語解説

  • 子生而母危(ししょうしてぼき):子供が生まれることは一見喜びだが、母に命の危険をもたらすこともある。
  • 鏹(こう):金銀財宝。鏹積(こうせき)は財産が多く貯まっていること。
  • 盜窺(とうき):盗人が狙いをつけること。
  • 節用(せつよう):倹約すること。生活を律する手段。
  • 保身(ほしん):自らの命を守ること。自愛・自制。
  • 順逆一視(じゅんぎゃくいっし):順境(うまくいく状況)も逆境(苦しい状況)も、差別せずに同じように眺めること。
  • 欣戚(きんせき):喜びと悲しみ。人間の感情全般。
  • 両忘(りょうぼう):両方とも忘れる。感情に振り回されない境地。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

子どもが生まれるということは喜ばしいことだが、母親には命の危険が伴う。財産が増えれば、盗人が目をつけるようになる。
このように、喜びの中には必ず憂いが潜んでいる。
一方で、貧しいからこそ節約ができ、病気だからこそ身を大切にするようになる。
つまり、憂いの中にもまた、喜びの種は隠れている。
だから、達人とは、順境と逆境を区別することなく受け入れ、喜びと悲しみという感情の波にも流されない者のことなのだ。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、現象の表裏を超えて、本質的に物事を観る態度を説いています。

  • 「吉中に凶あり、凶中に吉あり」──という老子的発想の実例
  • 喜びが喜びであり続けるとは限らず、憂いが成長の糧となる
  • 「喜怒哀楽に巻き込まれず、静かに観察する姿勢」が真の達観者の姿

これはまさに、「レジリエンス(回復力)」「メタ認知」「情動の超越」といった現代心理学とも共鳴する内容です。


7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 成功の影にリスクあり、失敗の中に成長の芽がある

  • 大口契約獲得=体制の崩壊リスク
  • クレーム対応=顧客満足を高める好機

✅ 不遇や困難は“内面の整理”と“戦略見直し”の好機

  • 病=休養と価値観の再確認
  • 貧=無駄の見直しと知恵の醸成

✅ 冷静なマインドが、変化の波を乗りこなす鍵

  • 順風時にも浮かれず、逆風時にも腐らない「均衡感覚」がリーダーの資質
  • 情報にも感情にも反応しすぎず、“長期目線”を保つことが大切

8. ビジネス用の心得タイトル

「喜びに潜むリスク、憂いに宿る恩恵──心を定めて“順逆一視”せよ」


この章句は、経営判断研修・感情知性プログラム・リーダー育成において、特に効果的な思想ベースとなります。


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