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徳を本とし、財を末とせよ


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■引用原文(書き下し文付き)

原文:
是故君子先慎乎徳、有徳此有人、有人此有土、有土此有財、有財此有用。
徳者本也、財者末也。
外本内末、争民施奪。是故財聚則民散、財散則民聚。
是故言悖而出者、亦悖而入。貨悖而入者、亦悖而出。
康誥曰、惟命不于常、道善則得之、不善則失之矣。

書き下し文:
このゆえに、君子はまず徳を慎しむ。
徳があれば、人が集まり、人が集まれば土地があり、土地があれば財があり、財があれば用途(活用)がある。
徳は本であり、財は末である。
その本を軽んじ、末を重んずれば、民は利で争い、奪い合いを学ぶことになる。
ゆえに、財を蓄えれば民は散り、財を散じて民に施せば、民は集まる。
また、道に背いた言葉が出れば、同じく道に背いた言葉が返ってくる。
道に反して入った金銭は、また道に反して出ていく。
『康誥』に曰く、「天命は常にあるものにあらず。善をもってすれば得られ、善を失えば失われる」と。


■逐語訳(一文ずつ)

  1. だから、君子は何よりもまず「徳」を大切にすべきである。
  2. 徳があれば人が集まってくる。
  3. 人が集まれば土地(拠点や基盤)が確保できる。
  4. 土地があれば経済が栄え、財が生まれ、
  5. 財があれば物資の活用・施策も可能になる。
  6. 徳こそが根本であり、財はその結果にすぎない。
  7. しかし、徳をないがしろにして、金や利益にばかり注力すると、
  8. 民は奪い合いを覚え、争いが蔓延する。
  9. 財を溜めこめば民は離れ、財を施せば民は集まる。
  10. また、道理に反した言葉を発すれば、同じく道理に反した言葉が返ってくる。
  11. 道に背いて得た富は、同じように道に背いて失われる。
  12. 『康誥』には、「天命は常に与えられるものではない。
  13. 善を行えば得られるが、善を失えば天命も失われる」とある。

■用語解説

  • 徳(とく):誠実・仁義・思いやり・節度など、リーダーとしての人格的な力。儒家では政治・経営の根幹。
  • 本末(ほんまつ):本=根本的価値(徳)、末=その結果や周縁(財)。重視すべき優先順位。
  • 財聚則民散:国や組織が富を囲い込めば、民(社員・顧客)は離れる。
  • 財散則民聚:富を公平に還元すれば、人々は自然に集まる。
  • 悖(はい):道理に反する、倫理的に間違ったこと。
  • 康誥(こうこう):『書経』の一篇。「天命は不変にあらず」という政治倫理の原点を示す。

■全体の現代語訳(まとめ)

君子(リーダー)は、まず「徳」を磨くことに集中すべきである。
徳が備われば、人々が自然に集まり、人が集まれば土地(基盤)ができ、土地があれば財が育ち、その財によって事業や国家の運営が可能になる。

しかし、徳を軽視して金や物だけを求めるようになると、民(社員・顧客)は奪い合いを始め、組織は崩壊してしまう。
財を蓄えることに躍起になれば人は離れ、財を分かち合えば人は集まってくる。

さらに、道理を無視した言動や金銭の流れは、いずれ自分自身に破綻として返ってくる。
天命──リーダーの信任と役割──は永続するものではなく、善によって保たれ、不善によって失われるのである。


■解釈と現代的意義

この節は、徳を中心に据えた経営・政治のあり方を説いています。
最も重要なメッセージは以下の三点です:

  1. 優先順位の明確化(本末の道)
     財や成果を求めるのではなく、それを生み出す「人徳・信頼・正道」にまず集中すること。
  2. 健全な流通の原理(財散民聚)
     利益の偏在ではなく、適切な再分配こそが、組織の活力と結束を生む。
  3. 倫理に基づく繁栄と天命観(悖入悖出)
     不正や強引さによって得た利益や地位は、同様に破滅を招く。継続的な繁栄には倫理と善の実践が不可欠。

■ビジネスにおける解釈と適用

観点適用例
経営戦略の原点売上や利益を追う前に、社員の信頼や企業としての社会的信用(徳)を積み上げるべき。
インセンティブ設計財の「蓄積」よりも「分配」の仕組みを整えることで、組織は自律的に活性化する。
危機管理とガバナンス法や倫理に背いて得た成果(不正経理・粉飾など)は、必ず損失・信用失墜として返ってくる。
経営者の覚悟とビジョン地位や天命は与えられ続けるものではなく、日々の「善」の積み重ねによって維持されるもの。

■心得まとめ(ビジネス指針)

「徳を先にすれば、人と財はあとからついてくる」

利益や成果に執着するよりも、信頼・人格・社会的責任を優先せよ。
それが人を惹きつけ、土地を得、事業を成し、富が集まり、永く繁栄する道である。
“徳は本なり、財は末なり”――組織と国家の盛衰は、ここにかかっている。


この節は、「徳本財末」の思想をビジネス倫理や経済哲学へと応用する、非常に現代的な価値をもつ章です。

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