B社長のエピソードだ。前社長が着任したのは、大企業系列の会社ゆえに大企業からの天下りという形だった。着任して間もない頃、専務だったB社長のもとに、ある得意先が「不渡」を出したという報告が届く。その得意先については、前々社長時代に取引を禁じる指示が出されていたが、担当営業員が売上を優先し、納品を続けていたのだ。
新任の前社長はその経緯を把握しておらず、また責任もなかったはずだ。しかし、前社長は毅然とした態度で、「たとえ何があろうとも、会社の損害は最終的に社長が責任を負うべきだ」と判断。損害額の半分は自ら弁償し、残りの半分を専務であるB社長、営業部長、そして担当者がそれぞれ分担して弁償するよう命じた。
この裁定に対して、B社長は一切の恨みや不満を感じることはなかったという。むしろ、その毅然とした態度と責任を引き受ける姿勢に、何かを学んだのかもしれない。
この前社長の姿勢こそ、まさに社長としてのあるべき態度だ。どのような事情や背景があろうとも、会社内で起こったことの責任は最終的に社長が負うべきものだという考え方。この姿勢こそが、経営者としての正しさを体現しているといえる。責任を明確にし、自らの立場を全うする姿は、部下や社員に対して信頼と敬意を抱かせるものであり、組織を支えるリーダーとしての本質を示している。
この前社長の姿勢こそ、社長としてのあるべき態度だ。どんな事情があろうとも、会社内で起きたことの責任はすべて社長が負うべきだという姿勢が、経営者としての正しさを示している。
「社長の目がそんな隅々まで届くはずがない」「何度も注意したのに」「指示は出してあるのに管理職は何をしていたのか」など、いくらでも理由をつけることはできる。
それらの理由の奥には、「だから社長の責任ではない」という結論が隠されている。客観的に見れば、この主張には一理あるかもしれない。しかし、理論的に正しいからといって、それが社長としての正しい姿勢とは限らないのだ。
人の上に立つ者には、「部下の行動はすべて自分の責任である」という覚悟が求められる。それがなければ、真に人を使うことはできない。なぜなら、その姿勢がなければ部下の信頼を得ることはできないからだ。
社員は、社長を信頼できないと働く意欲を失うものだ。その状況で社長がどれだけ気合を入れたところで、社員は決して応えようとはしない。
反対に、社員がいったん社長を信頼すれば、社長は細かく指示を出す必要がなくなる。その証拠に、経営計画書を作成した社長がこれを社員に示し、自ら先頭に立って行動を起こすと、社員が自然とそれに応える例が多く見られる。
そうした社長の社員に対する感情は、次のような思いにあふれている。「社員というのは、どうしてこんなに一生懸命働いてくれるのだろう」「うちの社員は、あまりにも熱心に働きすぎて困る。連日の残業で体を壊さないか心配で無理やり帰らせても、帳簿や伝票を持ち帰って仕事を続ける。まったく手がつけられない」「うちの社員は、社長である自分が考えるべきことを代わりに考えてくれる」――このような感謝と驚きの気持ちばかりだ。
だからこそ、社長が社員を批判すると、自分でも抑えきれないほど怒りが湧き上がり、結果として自ら困ってしまうような状況に陥るのだ。
「社員は悪くない、悪いのは社長だ」と自ら断じることになる。そして、社員に働いてもらいたいのなら、社員から信頼されることが唯一の条件であることを理解していなければならない。
私がよく口にする「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任である」という言葉の意味を理解してほしい。これは、どんな些細なことでも最終的な責任は社長にあるという覚悟を示しているのだ。
このエピソードは、社長が会社で起こる全ての出来事に責任を持つべきであるという基本的な姿勢を示しています。社員や部下が関与したミスや問題であっても、最終的には社長の責任として引き受け、信頼関係を築くことが重要とされています。以下は、重要なポイントです。
- 責任を引き受ける覚悟
社内で起こるすべての出来事、たとえ見逃してしまったことであっても、最終的には社長が責任を持つべきです。社員のミスがあった場合にも、「社長の管理不足や指導力の問題が根本的な原因」と考え、責任を引き受ける覚悟が求められます。 - 部下の信頼を得る姿勢
部下が社長を信頼していると、社員は自らの仕事に対して積極的に責任を感じ、やる気を持って働くようになります。信頼は、社長がどれだけ社員の側に立ち、ミスがあった時にも社員を守る姿勢を示すことで生まれます。 - 信頼が生む社員の自発的な行動
社員からの信頼を得た社長は、社員が自分の考え以上に働いてくれる、時に「社長が考えなければならないことを社員が考えてくれる」といった現象を実感します。信頼がベースにあれば、社員は自発的に会社のために行動するのです。 - 「すべては社長の責任」の重要性
「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任」という言葉が示すように、社内外で起こること全てが社長に関わると考えるべきです。この姿勢は、社員が安心して仕事に専念できる環境を提供するための根幹となります。
このように、社長が全責任を持つ姿勢を貫くことが、結果的に社員の忠誠心や働く意欲を高め、会社の成長を促す基盤となるのです。
コメント