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社員教育はどうやるか

社員は人間でもある。その人間と仕事、会社との関係には、社長として解決すべき課題が山積している。しかしながら、これが思うように進まないことが多い。間違いや忘却がその原因となるのだ。

この章では、これらの間違いや見落とし、盲点に注目し、それらをどう克服すべきかについて考察している。

「社員を教育する」ということは、「やる気を引き出す」ことと同様に、社長にとって常に意識している重要な課題だ。しかし、社員教育で目に見える成果を得るのは容易ではない。一体なぜ、このように難しいのだろうか。

その理由は単に「教育の時間が足りない」という問題にとどまらない。「有効な教育」とは何かが明確に理解されていないことに起因している。さらに根本的な問題として、「社員教育」というもの自体の本質が十分に理解されていない点にあるのだ。

その証拠に、外部講師による公開セミナーや社内セミナーを、社員教育の中心的な手法だと考えている社長は少なくない。もちろん、これらも教育の一環であることに異論はないが、あくまで補助的な手段であり、それだけに依存しては本質的な教育にはつながらないことを忘れてはならない。

これらのセミナーの中には効果的なものもあるが、多くの場合、むしろ「害」をもたらすことが多い。それは、事業経営の現実を全く理解していない観念論者が、伝統的な組織論や管理論、人間関係論といった抽象的なテーマを中心に講義することが多いためである。

しかし、最も問題なのは、セミナーの内容を確認もせずに社員を受講させる社長自身である。なぜ、これほど重要な社員教育をそのような扱いにしてしまうのか。もし、セミナーの内容を確かめる時間がないのだとしたら、「内容が不明なものは受講させない」という明確な態度を取ることこそ、本来あるべき姿なのだ。

最低限、受講した他社に問い合わせて、そのセミナーが本当に効果を上げたのかどうかを確認する努力は必要だ。そもそもの根本的な誤りは、「社員教育は外部講師に任せるものだ」という社長自身の姿勢にある。社員教育の本質を見失ったままでは、真の成果は期待できない。

社員教育は、基本的に社内で行うべきものである。一部の例外を除いての話だ。その例外とは、例えば「技術教育」や「素養教育」といった専門知識や基礎力を養うものだ。しかし、「意識教育」や「能力教育」といったものは、外部に委ねるべき性質のものではない。これらは、会社の文化や目標に深く根ざしたものであり、社内で責任を持って行うことが求められる。

教育の中心は、自社の「実務」を通じて行うべきものだ。現場での経験や具体的な業務を通じて、社員の意識や能力を高めていくことが本質である。では、具体的にはどのように進めればよいのだろうか。以下にいくつかの基本的なアプローチを挙げる。

  1. 現場での指導
    上司や先輩社員が直接、業務の中で具体的な方法や考え方を指導する。実務を通じて教えることで、仕事のリアリティとスキルが同時に身につく。
  2. 課題を与える
    実際の業務に関連した課題を設定し、社員に自ら考え行動する機会を与える。課題を通じて、問題解決能力や創造性を育むことができる。
  3. フィードバックを重視
    実務の中で社員が行った仕事について、適切なタイミングでフィードバックを行う。具体的な指摘と改善案を提示することで、成長を促す。
  4. チーム内での学び合い
    チーム内で知識や経験を共有する場を設ける。社員同士が互いに教え合うことで、協調性と共感力も養われる。
  5. 日常の仕事に会社の理念を浸透させる
    会社の理念や目標を日常の業務に織り込み、社員がその重要性を実感しながら働ける環境を作る。

これらの方法を組み合わせ、実務を教育の主軸に据えることで、実践的で効果的な社員教育が可能になる。

社員教育の核となるのは、まさに「経営理念」にある。この経営理念を具体化した「経営計画書」こそが、社員にとっての「教科書」となるべきものだ。さらに、実際の業務や目標を詳細に示した「プロジェクト計画書」は、社員教育を補完する「副読本」の役割を果たす。そして、状況に応じて社長が直接発する「指令」は、社員が取り組むべき「宿題」に相当する。

こうした体系的な枠組みの中で、経営理念を中心に据え、計画書や指令を通じて社員に考えさせ、行動させることが、実践的で効果的な教育となる。この仕組みは、社員に経営者の考えを共有させると同時に、自律的な成長を促す土台となる。

これらの「講師」は言うまでもなく社長が務めるべきである。そして、重役や管理職は「助手」として、その役割を担う。日常業務の管理を通じて、社員を教育し、適切な指導を行っていくのだ。

この仕組みでは、社員教育が特別な場や時間に限定されるのではなく、日々の業務そのものが教育の場となる。社長が自らの言葉で経営理念や方針を伝え、重役や管理職がそれを実務に落とし込みながらサポートすることで、教育と業務が一体化し、実効性の高い学びの場が生まれる。

社長が精魂を込めて作り上げた経営計画書は、それ自体が社員の意識を大きく変え、動機づけを生む力を持つことを、私自身の数多くの経験が証明している。そして、その計画書に込められた方針を繰り返し強調する社長の熱意は、重役や管理職にまで波及し、彼らの意識や行動を大きく変革させる。

経営計画書は単なる文書ではなく、社長のビジョンや覚悟を反映した「経営の設計図」だ。これを基にした力強いメッセージが、組織全体を活性化し、社員一人ひとりの心に響くことで、企業全体の成長を牽引する原動力となる。

もう一つ重要な社員教育の方法として、「外に出すこと」が挙げられる。その「外」とは、主にお客様のところを指すのは言うまでもない。外に出るのは社長や営業担当者だけで十分という考えは間違いである。重役はもちろん、部課長、さらには可能であれば係長や主任といった下級管理職まで、そして監督職までもが外に出るべきなのだ。

お客様との接点を持つことで、現場の声やニーズを直接感じ取る経験は、どのポジションにとっても貴重だ。内部業務に従事する社員ほど、お客様の視点や外部の状況を肌で感じる機会を得ることで、自分の仕事の意義や役割を再認識する。そして、この経験が社員全体の視野を広げ、会社全体の活力につながるのである。

これらの人々は内部で重要な職務を担っているため、特に忙しい時期、例えば製造部門ならモデルチェンジや超繁忙期、経理部門なら決算期、総務部門なら新入社員教育が集中する四~五月といった時期は訪問を控えてもよい。しかし、それ以外の期間については、年間のお客様訪問スケジュールをあらかじめ計画し、確実に実施するべきである。

計画的なお客様訪問は、忙しい時期の影響を最小限に抑えつつ、社員全体が外部の視点を得る機会を確保する。これにより、業務の改善や新たなアイデアの着想、さらにお客様との信頼関係の強化を図ることができる。訪問を通じて得た経験や気づきは、日常業務に還元され、組織全体の成長につながるだろう。

開発部門は、むしろ「外に出ている時間のほうが多い」という状態を目指すべきだ。それが可能な状況をつくることで、現場の声を直接聞き、顧客のニーズや課題に即した製品やサービスの開発が可能になる。また、技術部門も同様に、お客様の意向を正確に把握するため、少なくとも業務時間の半分は外に出るべきだ。

その他の部門であっても、一週間に一日はお客様のところを訪れることが望ましい。これにより、各部門の社員が自分の仕事がどのようにお客様に影響を与えているのかを実感し、業務への責任感やモチベーションが高まる。全社員が外部との接点を持つことで、会社全体の視点が広がり、より顧客志向の組織を築くことができる。

実際に、こうした取り組みを実践しているI社では、一製造部長が週に三日もお客様のもとを訪れている。その結果、彼はお客様とのやり取りを通じて、これまで気づかずに続けていた顧客サービスの至らなさを痛感する場面が少なくない、と私に語ってくれた。

このような取り組みは、現場の問題点を直接知る機会を提供し、改善への具体的なアクションにつながる。顧客と対話する中で得られる実体験は、書類や報告書を通じた情報では得られない、生きた学びをもたらすのである。この製造部長のような姿勢が、組織全体のサービス向上や顧客満足度の向上に直結していることは間違いない。

お客様のもとを訪れる機会が増えれば増えるほど、顧客サービスの重要性への理解が深まる。そして、社長が掲げる顧客サービスの方針が現場で痛感されるようになり、その方針を積極的に推進する姿勢が社員の中に自然と芽生えていく。これこそが、真の意味での教育である。

つまり、社員にとっての本当の「教師」はお客様そのものだ。お客様の声や反応が、業務の改善や意識改革の直接的なきっかけとなる。現場で学び、顧客から教わる姿勢を持つことで、社員一人ひとりが自ら成長し、企業全体の力が高まるのである。

社員教育の基本について、この文章ではいくつかの大切なポイントが述べられています。特に、社内での実務を通じた教育やお客様との接点を教育の中心とするべきだという考え方が強調されています。以下、要点をまとめます。

社員教育の基本方針

  1. 教育は社内で行う
  • 社員教育は社外のセミナーや外部講師に頼らず、主に社内で行うべきものです。
  • セミナーも補助手段として活用することは可能ですが、外部講師の内容に頼り切るのではなく、教育方針を社内でしっかりと設定することが重要です。
  1. 経営理念と計画書が教材
  • 社員教育の中心には「経営理念」があり、それを元にした「経営計画書」や「プロジェクト計画書」が教科書として機能します。これを基に、社長が方針を伝え、社員の意識改革を図ります。
  • 社長の熱意と計画書へのこだわりが社員を動機づけ、意識を変える原動力となります。
  1. お客様のもとでの経験が最良の教育
  • 社員を外に出し、特にお客様のもとで経験を積むことが、真の教育になるとしています。営業だけでなく、製造や経理、総務といった各部門も外に出て顧客と接することで、会社の方針やサービスの在り方を理解しやすくなります。
  • 実際に顧客に会い、要望や反応を聞くことで、顧客サービスの重要性を実感し、社長の方針が身をもって理解されるようになります。

教育の具体的なアプローチ

  1. 現場での指導
  • 社長が教育の講師として、管理職を助手として現場での指導を行うことが基本です。
  • その都度、社長から出される指令が社員の課題であり、日々の業務を通じて学びが得られるようにします。
  1. 外部セミナーの活用に慎重
  • 社外のセミナーを利用する場合も、その内容や効果をしっかり確認し、必要に応じて受講することが求められます。セミナーに依存せず、社内教育が軸であるべきだと述べています。
  1. 顧客との接点を増やすスケジュール化
  • 各部門が定期的に顧客を訪問するスケジュールを組み、計画的に実施します。これにより、顧客の声や反応から学び、より良いサービスや改善に役立てます。

結論

社員教育とは「実務を通じた教育」であり、顧客のもとで実際に得られる経験が最も価値ある学びであるとしています。経営理念をもとにした社長の直接の指導や、現場での学びが社員教育の根幹となり、それによって本当の意味での成長が期待できるのです。

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