雑菌や汚れを含んだ土地ほど、そこには豊かな生命が育ちやすい。
反対に、あまりに澄んだ清水には、魚すら住みつくことができない。
この自然の原理と同じように、君子たる者もまた、
多少の垢(あか)や汚れ、すなわち世俗の複雑さや人の未熟さをも、
受け入れるだけの「含垢納汚(がんこうのうお)」の度量を持つべきである。
過度に潔癖で、独善的な「節操」や「理想」を振りかざすだけでは、
結果として人が離れ、社会の中で何も育てることができない。
真の清さとは、濁りに触れてもなお濁らず、
人を責めるのではなく包み込むような「広さ」に宿るのである。
原文とふりがな付き引用
地(ち)の穢(けが)れたるものは多(おお)く物(もの)を生(しょう)じ、
水(みず)の清(きよ)きは常(つね)に魚(うお)無(な)し。
故(ゆえ)に君子(くんし)は、当(まさ)に垢(あか)を含(ふく)み汚(けが)れを納(おさ)むるの量(りょう)を存(そん)すべく、
潔(けつ)を好(この)み独(ひと)り行(おこな)うの操(みさお)を持(じ)すべからず。
注釈(簡潔に)
- 垢(あか)・汚(けがれ):世俗的な未熟さ・弱さ・醜さ。人間の欠点を含む象徴。
- 含垢納汚(がんこうのうお):あえて「汚れ」や「欠点」を受け入れる度量。
- 潔を好む:清廉であることを極端に求める心。理想主義の極端。
- 独り行うの操:自分だけが正しいと信じて孤高を貫く姿勢。独善性の象徴。
パーマリンク案(英語スラッグ)
embrace-impurity-with-integrity
「汚れを包む器の中にこそ本当の清さがある」という本条の核心を表したスラッグです。
他の案:
- true-purity-accepts-impurity
- no-fish-in-pure-water
- wide-heart-grows-life
この章は、「理想」や「正義」が、人を遠ざける鋭さに変わってしまう危険を警告し、
それよりも「包容力」「寛容」「不完全な現実を抱える勇気」の方が、結果的に人や世界を育てる力になることを教えています。
1. 原文
地之穢者多生物、水之清者常無魚。故君子、當存含垢納汚之量。不可持好潔獨行之操。
2. 書き下し文
地の穢(けが)れたる者は多くの物を生じ、水の清きは常に魚無し。
故に君子は、まさに垢(あか)を含み汚(けがれ)を納(い)るるの量(りょう)を存すべく、潔(けつ)を好み独(ひと)り行(おこな)うの操(みさお)を持(じ)すべからず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 地之穢者多生物、水之清者常無魚。
→ 土が多少汚れているところには多くの生き物が生まれ、水があまりに澄み切っていると魚さえ住みつかないものだ。 - 故君子、當存含垢納汚之量。
→ だからこそ徳ある人(君子)は、多少の汚れや不完全さを受け入れるような寛容さ・包容力を持たなければならない。 - 不可持好潔獨行之操。
→ あまりにも潔癖で、人と交わらずに独善的に生きるような態度をとってはならない。
4. 用語解説
- 穢(けがれ):物理的な汚れだけでなく、俗的・不完全なものを含む。
- 垢(あか)/汚(けがれ):人間関係における煩わしさや、現実の混沌。
- 含垢納汚(がんこうのうお):他者の欠点や過ちを受け入れる度量。
- 好潔(こうけつ):潔癖すぎる性格。清らかさを求めすぎる。
- 独行(どっこう):他者と交わらず、独りで信念を通すこと。
- 操(みさお):信念、節操、矜持。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
少し汚れた土地の方が多くの生命を育むように、清らかすぎる水には魚も棲まない。
同じように、徳のある人物は、少々の欠点や汚れを受け入れるような寛容さを持つべきであり、
自分だけが清く正しいという潔癖な態度を貫くことは避けるべきである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「完全主義を捨て、寛容な心を持つことが真の成熟」であることを教えています。
- 現実は矛盾や不完全さに満ちている。
- その中で人を生かし、組織を動かすには、“潔癖”よりも“包容力”が必要。
- 「清さ」にこだわりすぎると孤立し、やがて何も育たない状況に陥る。
- 人や状況の“不完全さ”を含んでなお、関係性や成果を築いていく姿勢が求められる。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ リーダーの条件は「完璧さ」ではなく「受容力」
理想を貫きすぎるリーダーは、部下や顧客を圧迫してしまう。
多少の矛盾や未熟を受け止め、共に成長できる器が、信頼される人材の条件。
▪ 完全性を求めると、イノベーションが止まる
細部まで完璧に整わないと動き出せない組織は、スピードと柔軟性を失う。
むしろ“垢と汚”を含んだ実験・仮説・挑戦を許容する文化が成果を生む。
▪ 個人の道徳・信念も「柔らかくあるべし」
清く正しくあろうとする志は大切だが、それが**“他者を排除する理由”になってはいけない。**
独善的な倫理観は、協働や共感を壊すリスクがある。
8. ビジネス用の心得タイトル
「潔癖は孤立を招く──“垢を含む心”が人と成果を育てる」
この章句は、現代社会で忘れられがちな「柔軟で寛容な倫理観」を思い出させてくれる珠玉の言葉です。
清く在りたいという志を持ちつつも、現実と人間をまるごと受け入れる度量があってこそ、真の君子、真のリーダーになれるのです。
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