孟子は、求める努力をすることで得られるものと、努力しても得られないものがあると述べている。自分の本性に根ざすもの、例えば仁義礼智といった「天爵」のようなものは、求めて努力することによって得ることができる。しかし、それに反して、外部に存在する富貴や栄誉といった「人爵」のようなものは、手段や方法に加え、運命の影響を受けるため、努力しても必ずしも得られるとは限らない。
「孟子曰(いわ)く、求(もと)むれば則(すなわ)ち之(これ)を得、舎(す)つれば則ち之(これ)を失う。是れ求むること得るに益(えき)有るなり。我に在(あ)る者を求むればなり。之を求むるに道(どう)有り。之を得るに命(めい)有り。是れ求むること得るに益無きなり。外(ほか)に在(あ)る者を求むればなり。」
解説:
- 求むれば得る:自分の本性に従う、仁義礼智などの内面的な価値を求めることで、努力によって得ることができる。
- 外にある者を求むれば:富や栄誉など、外的なものを求める場合、それには適切な手段(道)と運命(命)が必要で、努力しても必ずしも得られるとは限らない。
- 道(どう):求めるにはそれに適した方法や手段が存在する。自分の内面を育てるための努力と、外的なものを得るための手段には違いがある。
- 命(めい):外的なものを得るには、運命に左右される部分があるため、努力だけでは得られないこともある。
『孟子』 尽心章句(上)より
1. 原文
孟子曰、求則得之、舍則失之。是求有益於得也。求在我者也。求之有道、得之有命。是求無益於得也。求在外者也。
2. 書き下し文
孟子曰(いわ)く、求(もと)むれば則(すなわ)ち之(これ)を得(え)、舎(す)つれば則ち之を失(うしな)う。是(こ)れ求むること、得(う)るに益(えき)有(あ)るなり。我(われ)に在(あ)る者を求むればなり。之を求むるに道(みち)有り、之を得るに命(めい)有り。是れ求むること、得るに益無(な)きなり。外(そと)に在る者を求むればなり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「求則得之、舍則失之」
→ 求めれば手に入り、放棄すれば失う。 - 「是求有益於得也、求在我者也」
→ これは「得ることに意味がある求め方」であり、自分自身の内にあるものを求めているからである。 - 「求之有道、得之有命」
→ 求め方には“道”があり、得るかどうかは“命”にかかっている。 - 「是求無益於得也、求在外者也」
→ これは「得ることに意味のない求め方」であり、自分の外側にあるものを求めているからである。
4. 用語解説
- 求(もとむ):追求する、手に入れようとすること。
- 我に在る者:自己の中にあるもの。徳・誠・努力・判断など。
- 外に在る者:外的要因(他人の評価・財産・地位など)。
- 道(みち):正しい方法、道理、倫理的手段。
- 命(めい):天命・結果・成否を決定づける自然の摂理。
- 益(えき)有る/無き:得ようとすることが成果につながる(有効)/つながらない(無意味)こと。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう述べた:
「人は、自分の内面にあるもの(努力・徳・信念)を求めれば、それを得ることができる。放棄すれば、当然それは失われる。これは“求めること”が“得ること”に意味ある結果をもたらす場合である。
このような求めは、自分の内面=“我に在る者”を対象としているからだ。
しかし、自分の外にあるものを求めた場合は、たとえ“道”に則って求めたとしても、最終的に得られるかどうかは“命”によるものであり、“得ること”に確かな意味は持たない。すなわち、それは“得ることに益なき求め”なのである。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「求める対象の選び方」が人間の努力と成果の関係を大きく左右することを説いたものです。
- 内面にあるものを求めよ
人の本質的な成長や幸福は、自分の内にある「徳・努力・誠実・判断力」などを鍛えることによってもたらされる。 - 外的成果を求めすぎると迷う
地位・名声・他者の評価といった“外にあるもの”を追い求めても、得られるかどうかは運次第。そこに本当の価値や成果はない。 - 「求むるに道あり」=正しい方法で努力することが前提
努力すれば何でも得られるとは言わない。だが、自らの内面を磨く努力は、確実に意味ある成果(=得ること)をもたらす。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
「我に在る者を求む」=自己研鑽の姿勢
- 能力・判断力・誠実さ・リーダーシップといった“内面的資質”への投資は、確実に価値を生む。
- スキルや資格取得だけでなく、思考習慣や態度なども含む“人間力”にこそ注力すべき。
「外に在る者を求む」=評価や結果に一喜一憂しすぎる危うさ
- 昇進・報酬・承認といった他人基準の成果は、求めすぎると主導権を他者に渡してしまう。
- 組織で働く上でも、「評価されるかどうか」よりも「自分が正しくあろうとすること」が継続可能な価値。
「求之有道、得之有命」=行動は選べるが、結果は選べない
- 採用面接、プレゼン、プロジェクト提案など、最善を尽くしても結果が出ないこともある。それでも「正しい方法」で臨んだなら、それはすでに“得ている”。
- 成果が出なかったとしても、自らの“道”を貫くことで、信頼・経験・学びは蓄積される。
8. ビジネス用の心得タイトル
「求めるのは“内”か“外”か──道を尽くし、命を受ける働き方」
この章句は、現代においても**「努力の方向性を誤るな」**という非常に本質的なメッセージを伝えています。
「得られるかどうか」にばかり囚われるのではなく、「求める対象は自分の中にあるか?」という問いを持ち続けることが、長期的な成功と納得のあるキャリア形成につながるはずです。
コメント