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能率病が会社をつぶす

能率は企業の業績を向上させる強力な手段であることに疑いの余地はない。

戦後、アメリカで発展した能率技法が次々と紹介され、それを導入することで一定の成果が得られたのも事実だ。しかし、その結果として能率の力が過大評価され、限界への理解が欠けたまま、「能率を向上させさえすれば会社の業績は向上する」といった考えが広く浸透してしまったことは、企業にとって大きな不幸と言えるだろう。

さらに、国や県の行政指導が能率向上に重点を置いている状況では、企業経営者がその考えにとらわれてしまうのも無理はない。「能率第一主義」をあたかも「経営の正道」であるかのように企業に押し付け、そして今もそれを売り続ける専門家たちに対して、個人的な恨みは全くないものの、無限の違和感と批判の念を抱かざるを得ない。

能率を売ること自体が悪いわけではない。大切なのは、能率を正しく評価し、その役割とともに限界をも理解させ、誤った使い方をしないように指導してもらうことだ。

作業効率が向上すれば利益が拡大するのは、他の条件が変化しないか、変化してもごくわずかである場合に限られる。

能率以外の条件が大きく変化し、その結果として収益の減少や原価の上昇が、能率向上による原価低下を上回る場合、会社全体の利益はむしろ減少することになる。

こんな当たり前の理屈をなぜ誰も教えないのか。専門家とは、自分の専門分野だけに固執し、それぞれが勝手に主張を繰り返しているにすぎないのだ。

そのため、さまざまな能率やマネジメント手法の間に深い関連性はほとんど見られない。ましてや、それらを企業の業績向上に結びつけるための総合的な視点や考え方など、探してもほとんど存在しないのが現実だ。

しかし、企業経営とは、利用可能なあらゆる資源と活動を統合した結果として生まれる利益や損失に他ならない。この基本を理解しない者に、経営を論じる資格はない。いまや、能率だけに依存していられる時代は終わったのだ。

まず第一に挙げられるのが、売価の値下がりだ。多量生産品は、時間の経過とともに価格が下がり続ける。企業間の競争がある限り、この傾向は避けられない。そして、その圧力は親企業からの値下げ要求となって下流企業に押し寄せる。その値下げ分はすべて付加価値の減少に直結するため、企業にとって大きな負担となる。

第二に挙げられるのは、賃金と経費の増大だ。人手不足やインフレによる賃金の上昇は、中小企業において年率10%以上に達することも珍しくなく、10年も経たないうちに賃金が3倍以上になるという驚異的な勢いで進んでいる。

インフレは賃金だけでなく、経費の増大も引き起こす。こうして、製品一単位あたりの付加価値は減少し続ける一方で、賃金や経費は増加の一途をたどる。これらを能率向上だけで補うことは、もはや現実的ではなくなってしまったのだ。

こうして、S社は必死に能率向上を図る努力を続けながらも、業績は低迷し、赤字が拡大の一途をたどった。その勢いは加速度を増し、ついには倒産へと突き進む状況となっていた。

私は社長に対して上記の説明を行い、さらに製品分析によって明らかになった付加価値と賃率のデータを提示し、状況を具体的に示すことで理解を得ることができた。

倒産の危機に直面していたS社は、現在では驚くべき高収益を実現する企業へと生まれ変わっている。その変革をどのように達成したのかについては、次章で詳しく紹介することとしよう。

それは決して奇跡でもなければ、他社には真似できないような離れ業を成し遂げたわけでもない。どの会社でもやろうと思えばできる、平凡な真理を着実に実行に移しただけのことだ。この事実こそが、私たちに勇気と希望を与えてくれる。

「能率病」が会社を潰す理由とその克服

戦後、能率向上が企業経営において大きな武器として評価され、アメリカからも様々な能率技法が紹介されてきました。しかし、その「能率第一主義」への過信が、企業をむしろ危機に追いやっていることに気づくべきです。効率化に過度に頼る「能率病」は、企業にとって利益増加の幻想を抱かせ、根本的な経営判断を見誤らせてしまいます。

能率が生み出す利益は、外部環境が一定である場合にのみ成り立ちます。しかし実際には、競争の激化による価格下落やインフレに伴う賃金や経費の上昇が企業に押し寄せています。中小企業においては、年率10%以上の賃金上昇が重くのしかかり、もはや単純な能率向上だけではカバーできなくなっているのです。

S社も、こうした能率至上主義の罠に陥り、効率化の努力にもかかわらず業績が悪化し、倒産の危機に直面していました。しかし、私は社長に対して製品分析を用い、付加価値の低下や賃率上昇の現実を示しました。これにより、能率向上だけでの経営改善には限界があることを認識してもらうことができました。

結果として、S社は単なる合理化を超えた、根本的な経営戦略の見直しを行いました。その取り組みは決して特殊なものではなく、どの企業でも実行可能な「平凡な真理」に基づくものです。このS社の変革は、私たちにとって「能率病」を克服し、真に持続可能な経営へとシフトする道筋を示してくれます。

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