優れた会社の社長には共通の考え方や行動があり、業種や会社の規模を超越している。
経済的価値の創造原理の5つのポイント
この共通する考え方は「経済的価値の創造原理」として次の五つに集約される。
- 怠慢追放
- 成果はお客様から得られる
- スクラップ・アンド・ビルド
- 集中
- 動機づけ
1. 怠慢追放
社長の怠慢は大きく3つに分けられる。
決定の遅れ
社長の役割は決定を下すことであり、決定が会社の運命を左右する。
躊躇したり、周囲をうかがったり、後方から指示を出したり、民主的な経営を心掛けたりと、社長にとって必要のないことだ。
決断力のない社長ほど厄介な存在はない。社長が決められないと、会社全体が足止めをくらってしまうからだ。
誤りを恐れるのではなく、誤りが発生した場合はすぐに修正し、素早い決断を行うことが重要である。
決断に「誤り」はつきものだ。誤りを恐れていては何も成し遂げられない。失敗しない社長など存在しない。
名社長の条件は、誤りを犯さないことではなく、誤りに気づく力と、それを迅速に修正する能力にある。
誤りを恐れて決断が遅れることこそが真に恐ろしい。機会を逃し、結果として会社を危機に追い込むリスクがあるからだ。
お客様のもとへ行かない
お客様と直接接しない社長は、会社が求められている価値を見失う可能性がある。
会社の数字を見ない
三つ目に挙げるべきは、「会社の数字」を見ない社長だ。これは許されざる怠慢である。数字を見ずに、一体何をどうしようというのか、という話になる。
社長は「数字をつくりだす」存在であり、会社の数字を深く理解し、それを経営に活用することが求められる。
会社の数字なんて、足し算引き算、掛け算割り算という基本的な算数にすぎない。
「どんな数字を見なければならないのかが分からない」というのは、結局数字を見ていないのと同じことだ。分からないなら、勉強して理解すればいいだけの話である。
残念なことに、数パーセントの社長は数字を全く理解していないという状況にあるが、そのような社長は自分の責任をどう考えているのだろうか。
2. 成果はお客様から得られる
会社の収益は、単なる内部の努力から生まれるのではなく、お客様の要求を満たすことで初めて得られるものだ。
経済的価値は外部、すなわちお客様の中に存在し、企業のすべての活動はお客様のニーズを軸に展開されるべきである。
合理化や効率化、品質向上といったものは重要ではあるが、それはあくまで内部管理が優れていることの証にすぎない。
これだけでは優秀な企業であるとは限らず、収益性の低い商品や弱い販売力では、良い業績は望めない。企業が生き続けるためには、存続に必要な収益を確保することが不可欠なのだ。
この、まったく当たり前のことが驚くほど理解されていない場合が多い。
収益は、ただ一生懸命努力するだけで得られるものではなく、商品が売れて初めて手に入るものなのだ。
収益は会社の内部には存在しない。内部にあるのは費用だけであり、収益は会社の外部、すなわちお客様のもとにあるのだ。
収益はお客様の要求を満たすことによってのみ得られるものであり、他のどんな手段を用いても手に入れることはできない。
したがって、企業のすべての思考と方針は、お客様の要求を出発点とし、最終的にはそこに戻ってくるべきだ。この認識に基づいた活動こそが、会社の存続を支える唯一の道である。
3. スクラップ・アンド・ビルド
市場の変化やお客様のニーズに迅速に対応し、不要となったものを廃し、新たな事業や商品を取り入れる必要がある
この「スクラップ・アンド・ビルド」の原則によって、会社は常に発展の機会を得ることができる。
市場の変化は激しく、お客様の要求もどんどん変わっていく。
その結果、私たちの事業や商品は、次第に市場やお客様のニーズと合わなくなっていく。過去に高い収益をもたらした商品も、時が経つにつれ、時には急速に収益力を失っていくものだ。
一方で、新しい商品やサービスも次々と生まれてくる。その中にはお客様の要求に合うものもあれば、合わないものもある。最終的に生き残るのは、お客様の要求に合致したものだけである。
だからこそ、どんな会社であっても新しい商品を開発し、お客様の評価を受けることが不可欠なのだ。
これこそが「スクラップ・アンド・ビルド」であり、その実行方法次第で会社の運命が決まってしまう。まさに厳しい競争社会の中で、社長が決断を先延ばしにすれば、すぐに取り残されてしまうのだ。
つまり、逆に考えれば、我が社が発展するための機会は増えているということだ。その機会をつかめるかどうかは、社長がどれだけ足を運び、お客様のもとで直接その要求を聞き出せるかにかかっている。
4. 集中
企業の資源(人・物・金・時間)は限られているが、それに対してお客様の要求は無限である。
したがって、どれほどの巨大企業であっても、お客様のすべての要求を満たすことは最初から不可能な話だ。すべての要求に応えようとすれば、かえって何一つ満たせなくなってしまう。
つまり、限られた資源しか持たない企業のあり方は自ずと定まってくる。お客様の要求の中でも特定の分野に絞り、その範囲で多様なニーズに応えることが求められるのだ。
事業をお客様の要求の特定部分に絞り、そこに我が社の資源と努力を集中することが「集中の原理」である。
古い諺にも「二兎を追う者は一兎をも得ず」「二足の草鞋を履くべからず」とあるように、これは分散の危険を戒めた教えだ。
5. 動機づけ
この原理そのものは言わずもがなであり、説明の必要もないだろう。従来のマネジメントの分野でもこれほど多く論じられてきたテーマはないし、それほど実践されていないテーマもまた珍しい。
「社員にどうやってやる気を起こさせるか」といった低次元の議論が多いが、こうした考え方自体が根本的に間違っている。
最も重要なのは社長自身のモチベーションだ。これがなければ、社員のやる気をいくら考えても意味がない。
社長のモチベーションは、自らが自発的に高めていかなければならない。
その最良の方法は、社長自らが直接お客様を訪問することにある。お客様からの刺激こそが、社長にとって最も大きな動機づけとなる。
これを踏まえ、社長自らが経営計画を立てることが重要だ。計画を練り上げる過程で次々と新たな動機が生まれ、自然とやる気が引き出されていく。経営計画ほど強力な動機づけは他にない。
さらに、経営計画発表会を通じて全社員が動機づけられ、社長のリーダーシップのもとで社員全体が変化していく。
しかし、最大の動機づけを受けるのは、経営計画を自ら作成した社長自身だ。その証拠に、多くの社長こう言うのだ――「身体が三つほしい」と。
実例での実証
これらの原理は、優秀な企業に共通する行動として経済的成果を上げる基盤となる。
次章では、これらの原則がどのように企業の成長に寄与しているのか、具体的な実例を通じて見ていく。
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