企業の使命は「経済的価値の創造」にある。
経済的価値とは「富」のことであり、この富を創造することで企業は社会に貢献している。さらに、富の創造過程において「雇用を生み出す」ことも企業の重要な役割である。
これこそが社会の最も基本的な要請である。国政の基本が国民生活の安定と向上にあることは言うまでもなく、不況対策や失業対策が内政の最大課題となっている。
ケインズ理論は、不況対策としての雇用創出を主なテーマとしている。「不況対策として政府は公共事業を起こし、それによって雇用を創出すべきだ。そのためには、政府は財政力を持たなければならない。そして財政力を確保するために、金本位制を否定し、金の制約から解放されるべきだ」と主張している。
これによって不況は克服された。これがケインズ理論の威力である。しかしその反面、「インフレ」という新たな問題ももたらされてしまった。
現代では、機械化の進展により公共事業による雇用増加は期待しづらく、インフレだけがフランケンシュタイン博士の怪物のように暴れ回り、世界中を苦しめている。
このような状況下で、企業は経済的価値を創出し、ベースアップに耐えながら事業経営を続けていかなければならない。その結果、企業の存在価値と重要性はますます高まっていく。
バブル経済の教訓:「虚」の経済から「実」の経済へ
しかしながら、経済政策の不手際、むしろ不在によって平成初期に「バブル経済」という異形の存在が生まれ、一時はこのバブルが猛威を振るった。バブルに乗らない企業は「阿呆」と呼ばれるほどで、借金をして不動産や株に投資すれば、ほとんど労せずして巨額の利益を得られる状況だったからである。
しかし、結局のところバブルは「虚」の経済に過ぎない。なぜなら、バブルは本質的に経済的価値を生み出すものではないからである。
「虚」であるがゆえに、バブルは長続きするはずがなく、瞬く間に崩壊した。「実」の借金による「虚」の投資は「虚」が消え去り、「実」の借金だけが残った。この経験は、企業経営者にとって非常に貴重な教訓といえる。
それは、「自らの努力を伴わない『虚』の経済は極めて危険であり、長期的な企業の存続と繁栄を実現するのは、地道な努力を続けることで生み出される経済的価値の創造である」という教訓である。
ピンチをチャンスに変えた例:第一次オイルショック
第一次オイルショックが、日本とドイツを叩くためのアメリカの策略であったことは、今や広く知られている。
経済の根幹である石油の価格が大暴騰し、これに伴うインフレが発生したことで、日本経済は深刻な苦境に追い込まれた。
しかし、日本人は見事だった。この大ピンチを、死にもの狂いの努力で乗り越え、その結果が日本経済の大躍進の基盤となったのである。
企業の長期繁栄に必要な姿勢:変化に応じる柔軟性
一方でアメリカは、政府の経済戦略により低価格の石油を供給され、日本やドイツよりはるかに有利な立場にあったにもかかわらず、それを「虚」である大型自動車の生産継続に費やし、利益の追求に走ってしまった。
その結果、エネルギー効率の高い自動車を求める顧客の反発を招き、多くが日本車に乗り換えることとなり、アメリカの自動車メーカーは没落の道をたどることになった。
その後、1985年頃からは、アメリカが誇る巨大優良企業であったゼネラル・モーターズ、シアーズ・ローバック、IBMが揃って大ピンチに立たされる事態にまで至った。(詳細については『社長の姿勢』を参照されたい)
これらの企業はどれも、自社の利益が大きい大型・高級品に固執し、時代の変化や技術の進歩、顧客のニーズの変化に気づかなかったか、気づいていてもそれに合わせて自己変革を行わなかったために、このような状況に陥ったのである。
経済的価値の創造という本来の任務を果たす
企業が経済的価値の創造という本来の任務を果たし、長期的な繁栄を実現するためには、たゆまぬ努力が求められる
客観情勢の変化に対する正しい姿勢と適切な対応こそが重要であり、その姿勢と対応次第でピンチがチャンスに変わり、逆にチャンスがピンチに転じることもある。
正しい姿勢と対応とは、「経済的成果を達成して社会に富をもたらす」という基本姿勢に基づき、既に『社長の姿勢』で述べたような事業経営を行うことである。
その事業経営とは、繰り返しになるが、「変転する市場と顧客の要求を見極め、それに合わせて自社を変革する」ことである。
経営学と称しながら実際には内部管理に偏重している
しかし、この点を理解していない会社は多い。
その一因は、「事業経営とは何か」を教えてくれる人や文献が非常に少ないことにある。さらに、事業経営を誤らせるような思想や文献、指導が多く存在することも一因だ。
その原因は、経営学と称しながら実際には内部管理に偏重しているものにある。内部管理は事業経営に必要な要素ではあるが、それ自体が事業活動ではない。
これらのものは事業活動には全く触れず、そもそも関心さえ持っていないように見える。事業経営に触れない「経営学」など存在するはずがない。この点を明確にしなければならない。
事業とは「市場活動」である。市場にはお客様と競合会社が存在し、事業とは競合会社と顧客を奪い合う活動である。この認識が基本であり、次にその認識について述べることとする。
企業の本質的な任務は、経済的価値、すなわち「富」を創造することにある。企業は、富を生み出すことで社会に貢献し、その過程で「雇用」を創出して経済を支える。
こうした経済的価値の創出は、不況対策や雇用対策として国政が目指す国民生活の安定と向上にも貢献するものである。
コメント