北周と北斉の最後の皇帝は、ともに国を滅ぼした。だがその末路の原因には違いがあった。
唐の太宗は、北斉の後主が贅沢に溺れ、倉庫の財を使い果たし、過酷な課税で民を苦しめた様子を「自分の肉を喰らうが如し」と評した。
やがて肉が尽きれば死ぬのは当然。民を削る政治は、いずれ国そのものを喰い潰す。
さらに魏徴は、北斉の後主と北周の天元皇帝の差をこう指摘した。
後主は気弱で統制を欠き、指令が乱れ飛ぶ中で国が崩壊。
一方、天元皇帝は強硬で荒々しく、威厳も恩恵も一手に握り、結果として国を滅ぼした責任もすべて自らにあった。
政治の誤りに民を巻き込めば、いずれは統治者自身にその報いが返る。
強さを誤れば独裁となり、弱さを誤れば混乱となる。どちらも国を滅ぼす道である。
■引用(ふりがな付き)
「常(つね)に謂(い)う、此(こ)れ人(ひと)自(みずか)ら其(その)肉(にく)を食(くら)うが如(ごと)し。肉(にく)尽(つ)きれば必(かなら)ず死(し)す。人君(じんくん)賦斂(ふれん)已(や)まずんば、百姓(ひゃくせい)疲(つか)れ、其(その)君(きみ)も亦(また)亡(ほろ)ぶ」
■注釈
- 自食其肉(じしょくそのにく):自分の身体を喰らうような政治。国の基盤(民)を削って維持しようとする愚行のたとえ。
- 賦斂(ふれん):課税・徴収のこと。過剰な賦斂は民の生活を破壊する。
- 政出多門(せいしゅつたもん):政策が各所から出され、国家運営に統一がない状態。
- 威福在己(いふくざいき):威厳も恩恵も一人の君主に集中していること。専制を意味する。
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