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勝ったあとの油断こそが最大の敗因

太宗は、「天下の平定は成し遂げたが、守り方を誤れば功績も長続きしない」と語った。
その実例として、秦の始皇帝を挙げ、六国を併せた偉業をなしながら、その晩年には奢りや暴政により天下を失ったことを「戒め」とした。

太宗はまた、臣下たちに対し「公(こう)を念じて私(し)を忘れよ」と命じた。
すなわち、自身の欲や立場に固執せず、大義と正道に従えば、名声も地位も末永く保てる――と説いたのである。

これに魏徴は、「戦いに勝つことよりも、勝利を保ち続けることの方が難しい」と応じた。
そして、太宗が将来を見通し、安泰の時でも警戒を忘れず、道徳と功績が広く行きわたっている今の姿勢を貫けば、国家が傾くことはないと断言した。

勝つことは始まりに過ぎない。
本当の治政とは、その成果を慢心なく守り続け、時を超えて伝えていく志にある。


原文(ふりがな付き)

貞觀(じょうがん)十四年、太宗(たいそう)、侍臣(じしん)に謂(い)いて曰(いわ)く、
「朕(ちん)、天下(てんか)を定(さだ)むるは、雖(いえど)も其(そ)の事(こと)を有(ゆう)す。
然(しか)れども守(まも)るに図(はかりごと)を失(うしな)えば、功業(こうぎょう)も亦(また)復(ま)た保(たも)ち難(がた)し。

秦始皇(しんしこう)は初(はじ)めて亦(また)六国(ろっこく)を併(あわ)せ、四海(しかい)を據有(きょゆう)す。
然(しか)れども末年(まつねん)には善(よ)く守(まも)ること能(あた)わず、実(まこと)に以(もっ)て誡(いまし)めと為(な)すべし。

公等(こうとう)、宜(よろ)しく公(こう)を念(おも)い私(し)を忘(わす)るべし。
則(すなわ)ち栄名(えいめい)と高位(こうい)は、以(もっ)て其(そ)の美(び)を克(まっと)うす可(べ)し」

魏徵(ぎちょう)、對(こた)えて曰(いわ)く、
「臣(しん)、之(これ)を聞(き)くに、戦(たたか)うは易(やす)く、守(まも)るは難(かた)しと。
陛下(へいか)は深(ふか)く思慮(しりょ)し、安(やす)きにして危(あや)うきを忘(わす)れず。
功業(こうぎょう)は既(すで)に彰(あき)らかに、徳(とく)も亦(また)復(ま)た洽(いきわた)れり。
恒(つね)に此(これ)を以(もっ)て政(まつりごと)と為(な)さば、宗社(そうしゃ)傾敗(けいはい)するに由(よし)無し」


注釈

  • 定天下(ていてんか):国家の混乱を収め、平和を確立すること。
  • 功業(こうぎょう):成し遂げた功績や事業。
  • 宗社(そうしゃ):国家の存続と安泰を象徴する祖先と土地神への祭祀、ひいては国家そのもの。
  • 守之失図(しゅのしっとう):成果を維持するための正しい道筋や計画を見誤ること。
  • 安不忘危(あんふぼうき):安泰な時でも、常に危機を想定して慎む心。

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