孔子の門人・樊遅(はんち)が、「知」と「仁」について孔子に問うたとき、孔子は次のように答えた。
「“知”とは、人としてなすべき道をしっかりと行い、
神や霊といった目に見えない存在を敬う一方で、そこに頼りすぎないこと。」
また、「仁とは何か」と問われると、こうも答えた。
「人が嫌がる難しいことに自ら先んじて取り組み、
その見返りや報酬は後回しとし、それほど関心を持たないこと。
それが“仁”である。」
ここで孔子が強調しているのは、人としての本分と、主体的に困難に立ち向かう心の姿勢だ。
知者とは、現実から目をそらさず、「人間としての義務」に誠実に向き合い、霊的なものには敬意を払いながらも、過剰に依存せず、自立して生きようとする人。
仁者とは、他人が避ける苦労を進んで引き受け、見返りにこだわらず、無私の心で行動する人である。
信仰も利益も否定しないが、まずは自分のやるべきことをやる――
これが、孔子の説く知と仁の根本である。
ふりがな付き原文
樊遅(はんち)、知(ち)を問(と)う。
子(し)曰(いわ)く、民(たみ)の義(ぎ)を務(つと)め、
鬼神(きしん)を敬(けい)して之(これ)を遠(とお)ざく。知と謂(い)うべし。
仁(じん)を問う。曰(いわ)く、仁者(じんしゃ)は難(かた)きを先(さき)にして獲(え)るを後(のち)にす。仁と謂うべし。
注釈
- 知(ち):ここでは「賢さ」「分別」「見識」としての「知」。単なる知識ではなく、人としての判断力を含む。
- 仁(じん):思いやり・無私・献身を含む、孔子の中核的な徳の概念。
- 民の義(たみのぎ):人として果たすべき社会的・倫理的な責務。
- 鬼神(きしん)を敬して之を遠ざく:神仏を敬いはするが、過信・依存せず、自らの力で行動すべきという戒め。
- 先難後獲(せんなんこうかく):苦労を引き受け、利益や報酬は後に回すという態度。
コメント