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📜 引用原文(日本語訳)
アルジュナはたずねた。
「それでは、クリシュナ。人間は何に命じられて悪を行うのか。
望みもしないのに。まるで力ずくで駆り立てられたように。」
(『バガヴァッド・ギーター』第3章 第36節)
🔍 逐語訳
「アルジュナは言った。
『おお、ヴァールシャニ(クリシュナ)よ。
人は何に衝き動かされて、まるで力づくで(balād iva)悪(pāpaṃ)を行うのか?
自ら望んでいないにもかかわらず(anicchann api)』」
🧩 用語解説
- 悪(pāpa):道徳的・精神的に間違った行為。罪。
- 望まない(anicchann):理性では避けたいと願っている状態。
- 力ずくで(balād iva):まるで外的あるいは内的な強制力に引きずられるように。
- 命じられて(niyojitaḥ):何かの力によって強制的に行動させられるような感覚。
- ヴァールシャニ(Vārṣṇeya):クリシュナの呼称。ヴリシュニ族出身を示す。
🗣 全体の現代語訳(まとめ)
アルジュナは、人間が理性では望まないと分かっていても、
何かに突き動かされて悪を行ってしまうという矛盾を問いかけます。
まるで外から強制されたような、抑えきれない衝動――
それはいったい何なのか? と彼はクリシュナに尋ねているのです。
これは、人間の内面に潜む「弱さ」や「業(ごう)」への根源的な問いです。
💡 解釈と現代的意義
この問いは、倫理学・心理学・宗教における普遍的な問題提起でもあります。
「なぜ人は悪いとわかっていても、そうしてしまうのか?」
アルジュナのこの疑問は、私たちの日常にも直結しています。
- 夜更かししたくないのにスマホを見続けてしまう
- 感情的になりたくないのに怒ってしまう
- 嘘をつきたくないのに、ついてしまう
この節は、次に登場する「欲望と怒り(カーマとクローダ)」という心の内なる敵を導入する重要な問いとなっています。
🏢 ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
人間理解とマネジメント | 部下や同僚が「なぜそんなことを?」と思う行動にも、衝動や感情の影響がある。規則ではなく共感と対話が必要。 |
セルフマネジメント | 自分のミスや怠惰の原因を「意志の弱さ」と片づけず、内なる衝動に気づくことで対策が立てられる。 |
意思決定とリスク回避 | 理性だけでは判断ミスは防げない。感情や欲望の介入を前提とした仕組み作りが重要(チェック機能・相談体制など)。 |
失敗からの成長 | 「なぜ失敗したか」を自省する際、「悪いと分かっていたのに」の背景にある衝動を探ることで、再発防止につながる。 |
🧠 心得まとめ
「理性に反して動く自分を知ることが、成長の第一歩である」
誰もが「したくないことをしてしまう」。
それは怠惰でも無能でもない。
人の内にある“衝動”と“無知”のせいである。
それに気づかずに責め続けても、変化は起きない。
まずは、何に突き動かされているのかを見極めること。
それが自由と成長への始まりである。
この節の問いに対して、クリシュナは次節で明確に答えます。
「欲望こそが、怒りとともに悪の源であり、内なる敵である」と。
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